思い通りに行動しない
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『……さっきから、何をやっているんですか?』
居住いを正すように、失神した獣人の男を再び壁に寄りかからせる俺を見て、山田が遠慮がちに話し掛けてきた。
(何だと思う?)
『知りませんよ。やってること、完全にサイコパスじゃないですか』
(まあ、それは認める)
サイコパスとは、言い得て妙だ。相手の首を絞めて気絶させるという行為を、日課のごとく何度も繰り返しているのだから、そう思われたとしても仕方ないだろう。
ただ、俺としても、やりたくてやっているわけではない。
(こいつから情報を聞き出そうと思ってさ)
『それなら、なんで何回も気絶させているんですか?』
(どうせ一回や二回じゃ口を割らないと思ったから、尋問を省略したんだ)
『肝心なところを省略……』
黙秘権すら行使させない俺の問答無用ぶりに、山田はドン引きしているようだが、結果的に口を割らないのであれば、尋問するだけ時間の無駄というものだ。
それならば、理不尽かつ理解不能な暴力をふるって、何をされるか分からないという恐怖を植え付けてやる方がいい。
(こんな短時間じゃ、説得して味方に引き込むのは無理だからな。それならせめて、ビビって反抗できないようにしておかないと)
なにしろ、このまま何の対策もせず、ノコノコと敵のアジトまで行ってしまったら、完全に相手の思うつぼだ。
人質を取った相手が、次にやることは決まっている。
――――交渉という名の脅迫だ。
自分の優位を確信している相手に、掌の上で転がされるのかと思うとムカムカしてくる。
(俺は、他人の思い通りになるのが嫌いなんだよ)
『それは分かりますけど』
勿論、ただ「嫌い」というだけではない。
盤石の裏側には、脆さがあるのだ。
練りに練った計画を叩き潰された時、または万全を期したはずの準備を台無しにされた時。
そういう時に生じる隙は、往々にして致命傷になりやすい。
大事なのは、相手の「思い通り」に行動しないことだ。
(人質を取っているのに、案内役として送り出した使い走りを半殺しにされるとは、向こうは考えていないだろ?)
『そりゃそうでしょうね』
(しかも、半殺しにした張本人が、逃げも隠れもせずに正面から乗り込んでくるんだぜ?)
『控え目に言って、頭がおかしいですね』
山田はいつもの調子で煽ってくるが、この場合の「頭がおかしい」は「予想外」ということなので、俺の行動に対する評価としては悪くない。
俺は上機嫌に鼻歌を歌いながら、気絶している獣人の男を叩き起こした。
勿論、右手は首に添えた状態で。
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