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その後のサルーキのこと

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明日です

 たしかにサルーキの喫した敗北は、オット大陸への侵攻作戦を進めていた魔王軍にとって、大きな痛手だったと言える。


(俺にぶん殴られて、ライカを奪い返されるだけなら、何でもなかったんだけどな。個人の面子は別問題として)


『その後の、船の延焼と、回復薬の大量破棄が致命的でしたね』


 面白いのは、火事を起こしたのも、回復薬を破棄したのも、結果としてそうなっただけで、最初から計画していたわけではないということだ。


 火事を起こしたのは、混乱に乗じてオターネストから脱出するためであり、たまたま副官のオズが飛翔魔法と火の魔法を使えたから。船が燃えたのは、完全な想定外。


 回復薬を大量に破棄できたのは、毒キノコを食ったハウンドの治療をする必要があり、たまたま救出したフランツのおっさんが、倉庫に大量の備蓄があると知っていたから。


 いずれも狙ってやったことではないが、結果として魔王軍は貴重な海上戦力と大量の回復薬を失い、海では海上を封鎖されて援軍を呼び込めなくなり、陸では人類軍との戦線を維持できなくなった。


 その結末は、俺が獣王に勝利した、霧の中のオターネスト攻城戦だ。


 ライカを連れ去られたことが、巡り巡って魔王軍をオット大陸から駆逐することに繋がるとは、いったい誰が予想できただろうか。


『禍福はあざなえる縄のごとし、ですね』


(ん?)


『良いことばかりも、悪いことばかりも続かないってことですよ』


 人間万事塞翁が馬とも言います、と。


 山田は博識ぶって難しい言葉を口にしているが、そんなことは百も承知だ。


 良いことも、悪いことも、すべて繋がっている。


 だからこそ、良いことばかりが続くように、悪いことが二度と起こらないように、その時の自分にできる精一杯のことをするしかないのだ。


 今できることは――――サルーキから、少しでも多くの情報を引き出すことだろう。


 俺はいったん食事の手を止めて、サルーキに話の続きを促した。


     *


「オターネストでお前に敗北した後、俺は司令官の任を解かれ、獣王様の命令でベスティアに帰還した。副官のオズも同じだ」


 当然ながら、あまり思い出したくない、苦々しい記憶なのだろう。


 事務的な口調とは裏腹に、サルーキは微かに顔をしかめながら話した。


「信じられないかもしれないが、獣王様は竜の背に乗って、空から海を渡ってきた」


「いや。信じるぞ」


 そのあたりの経緯については、オターネストで捕虜になった獣人からも話を聞いている。


 というか、そもそも獣王が乗ってきた竜というのは、ワタシとオレサマのことだ。


 最初に話を聞いた時はまさかと思ったが、後で確認してみたところ、二人とも当時のことを覚えていた。


 時系列としては、オース海峡の沖合で哨戒する魔王軍の船までサルーキとオズを送り届けた後、仮面の魔人ことフィオレの命令で神聖教会の自治領に向かったらしい。


『ハウンドさん、竜がこっちの仲間になっていることは話さなかったみたいですね』


(そうだな)


 何でもかんでも話さなかったのは良い判断だと思うが、どこまで話したのか分からないのは逆に厄介だ。こちらから開示する情報は、少なければ少ないほど良いので、俺も注意して話す必要がある。


「それで? この国に帰ってからは、どうしたんだ?」


「獣王様の帰還を待ち、追って処分が下されることになった。休養という名目ではあったが、事実上の謹慎だ。……だが、仕方がない」


 あれだけの醜態を晒したのだから、と。


 サルーキは達観した様子で呟いたが、そのことに関しては、俺は少しだけ疑問に感じた。

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