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最後にもう一人

次回で第一部は終わりです。

 こうして、俺は心強い後ろ盾と、優秀な相棒(肉盾)を手に入れることができた。


 だが、これで終わりではない。


 繰り返すが、この日は怒涛の展開の連続だったのだ。


 一件落着という雰囲気が周囲に漂い始めた頃、もう一波乱、起こす者がいた。


「あの、覇王丸さんっ」


 集落の住人が三々五々に帰ろうとする中、ライカが真剣な顔つきで、俺の前に進み出たのだ。


「どうした……って、お前」


 俺が聞き返すよりも先に、ライカは地面に両手をついて、土下座をした。


 突然のことに、ボルゾイも、おっさんも、ハウンドも、他の皆も、全員が言葉を失っている。


 勿論、俺もそうだ。


「お願いします! 私も……私も、覇王丸さんの旅のお供をさせてくださいっ!」


「……は?」


 どういうことだよ、と。


 無言でボルゾイを睨み付けるが、ボルゾイにとっても寝耳に水だったらしく、慌てた様子で首と手を左右に振る。


「どうした? どうして、一緒に行きたいんだよ?」


「覇王丸さんのお役に立ちたいからです」


 想定問答集でも用意していたのかというくらい、即座に答えが返ってきた。


「私は覇王丸さんに命を救われました」


「そうだな」


「けれど、まだ何も恩返しをしていません」


「そんなことはないだろ」


「いえ。返していません。だから、一緒に連れて行ってください。お役に立ってみせます!」


 ライカは土下座の姿勢のまま、熱弁をふるった。


 了承してもらえるまで、土下座を止めない作戦なのかもしれない。


「でも、お前は戦えないだろう」


「私は獣人です。自分の身くらいは自分で守れるように、強くなってみせます!」


「体だって小さいし」


「これからもっと大きくなります。成長期だから伸びしろがあります!」


 ライカは、一歩も引くつもりはないようだ。


(困ったな)


 言いたくないが、ライカは完全な戦力外だ。それは、実力で劣るからではない。


 危険な目に遭ってほしくないのだ。


「こう見えて、俺は揉め事を起こしやすい性格をしているんだ。だから、俺と一緒に行動するだけでも、結構、危ないんだよ」


「こう見えて、じゃないだろ。意外でも何でもないぞ」


「うるさい。おっさんは、ちょっと黙っていてくれ」


 俺が横目でおっさんを睨み付けていると、眼下のライカがふるふると震えだした。


「どうしても……駄目でしょうか?」


 ぽたりと、地面に一滴の涙が零れ落ちる。


(……俺が泣かせたのか?)


 そう思った瞬間、俺はわりと絶望的な気分になった。


「父上と……話をしたんです。覇王丸さんは、大げさに冗談めかして言っていたけど、本当はとても大きな目標のために、旅をしているのかもしれないって……。だから、近いうちにこの集落を出て行ってしまうかもしれないって……。そう思ったら……何だか胸がもやもやして、居ても立ってもいられなくなって……。このままじゃ……覇王丸さんと離れ離れになっちゃうから……」


 ライカは嗚咽まじりに、訥々と話した。


 それは、嘘偽りの無い本心なのだろう。そして、同時に――――


(これ、殆ど告白だよなぁ……。どうしよ)


 山田が個別ルートに入ったと言っていた意味が、ようやく分かった。


 どんな返答をすればいいのか、さっぱり分からない。


(お前の裸を見ても性的に興奮しないから、ぼいんぼいんになってから出直してこい……)


 これは駄目だな。


 こんなことを言ったら、この場にいる全員が敵に回る。


 最悪、殺されてしまう。


 俺が助けを求めるようにボルゾイを見ると、頼りになるはずのライカの父親は、俺以上に打ちのめされたような顔をして、天井を仰いでいた。


「……今ほど、ライカが彼女の娘だと実感したことはないよ。いやはや……。自分のしたことというのは、巡り巡って自分に返ってくるものなのだな」


 彼女というのは、ライカの母親のことだろうか。


 自分のしたことというのは……多分、ライカの母親と駆け落ちをしたことだろう。


 なるほど。


 昔、連れ去る側だったボルゾイが、今は逆に連れ去られる側になっているわけだ。


 そのように考えると、運命の巡り合わせというものは、本当に皮肉で面白い。


 当事者として巻き込まれていなければ、の話だが。


 しばらく瞑目していたボルゾイは、やがて吹っ切れたように俺の方を見た。


「覇王丸。一つ、確認するが、何もすぐに集落を出て行くわけではないのだろう?」


「そうだな」


 そもそも、次はどこに行けばよいのか、何をすればよいのか、見当もつかない。


 山田が新しい情報を仕入れてくるまでは、集落で静養することになるだろう。


「取り敢えず、左腕の怪我が治るまではのんびりする予定だ」


「そうか。――――それならば、娘の我が儘を聞いてやってはくれまいか」


「父上っ!」


 ライカが顔を上げて、期待の籠もった目でボルゾイを見た。


「最低限、自分の身くらいは守れるように、此処に滞在している間は、私とハウンドで稽古をつけるつもりだ。これでも私の娘だ。素質はある」


「そんなんでいいのかよ」


 いくら自分の身を守れる程度に強くなったところで、それで絶対の安全が保障されるわけではない。


 大怪我をする可能性も、死ぬ可能性だってある。


「勿論、娘には成人するまで集落で平和に暮らしてほしいという、親としての思いはある。だが、それはエゴでもあるのだ。どうしようもない思いに突き動かされて、娘が今しかないと決断したのであれば――――少なくとも、私にはそれを止めることはできない」


「昔、自分も同じことをしたから、強く反対できないだけだろ?」


「……身も蓋も無い言い方をすれば、そういうことだ。――――それで、どうだろう? 娘を連れて行ってやってはくれないかね?」


 ボルゾイの、ライカの、その他大勢の野次馬の視線が、俺に集中する。


「ああ、もう、分かったよ。そこまで言うなら、連れて行ってやる」


「本当ですかっ?」


 俺が根負けして頷くと、ライカの表情がぱっと輝くように明るくなった。


「ただ、危ないことはさせないからな。料理とか、荷物の管理とか、そういう裏方の仕事で役に立ってもらうぞ」


「はい! 一生懸命、頑張ります!」


 俺は、元気良く頷くライカの手を取って、立ち上がらせた。


「あと、ここだけの話、俺は巨乳派なんだ。ライカの胸がもっと大きくなったら、好きになるかもしれない」


「っ! 大きくなります! 伸びしろあります!」


「馬鹿野郎! ボルゾイ様の前で何を言ってんだ! お嬢も! 慎んで!」


 おっさんが血相を変えて走り寄ってきて、俺の頭を引っ叩いた。


「ボルゾイ様! 本当にこいつにお嬢を預けるんですか!? ここだけの話って、全員の前で性癖をぶちまけるような奴ですよ!?」


「…………どうしたものか」


 ボルゾイは持ち前の優柔不断さを発揮して、その場では首を縦にも横にも振らなかった。


 こうして、怒涛の展開の連続だった一日は終わり、俺はこの世界における活動拠点と、旅の道連れを二人、手に入れた。


 ちなみに、ライカが仲間に加わることを最も喜んだのが山田であることは言うまでもないが、俺がそのことを知らせるのは、もっと後日のことだ。

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[一言] やったー!ヒロインだァー!!イェイL('ω')┘三└('ω')」イェイ
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