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瓜二つ

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明後日です

 サルーキが「襲いかかるな」と、俺に釘を刺した理由が、はっきりと理解できた。


 暗闇に浮かび上がったウォルフの素顔は――――ただ一点を除いて、記憶の中の獣王と瓜二つだったからだ。


 ただ一つの違い。


 それは、本来、瞳があるはずの位置に、真一文字に切り裂かれた古傷が横たわっていることだ。


「お前、その目は?」


「数年前、派手な兄弟喧嘩をしてね。その時に付けられた傷だ」


「見えないのか?」


「まったく。そもそも、眼球を潰されているからね」


 治る見込みも無い、と。


 ウォルフはまったく気落ちした様子もなく、あっけらかんと答えた。


(何年も経っているから、吹っ切れてんのか?)


『目が見えないから、地下牢での生活に耐えられたのかもしれないですね』


(なるほど)


 たしかに、目が見えないのであれば、閉じ込められている場所が地下でも地上でも同じことだ。


「不便は不便だが、この怪我のおかげで、命までは奪れずに済んだのだ。そう思えば、決して高い代償ではない」


「いや、高いだろ」


 視力を失ったから、ウォルフはもう脅威ではない、殺すまでもない――――たとえ、獣王にそう判断されたのだとしても、両目を失った代償は大きすぎる。


 死ぬよりはマシだと言われれば、たしかにそのとおりなのだが……。


「お前、その怪我で獣王に勝てるのか?」


 俺は回りくどい言い方をせずに、単刀直入に尋ねた。


「お前が獣王の兄貴だっていうのは信じるよ。そっくりだからな。――――だから、お前なら獣王を説得できるというのも納得できる」


 なにせ、唯一の肉親からの言葉だ。獣王が耳を傾ける可能性は高い。


 だが、問題はその次だ。


 耳を傾けることは、首を縦に振ることとイコールではない。


「説得に失敗したら、獣王を玉座から引き摺り下ろすんだろ? お前にそれができるのか?」


 サルーキの話では、昔は互角だったらしいが、両目を潰された今のウォルフが、当時よりも強いとは思えない。


 獣王も(俺のせいで)片目を失っているが、片目が見えるのと両目が見えないのは、天地の差だ。


 普通に考えれば、ウォルフが獣王に勝てるはずがない。


 俺はそう決め付けていたのだが、


「不安なら、試してみるかね?」


 ウォルフは待っていましたと言わんばかりにランプをサルーキに手渡すと、おもむろに俺に手を伸ばしてきた。


 俺は余裕を持ってそれを避けようとしたのだが――――


「!?」


 目が見えていないはずのウォルフの手が、まるで目が見えているかのように軌道を変えて、寸分違わぬ正確さで俺の手首を掴んだ。


「君の攻撃がまともに当たれば、君の勝ち。君の攻撃をすべて捌けば、私の勝ち……でどうだろうか?」


「……どうだろうか? じゃねーよ」


 俺は憮然とした表情で言い返すと、掴まれた手を振り払った。


 こんな足元すら覚束ない暗闇の中で、腕試しの乱闘をするつもりはない。


「お前、目が見えないんじゃなかったのか?」


「見えなくても、これくらいのことはできるということだ」


「……音か?」


 目が見えなくなった者の聴覚が、失った視力を補うように発達するという話は、この世界に転移する前の地球でも、聞いたことがある。


獣人は、普通の人間よりも感覚器官が優れているから、音を頼りにして空間を把握することも、あるいは可能なのかもしれない。

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