瓜二つ
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サルーキが「襲いかかるな」と、俺に釘を刺した理由が、はっきりと理解できた。
暗闇に浮かび上がったウォルフの素顔は――――ただ一点を除いて、記憶の中の獣王と瓜二つだったからだ。
ただ一つの違い。
それは、本来、瞳があるはずの位置に、真一文字に切り裂かれた古傷が横たわっていることだ。
「お前、その目は?」
「数年前、派手な兄弟喧嘩をしてね。その時に付けられた傷だ」
「見えないのか?」
「まったく。そもそも、眼球を潰されているからね」
治る見込みも無い、と。
ウォルフはまったく気落ちした様子もなく、あっけらかんと答えた。
(何年も経っているから、吹っ切れてんのか?)
『目が見えないから、地下牢での生活に耐えられたのかもしれないですね』
(なるほど)
たしかに、目が見えないのであれば、閉じ込められている場所が地下でも地上でも同じことだ。
「不便は不便だが、この怪我のおかげで、命までは奪れずに済んだのだ。そう思えば、決して高い代償ではない」
「いや、高いだろ」
視力を失ったから、ウォルフはもう脅威ではない、殺すまでもない――――たとえ、獣王にそう判断されたのだとしても、両目を失った代償は大きすぎる。
死ぬよりはマシだと言われれば、たしかにそのとおりなのだが……。
「お前、その怪我で獣王に勝てるのか?」
俺は回りくどい言い方をせずに、単刀直入に尋ねた。
「お前が獣王の兄貴だっていうのは信じるよ。そっくりだからな。――――だから、お前なら獣王を説得できるというのも納得できる」
なにせ、唯一の肉親からの言葉だ。獣王が耳を傾ける可能性は高い。
だが、問題はその次だ。
耳を傾けることは、首を縦に振ることとイコールではない。
「説得に失敗したら、獣王を玉座から引き摺り下ろすんだろ? お前にそれができるのか?」
サルーキの話では、昔は互角だったらしいが、両目を潰された今のウォルフが、当時よりも強いとは思えない。
獣王も(俺のせいで)片目を失っているが、片目が見えるのと両目が見えないのは、天地の差だ。
普通に考えれば、ウォルフが獣王に勝てるはずがない。
俺はそう決め付けていたのだが、
「不安なら、試してみるかね?」
ウォルフは待っていましたと言わんばかりにランプをサルーキに手渡すと、おもむろに俺に手を伸ばしてきた。
俺は余裕を持ってそれを避けようとしたのだが――――
「!?」
目が見えていないはずのウォルフの手が、まるで目が見えているかのように軌道を変えて、寸分違わぬ正確さで俺の手首を掴んだ。
「君の攻撃がまともに当たれば、君の勝ち。君の攻撃をすべて捌けば、私の勝ち……でどうだろうか?」
「……どうだろうか? じゃねーよ」
俺は憮然とした表情で言い返すと、掴まれた手を振り払った。
こんな足元すら覚束ない暗闇の中で、腕試しの乱闘をするつもりはない。
「お前、目が見えないんじゃなかったのか?」
「見えなくても、これくらいのことはできるということだ」
「……音か?」
目が見えなくなった者の聴覚が、失った視力を補うように発達するという話は、この世界に転移する前の地球でも、聞いたことがある。
獣人は、普通の人間よりも感覚器官が優れているから、音を頼りにして空間を把握することも、あるいは可能なのかもしれない。
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