獣王に勝てるのか?
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俺が被っているのは、巨大熊の毛皮を加工して作った変装用のカツラだ。
当然ながら、ライカのように自分の意思で獣耳を動かすことはできない。
だから、生きていないと言われれば、そのとおりなのだが――――
(生きていないように「見えた」というのは、どういうことだ?)
ウォルフは間違いなく目が見えないはずだ。それは本人も認めているし、顔の傷痕を見れば一目瞭然なので、疑う余地が無い。
では、いったい何が「見えた」のだろうか?
俺は、ウォルフは音を頼りにして周囲の状況を把握しているのだと思っていたが、もしかしたら、そうではないのかもしれない。
一般的な話として、耳から得た情報に「見えた」という表現は使わないからだ。
勿論、単なる言葉のアヤである可能性もあるのだが――――
(……分かんねーな)
俺は早々に諦めて、思考を中断した。
「お前、何を見たんだよ。目で見たわけじゃないんだろ?」
「ふむ……。では、交換条件でどうだろう?」
ウォルフは、俺が痺れを切らしたのを見て取ると、即座に取引を持ちかけてきた。
多分、最初からそうするつもりだったのだろう。
「君が模擬戦に付き合ってくれるのなら、私の知っていることはすべて教える。多分、それは君にとっても有益な情報になるだろう。知っておいて、損は無い」
「もう、それでいいよ」
なんだか、最後まで掌の上で転がされたようで面白くないが、このままモヤモヤした疑問を抱え続けるよりはマシだ。客観的に見ても、意地を張るような場面ではない。
不承不承、俺が頷くと、ウォルフは満足そうに頷いた。
*
その後、俺は自己紹介を兼ねて、当たり障りの無い範囲で、自分の素性を明かした。
「なるほど……。君が弟を倒した人間の勇者だったのか。たしかに、助っ人としてこれ以上の人材はいないな。情報の漏えいにあれだけ神経を尖らせていたサルーキが、仲間に引き入れた途端に、私との顔合わせを申し入れてくるはずだ」
ウォルフは納得した様子で何度も頷くと、急に真剣な表情になって俺を見た。
「――――弟は強かったかね?」
「強かったぞ」
その質問に関しては、一切の検討をせずに即答できる。
掛け値なしに、獣王は強い。
それは、他の獣人と比べてどうか? という話ではなく、絶対的な強さだ。
多分、この世界の生き物を白兵戦の強い順に並べたら、獣王はかなり上位にランクインするだろう。生き物という括りでは竜も含まれてしまうので、最強ではないかもしれないが。
「まあ、俺の方が強いけどな」
『他人を上げることで、自らも上げていくスタイル』
山田が茶々を入れてくるが、いつものことなので特に反論はしない。
「私が勝てると思うかね?」
「今のところ、勝てるとは思えない」
これも、掛け値なしの正直な感想だ。
ウォルフの実力については未知数だし、対峙した時に感じたプレッシャーは獣王と比べても遜色の無いものだったが、いかんせん視力のハンデが大きすぎる。
「自分でも、そう思っているんだろ? さっき、自分で言っていたもんな」
俺と模擬戦をすることによって、極めて低い勝率がどれくらい上がるのかは分からないが、少なくとも、今のまま正攻法で戦ったら、ウォルフに勝ち目があるとは思えない。
そもそも、王城に乗り込んで、獣王のいる所まで辿り着かなければ、説得も戦闘もできないのだ。
獣王をお飾りの玉座に据え置きたい強硬派は、当然、こちらの目論みを阻止するために動くはずだから、スタート地点に立つ前に作戦が失敗してしまう可能性すらある。
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