練習台
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「まあ、そんなところだと言っておこうか」
ウォルフは多くを語ろうとはせず、やれやれと肩をすくめた。
「残念だな。君くらいの体格の相手が、弟を想定した模擬戦には最適なのだが」
「人を練習台にするんじゃねーよ」
「弟に勝てるのかと、尋ねてきたのは君の方だろう? 私の練習相手を務めて、そのおかげで私が弟に勝利すれば、君は作戦成功の立役者だ。特に命を懸けることもなく、私に大きな恩を売れるのだから、君にとっては好都合だと思うのだが」
「……」
まったくもって、そのとおりなので、俺は否定も肯定もせずに黙り込んだ。
命を懸けない範囲で協力するとは、昨夜、サルーキにも伝えたことだ。
強硬派が魔王軍との戦闘を想定している以上、俺(人類)にとっては、この反乱がどちらに転んでも、メリットしかない。敵同士が仲違いをして勝手に潰し合ってくれるのだから、得をすることはあっても、損をすることは無いのだ。
ただ、強硬派が人類国家も敵と見なしているのに対して、融和派の筆頭であるウォルフは、そうではない。
つまり、俺にとって、ウォルフは「恩を売っておいて損の無い相手」なのだ。
(私が負けたら困るだろう? って言われたら、首を横に振ってやったんだけどな)
『恩着せがましい性格を見透かされましたね』
(うるさい)
だが、実際には、山田の言うとおりなのだろう。
ウォルフは弟の獣王とは違う意味で、敵に回したくない性格をしているようだ。
そんな、俺からすれば「あまり得意ではない相手」のウォルフは、まだ俺との模擬戦を諦めていないらしく、更に説得を続けてきた。
「正直に白状してしまうと、今のままでは、私が弟に勝てる確率は極めて低い」
「は?」
「目が見えないことだけが原因ではない。久しく実戦から離れている上に、弟の代役が務まる相手がいないのだ。――――差し当たって、君以外には」
要するに、実戦の感覚を取り戻すために模擬戦をしたいが、仮想獣王になりそうな相手が、配下の獣人の中にはいないらしい。
「体のデカい奴なんか、いくらでもいるだろ」
「皆、私が相手では、全力で戦ってくれないのだ。怪我をさせないようにと、気遣われながら戦っても、それは実戦訓練にはならない。その点においても、君は打ってつけというわけだ。――――その耳は、作り物かね?」
「!?」
突然、不意打ち気味に変装を見破られて、俺は思わず隣のサルーキを睨み付けた。
「お前、俺のことを話したのか?」
「いや、違う。俺ではない」
サルーキも、俺と同じように動揺を隠しきれない様子で、慌てて首を横に振る。
「お前の素性については、この後、話すつもりでいたのだが……。オズ、お前の仕業か?」
「い、いえっ。そのようなことは……!」
サルーキから責任を転嫁されたオズが、やはり同じように慌てて首を横に振ったところで、
「ふふ……。はははっ。いや、すまない」
ウォルフが、まるで悪戯が成功した子供のように、声を上げて笑い始めた。
「この二人からは、何も報告を受けていない。頭の耳が「生きていない」ように見えたので、カマを掛けてみたのだ」
「……生きていない?」
俺は頭上に手を伸ばし、カツラに取り付けられた獣耳を触った。
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