後片付けと神楽坂家の秘密ですわ!
「ふぬ!……それにしてもメイカちゃん、今回も派手にやったわね」
気絶している賊達を特殊な素材で作られたロープで縛っていた時に、エレナさんは思い出したような感じで先程の戦闘の感想を話してきました。
「どこがですの?こっちは調度品を壊さないように、カウンター重視で戦いましたのに」
「あの乱戦でそんな気遣いまで……重ね重ねありがとうございます」
目の前の恐怖から解放された小雪さんは、涙を滲ませながらお礼を言ってくださいました。
「世界から『お嬢様』に相応しい物が失われるのがイヤだっただけですわ。それよりも小雪さんは襲われた事情に察しがついてるようですわね。襲撃を受けたばかりの貴女には申し訳ないのですが、説明して頂けないかしら?」
「……ただでさえ、お世話になっていますのに、これ以上巻き込むわけにはいきません」
私からの追及に、小雪さんは俯き小さな声で拒否しようとします。
「そうは問屋が卸しませんわ。賊との会話より、彼らの背後にはかなりの権力者が付いています。一刻も早く事情を聞いて対処しないと、知らぬ間にわたくしが襲撃犯の一味として処理されるかもしれませんわ」
「わ、私も!?」
「わたくしの同伴として来てるんですよ。当たり前でしょう」
「そんな〜〜」
「メイカさんの言う通り、私1人の胸の中で納めるレベルは超えていますね。……わかりました、全てをお話しさせて頂きます。
どこか他人事だと思っていたエレナさんは、私の発言を聞いて目が飛び出るほど驚きます。
そんな一般人の反応を見たせいなのか、小雪さんは考えに考えた後、諦めたような口調で事情を説明することに決めました。
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「先程、神楽坂家の当主と自己紹介させて頂いたのですが、私が持っている物はこの家にある物だけなんです」
「なんと!この家って、大きい家だとは思いますが神楽坂家の規模から考えると少なすぎますわ!一体なにがあったのですの!?」
小雪さんは力なく首を振り、遠くを見るような瞳で語り始めました。
「父が急逝した時、私はまだ若く、経営のいろはも分かりませんでした。そこを、次期当主候補だった叔父に付け込まれたのです」
「叔父様にですの?」
「ええ。叔父は父の葬儀が終わるか終わらないかのうちに、神楽坂家の全財産、そして経営していた魔法工学会社を丸ごと、ある企業へと売却してしまいました。資産も、特許も、社員たちの未来さえも、己の退職金代わりの裏金や向こうでの自分のポストと引き換えに……」
「なんと……。身内による、最も卑劣な裏切りですわね」
わたくしが憤りを感じて拳を握ると、横で聞いていたエレナさんも「ドラマみたいなドロドロ加減ね……」と顔を青くしています。
ライバル会社への身売り。それは、神楽坂家という名を歴史から抹殺するに等しい行為です。
「でも、小雪さん。いくら会社を売ったとはいえ、法律で守られた遺留分……つまり、最低限受け取れるはずの遺産があるはずですわ。あんな大規模な会社を売ったのなら、お釣りが来るほどの額になるはずではなくて?」
わたくしの至極真っ当な疑問に、小雪さんは自嘲気味な笑みを浮かべました。
「ええ、本来なら。ですが、相続の際の資産鑑定で、ある『計算外』が起きたのです。……この屋敷、そして神楽坂家が所有している、ある魔道具。その二つの鑑定評価額があまりに高額すぎたんです。
結果、私の相続分はその二点だけで大半を占めてしまい、残されたのは生活に必要なお金数ヶ月分だけでした」
「なんですって……!? 魔道具によっては天文学的な価格のある物も存在するとは知っておりますが、この家にそんな物が!?」
わたくしは驚愕しました。この由緒正しき神楽坂家の本邸に匹敵する、あるいは凌駕するほどの資産価値。それはもはや、国家予算に干渉しかねないレベルの代物ではありませんか。
思わず絶句してしまった私の代わりに、エレナさんが身を乗り出して尋ねます。
「それって、そんなに凄いの? 歴史的な国宝とか?」
「歴史的な価値……確かにあるかもしれません。なぜならダンジョン内の遺跡から発掘された、他に類を見ない魔道具だからです」
「!?まさか、伝説級ですの!?」
「はぇ〜、確かに最低でも兆単位の代物ですし納得ですが……よく、手に入りましたね」
「これでもダンジョン名家ですよ。ダンジョンに限れば、生半可な企業や国より物が集います」
一瞬、自らの家に対する誇りを除かせた小雪さん。ですが、今の状況を思い出したのか扉の方に目を逸らしながら、目を閉じてしまいました。
「……緊急事態とはいえ、初対面のわたくし達へ全てを打ち明けてくれて感謝いたします。このことは、墓場に入ったとしても誰にも話しませんわ」
「これでもS級冒険者専属担当、秘密は絶対守ってみせますよ!」
「あ、ありがとうございます……」
叔父に裏切られてから、初めて話したのでしょう。彼女はキラリと美しい涙を何粒も零し続けました。
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