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飯を奢らせる

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明後日です

「持ち替えた?」


「ああ。お前に右腕を掴まれた瞬間に、持ち替えた」


 どうやら、そういうことらしい。


 そうなると、サルーキは床に抑え込まれている時、比較的自由に動かせる左手で、無防備な俺の背中を刺すことが可能だったことになる。


「どういうことだよ」


 俺が咎めるような口調で尋ねると、サルーキはつまらなそうに鼻を鳴らした。


「徒手空拳では相手にならず、こちらだけ武器を手にして、奇襲まで仕掛けたが、対応されて床に組み敷かれたのだ。短剣で一矢報いたくらいでは、勝ったとは言えん」


「……何だそりゃ」


 プライドの高い奴め、と。


 声に出して言おうかと思ったが、止めた。


 なんだか、馬鹿馬鹿しくなってしまったからだ。


(そもそも、戦う意味が分からない)


『それ、さっき僕が指摘しましたよね? あの時、止めておけば、普通に圧勝だったのに』


(どうでもいいわ、そんなこと)


 腕を動かせたとは言っても、肩を完全に固定された状態での可動範囲はそれほど広くない。背中を短剣でちょっと刺されたくらいでは、大勢に影響はなかったはずだ。


 俺は、呆れたように話す山田の声を無視して、立ち上がった。


「おい。話を聞いてやるから、飯を奢れよ。まだ晩飯を食っていないんだ」


「分かった」


 サルーキは頷くと、部下を呼び寄せて、俺の分の料理を用意するように指示を出した。


「それと、ハウンド」


「ん?」


「ランプの灯りを消せって言われた時のお前の対応、0点だからな」


「ぐっ……」


 オブラードに包まず、ド直球に酷評されたハウンドは、ぐうの音も出ない様子で悔しそうに俺を睨み付けた。


「し、仕方ねーだろ。俺が手を出していいのかも分からなかったし……」


「いいに決まっているだろ」


 サルーキが部下に命令した時点で、一対一の勝負という暗黙の了解は破られているのだ。俺だけが孤軍奮闘する道理はない。


「ああいう時は、考えるより先に行動するんだよ」


「そういうお前なら、あの場面で即座に行動できたのかよ?」


「俺か?」


 苦し紛れの反論に、俺は一瞬だけ「自分ならどうしただろう?」と考えたが、すぐに答えは出た。


「俺なら、ランプの油を床にぶちまけて、火事を起こしていたな」


 そうすれば、他の連中は混乱に陥り、サルーキの指示そっちのけで火消しをする羽目になるだろう。店内も明るくなるし、一石二鳥だ。


「お前、本気で言ってんのか?」


「名案だろ?」


「……」


 やけに静かだと思ったら、ハウンドだけではなく、すぐ近くで会話を聞いていたサルーキと部下の獣人たちも、絶句していた。


「お前、いくらなんでも放火はマズいだろ……」


「オターネストから逃げる時は、街中に火をつけただろ? 今更、店一軒を燃やすくらいで、俺が躊躇すると思うか?」


「……そういや、そうだった」


 お前はそういうことを平気でする奴だった、と。


 ハウンドは心の底から気疲れした様子でため息を吐いた。


「……嫌なことを思い出したな」


 サルーキも頭を抱えながら、動揺している部下に「気にするな」と声を掛けていた。

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