ウォルフの正体
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「この国には、最も強い獣人が獣王として国を治めるという不文律がある。そのことは、お前も知っているな?」
「ああ」
「今の獣王様は、先代が亡くなられた後、世襲で獣王の座に就くと、すぐに魔王軍との戦争を回避する方向に舵を切った。それは、前線で魔王軍と戦っていた兵士にとっては、寝耳に水の出来事だったし、この国にとっても、大きな転換点だったと言える」
暗闇の中、表情は窺い知れないが、サルーキは当時を思い出すように語った。
もしかしたら、サルーキも前線で戦っていた兵の一人だったのかもしれない。
「だが、何の抵抗も無く、すんなりと世襲が認められたわけではない。獣王様の決断は、魔王軍の侵攻に徹底抗戦するという先代の方針に逆行するものだったからだ。当然、魔王軍と手を組むべきではないと主張する勢力もあった」
「強硬派だろ?」
「まあ、そうだな。強硬派も、当時、反対していた勢力の一つだ」
「別の勢力があったのか?」
俺が尋ねると、サルーキは「ああ」と頷いた。
「強硬派に対して――――融和派とでも呼んでおこうか。近隣の人類国家と連携して魔王軍に対抗すべきと主張する勢力があった」
「へえ」
その情報は、初耳だ。ハウンドも、俺の横で同じような反応をしている。
「ウォルフ様は、その融和派の筆頭だった御方だ。当時、この国は周辺の人類国家とも交流があったからな。国内……民間人の多くは、融和派を支持していたように思える」
「軍は違ったのか?」
「軍内部の意見は拮抗していた。多くの同胞を魔王軍に殺されて、厭戦的な気分になっていた者もいれば、逆に怨嗟と復讐に取り憑かれた者もいた」
要するに、相反する二つの意見が、真っ向から対立していたらしい。
こうなってしまうと、互いに譲歩する余地が無いため、話し合いは無意味だ。少数派を切り捨てる多数決は、両者の間に深い溝を作ることになる。
もし、獣人国が民主主義国家であったなら、為政者が国内を一つにまとめる前に、魔王軍に攻め込まれていただろう。
だが、現実では、そうなる前に新たな獣王が決まり、魔王軍との同盟に舵を切った。
それが意味するところは、たった一つだ。
「――――ウォルフって奴は、獣王と戦って負けたのか」
「そういうことだ」
さすがに、ここまで説明されれば、俺にも想像できる。
勝った方が自分の意見を押し通し、負けた方はそれに従う。
野蛮かもしれないが、実に単純明快だ。
たとえ、勝者の決断が、最善手ではなかったとしても――――
獣王の決めたことならば、誰もが納得して、受け入れる。
獣人たちにとって、きっと、獣王とはそういう存在なのだ。
だからこそ、サルーキは、王の責務を放棄している獣王のことも、王の強大な権力を隠れ蓑にしている強硬派のことも、受け入れることができないのだろう。
「両者の実力は互角だったが、軍配は獣王様に上がった。敗れたウォルフ様は、この地下牢に幽閉されて、今日に至るまで軍の監視下に置かれている」
「獣王に殺されなかったんだな」
普通に考えれば、自分と対立する融和派にトドメを刺す意味でも、その象徴であるウォルフを殺してしまうやり方は、どちらかと言えば「あり」のような気がする。
獣王の苛烈な性格を考えれば、尚更だ。
それとも、あえて「殺さない」ことで、融和派をコントロールしようとしたのだろうか?
「多分、殺せなかったのだ。……少なくとも、俺はそう思う」
サルーキは自信など欠片も無さそうな低い声で、呻くように呟いた。
感情が揺れている。
自分の言葉に、自分で動揺しているようだ。
「殺せなかった理由は、何だよ?」
恐らくは、この話の核心と思われる部分に、俺が躊躇なく踏み込むと、サルーキは観念したようにため息を吐いた。
「一つだけ、忠告をしておく。この後、ウォルフ様とお会いすることになるわけだが……その姿を見て、別に驚くのは構わないが、襲いかからないようにしてくれ」
「どういうことだ?」
「ウォルフ様は、現獣王レグルス様の唯一の肉親――――実兄にあたる御方なのだ」
サルーキの口から衝撃の事実が打ち明けられた時、オズが地下から俺たちを呼びに来た。
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