悪徳刑事に現実を教えて差し上げますわ!
私の放った一喝に、刑事は伸ばしかけた手を止め、忌々しそうに顔を歪めました。その目は法を守る者のそれではなく、獲物を追い詰めたハイエナのような、卑屈で濁った色をしています。
「……なんだ、お嬢ちゃん。公務執行妨害でぶち込まれたいのか?」
品性のかけらもない刑事は鼻を鳴らし、懐から取り出したタバコを火もつけずに口にくわえました。
「公務? どの口が仰いますの。被害者を恫喝し、加害者の言い分を鵜呑みにし、あまつさえ正当な理由もなく家宅捜索を仄めかす。これがあなたの仰る『公務』ですの?」
「ケッ、ガキが法律を語るんじゃねえよ。この屋敷にはな、元から良からぬ噂があるんだ。不法な魔石の所持や、それに基づいた危険なゴーレムの秘匿。俺たちは市民の安全を守るために、その『種』を摘まにゃならんのだわ」
刑事は周囲の部下たちに顎で指示を出し、強引に奥の部屋へと踏み込もうとします。小雪さんは恐怖に肩を震わせ、エレナさんは拳を握りしめて今にも飛びかからんばかりの形相です。ですが、わたくしはそんな彼らの背中に向けて、鈴の音のような笑みをこぼしました。
「ふふ……。市民の安全、ですのね。それは重畳。でしたら、この『証拠』も、市民の安全を守るために役立てていただけますわよね?」
私は襲撃前から起動していた魔道具の透明化を解き、彼らに見えるように示します。
「あ? なんだそのおもちゃは」
「ハァ〜〜〜本当に貴方は刑事ですの?襲撃した賊共でさえ、一眼見て察しましたのに……」
せっかくの見せ場を相手の無知っぷりで台無しにされて、思わず長〜いため息をついてしまう。
「物知らずの貴方にも教えて差し上げましょう。これは冒険者ギルド御用達、改竄不能の浮遊型の記録端末ですわ。彼らが窓を破って侵入してから今この瞬間まで、記録し続けておりましたの」
「お、おい!?それって……」
「彼らの振る舞いや失言。更にわたくしが制圧し、そして……あなたがこの部屋に入ってきて、小雪さんに無礼な手を伸ばし、不当な脅迫を行った今の今まで。その全てを、音声付きで録画しておりますの」
「っ!?」
刑事の赤黒く上気した顔色が、次第に土気色に変わっていきます。その姿を見た部下たちも、顔を見合わせザワザワと騒ぎ始めます。
「……貴様、ハメやがったな!? そんな不当な録画が証拠になると思ってるのか!」
「襲撃されたのですから、証拠映像は残すに決まっているでしょう?邸宅の持ち主である小雪さんの許可は得ておりますし、防犯カメラと同じ扱いですわ」
(まあ、本当は小雪さんに許可など取ってはいないのだけど、緊急避難という事で話を併せてもらいましょう。)
何も知らない小雪さんから、お嬢様とは思えない顔で見られているのを感じながら、済ました顔で刑事と相対する。
「さて、この映像がマスコミやネットの海に流されたら、どうなってしまいますのかしら?わたくし、気になって仕方がありませんわ」
わたくしが優雅に端末を操作する仕草を見せると、刑事はついに理性を失ったように吠えました。
「ふざけるな! どこの馬の骨とも知れんガキが、俺を脅そうなんて百年早いんだよ! おい、その端末を取り上げろ! 抵抗するなら力ずくで構わん、公務執行妨害だ、現行犯で逮捕しろ!」
刑事の怒鳴り声が応接間に響き渡ります。部下たちは戸惑いながらも、上司の命令に従い、腰の警棒に手をかけました。
(そこそこの腕利きの賊を9人、無傷で退けた相手に対して、ヒラの警官達が敵うわけがないでしょう……)
自分の立場が危うくなればなるほど、頭も回らず、権力というケバケバしい盾に縋り付く。
そんなお馬鹿さんには、同じチカラでわからせるのが一番と察しました。
「力ずく……。それは、わたくしに対して武力を行使すると、そう仰るのですか?」
わたくしの声から温度が消えました。それと同時に、リビングの空気がガラッと変わります。
「ひっ……!?」
手下の警官の一人が、あまりのプレッシャーに膝をつき、中年の刑事も、脂汗を流しながら後退りします。彼は本能で理解したのでしょう。目の前にいる少女が、ただの口うるさいお嬢様ではないと。
「……何者だ、貴様。ただのガキが、こんな圧を持っているはずがねえ!」
「あら、失礼。わたくしったら、いつも名乗るのが遅れてしまいますの。許してくださいまし?」
「五月蝿え!いいから俺の質問に答えろ!」
彼からのラブコールに応える為に、わたくしは大きく息を吸い込み、決め台詞の溜めを作ります。
「それではお答えしましょう。わたくしの名前は伊都華メイカ。史上最年少S級冒険者にして、小雪さんの大親友ですわ!」
さりげなく小雪さんとの仲を捏造しながら、私は部屋中に響き渡る声で、彼らに現実を知らしめました。
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