郊外の森
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再び動き出した馬車の荷台で、俺たちはほっと胸を撫で下ろした。
「俺のおかげで危機的状況を乗り切ったな」
「お前のせいで危機的状況に陥ったとも言えるけどな」
冷や冷やさせるんじゃねーよ、と。
ハウンドが文句を言ってきたので、俺は足を伸ばして「うるせー」と軽く小突いた。
「……おい。お前、結婚していたのか?」
不意に荷台の奥から、サルーキの質問が飛んできた。
兵士に呼び止められてさぞかし肝を冷やしただろうと思いきや、俺のゴシップネタに興味を持ったらしい。
「したぞ。つい最近な」
「以前、あんたが攫った女の子だよ。さすがに覚えてるだろ? ライカって名前だけど」
ハウンドが補足すると、サルーキは「む」と唸ったきり、考え込むように黙ってしまった。
「そうか……。あの時の娘と結婚したのか」
「文句があるのか?」
「いや。無い。結婚、おめでとう」
「? ありがとう」
なぜだか分からないけれど、唐突に祝福されたので、俺は適当に返事をした。
『前にも、同じようなことがありませんでしたか?』
(あったっけ?)
オターネストで獣人の捕虜と話した時だろうか?
『獣人国に来る前にライカちゃんと結婚したのは、もしかすると、ファインプレーだったかもしれませんよ。結婚って、種族間の友好の証みたいなものですから』
(そんな大きな話にされても困る)
とはいえ、ライカと結婚したことにより、サルーキをはじめとする獣人たちの俺を見る目が友好的なものに変わるのであれば、わざわざそこに異論を挟む必要は無いだろう。
馬車は王都を抜けて、蹄が地面を踏む一定のリズムを刻みながら、郊外に進んでいった。
*
街道沿いにしばらく進んだ後、俺たちは森の前で馬車を途中下車した。
この後、馬車は付近の農村を訪れて、そこで食料を仕入れ、帰りにまた俺たちを拾ってから王都に戻るらしい。
それはよいのだが――――
「この森って、あれだよな?」
「そうだな」
俺の問いかけに、ハウンドも複雑な表情で頷いた。
「森がどうかしたのか?」
「いや。この森の中に、俺の仲間がいるんだ」
まさか、案内された場所が留守番組の潜伏している森だとは、夢にも思わなかった。
「仲間?」
「獣人に変装できない仲間は、この森で留守番をしてる」
「ああ、そういうことか」
俺が簡単に説明すると、サルーキはすぐに納得した様子だった。
「それならば、運が良かったな。必要以上に森の中を動き回っていたら、何も事情を知らない我々の仲間に、見つかっていたかもしれない」
「そうだな」
その場合、サルーキの仲間は二匹の竜と交戦することになるので、はたして、どちらの運が良かったのかについては、議論の余地がありそうだ。
「まあいい。さっさとついて来い。この森には、たまに王都からの見回りもやって来る」
「そうなのか?」
「ああ。最近はそれどころではないらしく、めっきり頻度も減ったようだが」
そう言うと、サルーキは森の中に続く小道を、どんどん進んでいった。
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