至宝の正体と黄金の真綿ですわ!
「……それで、その国宝級の魔道具というのは、一体どのような物なんですの? 姿形も見えないようですが」
わたくしの問いかけに、小雪さんは震える指先で、リビングの壁に飾られた大きな肖像画を指さしました。そこには小雪さんやご家族と共に、影のように寄り添う一人の美しい女性の姿が描かれていました。
「それは、道具というより……『守護者』と呼ぶべき存在です。高度な自律思考回路を持ち、人間と寸分違わぬ意思疎通が可能な、古代の遺物『完全自律型の女性型ゴーレム』なんです」
「ゴーレム……!? 意思疎通ができるなんて、今の魔法工学でも到達できていない領域ですよ!?」
エレナさんが叫ぶのも無理はありません。ゴーレムといえば、先日しばき倒したようなゴツくて単純なただの人形にすぎないはずです。
しかし、その言葉を聞いた瞬間、わたくしの背筋に電撃のような納得が走りました。
(……ああ、そういうことですのね)
屋敷に入った時から感じていた、あの奇妙な感覚。視線を感じるのに、生命の鼓動が聞こえない。気配はあるのに、魔力の揺らぎが極めて精緻に制御されている。わたくしを悩ませていた謎の気配の正体は、人間ではなく、この屋敷そのものに溶け込んだ『彼女』だったのです。
「なるほど……。先程からわたくし達を観察していた視線の主は、そのゴーレムでしたのね。道理で、殺気も生気も感じられないはずですわ」
「……お気づきでしたか。彼女はこの屋敷の管理システムと直結しており、今は地下の動力室で休眠状態にありますが、意識だけは屋敷中に張り巡らされています」
小雪さんは悲しげに瞳を伏せました。
「叔父の狙いは、まさに彼女……神楽坂家の家宝であるゴーレムです。未だ謎に包まれたダンジョンから発掘された、意思疎通が可能な伝説級の魔道具。それを手に入れれば、叔父を含めたライバル会社は世界のダンジョン工学の頂点に立てるでしょう」
「ちょっと待って。だったら、尚更おかしいじゃない」
エレナが首を傾げながら口を挟みます。
「その叔父さん、会社を売るくらい強引な人なんでしょ? 手続きの時にそのゴーレムも強引に奪っちゃえばよかったじゃない。わざわざ小雪さんに残すなんて、情けをかけたわけ?」
「……いいえ、叔父にそんな心はありません」
小雪さんの声が、怒りと屈辱で微かに震えました。
「あいつは、計算したのです。この広大な屋敷の維持にかかる莫大な固定資産税。そして、伝説級のゴーレムを起動状態に保つために必要な魔石の維持費。……その額は、今の私が持つわずかな貯蓄など、数ヶ月で食いつぶすほどの額になりました。……もうお分かりでしょう。叔父は私が困窮し、維持しきれなくなって破産するのを待っているのです」
「……自ら手を汚して強奪するよりも、法と経済の力で、小雪さんが自発的に『手放します』と泣きついてくるのを待っているという訳ですわね」
わたくしは深く溜息をつきました。
先に周りの物を全て奪い取った上で、本命のゴーレムは破産した姪から安く買い叩く。資産の大部分を手にしながら、合法的に、かつクリーンにその至宝を手に入れられる。
先程の賊も、おそらくは小雪さんの精神を追い詰めつつ、あわよくば不慮の死を遂げた彼女からお屋敷と至宝を相続する為の一手だったのでしょう。
「叔父は卑しく笑いながら言いました。『お前にその価値は守れない。いずれ這いつくばって私に譲ってくださいと乞うことになるだろう』と……。悔しいですが、実際に、もう限界なんです。来月の魔石代すら、もう……」
ポタポタと、床に涙がこぼれます。
相続という名の呪い。憎き叔父が彼女に置いていったのは、守るべき誇りではなく、彼女を窒息させるための黄金の真綿だったのです。
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