完全な暗闇
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階段を下りた先にあった扉は、一つだけだった。
多分、この建物は、ウォルフを幽閉するためだけに造られたものなのだろう。
相変わらず、蝋燭の数は必要最小限にも満たない。これでは灯りというよりも、扉の位置を把握するための単なる目印だ。
「もしかして、お前、この蝋燭に火をつけるために先に建物に入ったのか?」
「そうだ」
ようやく、蝋燭の近くでなら相手の表情を窺えるくらいには暗闇に慣れた俺の視線の先で、オズは当然とばかりに頷いた。
(……ということは、普段、この場所は完全な暗闇ってことか)
『発狂しそうですね』
実際、こんな昼も夜も分からないような空間に閉じ込められたら、精神に異常をきたしても不思議ではない。
サルーキは、獣王がウォルフを殺さなかったのは「肉親だから」だと言っていたが、こんな仕打ちをすることが、はたして「肉親としての情」になるのだろうか?
人知れず不安を抱いている俺などお構いなしに、オズは扉をノックすると、俺たちを室内に招き入れた。
「!」
扉を開けた瞬間、思わず踏み出した足が止まるほどの、違和感を覚えた。
(やばいな)
『え?』
(部屋の中に、とんてもない奴がいる)
それは、室内に充満する生き物の気配だ。竜ほどではないが、獣王や四大貴族の赤髪侯と対峙した時と同じくらいのプレッシャーを感じる。
別に、敵意や殺意を向けられているわけではないのだが――――
ただ、暗闇からじっと見られているような薄気味の悪さと、他人の縄張りに足を踏み入れることに対する居心地の悪さのようなものを、全身にヒシヒシと感じた。
「ウォルフ様、件の協力者を連れてまいりました」
サルーキとオズがその場で片膝をついて報告する。
すると、返事は無かったが、充満していた気配が嘘のように消えて、一瞬、室内がもぬけのカラになったように感じられた。
(暗いのが良くないな)
普段の俺ならば、こんなことをされれば間違いなくムカついているはずだが、視覚が大幅に制限されているせいで、腹を立てるほどの余裕が無い。
それでも怖気づいたと思われるのは癪なので、俺はできるだけ無遠慮に、ずかずかと室内に足を踏み入れた。
足音の反響から察するに、室内は予想以上に広いようだ。独房のような狭い個室を想像していたが、軽い運動くらいはできるのかもしれない。
(……目の前にいるな)
扉から真っ直ぐに進んだところで、俺は歩みを止めた。
恐らくは、部屋の中心から程近い場所に、柱のように巨大な何者かが立っている。
背丈としては、俺よりも少し高いくらい。
直立した状態で見下ろされるのは、獣王と対峙して以来、これが二度目だ。
「……誰かと同じ目線の高さで話すのは久しぶりだな」
目の前の巨大な影は、感慨深そうに言葉を発した。
(声も似ているような気がする)
『肉親なら似ていてもおかしくないですね』
目の前の人影が、記憶の中の獣王の姿と重なって見える。
「客人に対して、姿を隠したままでは失礼だ。オズ、灯りを」
「畏まりました」
暗闇の中からオズの声が聞こえた――――かと思うと、突如、オズの指先から揺らめく炎が出現した。
一瞬ではあるが、室内が明るく照らし出される。
オズは周囲を見回すと、部屋の隅に置かれていたランプを拾い上げ、それに火を灯した。
(やっぱり便利だな。火の魔法を使える奴がいると)
『野営する時、簡単に火をおこせますからね』
俺と山田から(どうでもいい理由で)羨望の眼差しを向けられていることなど露知らぬ様子で、オズがランプを手に近づいてくる。
「ウォルフさま、これを」
「ありがとう」
目の前の影――――ウォルフは、オズからランプを受け取ると、それを自分の顔の高さに掲げた。
「どうかな? これで見えるかね?」
「……ああ。よく見える」
思わず上げそうになった驚きの声を飲み込んで、俺は頷いた。
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