夜道に注意
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明後日です
「こっちだ。暗いから足下に気を付けろよ」
やがて、王都の中心部からかなり離れたところで、獣人の男は路地に入って行った。
「近道なのか?」
「そうだ」
獣人の男は後ろを振り返らずに、すたすたと先に進んでいく。
(人通りは殆ど無いな)
まばらな街灯の灯りも届かない路地は、暗闇に支配されている――――が、障害物を避けて歩けるくらいには、目は見えている。もし、ランプに頼っていたら、自分を中心とした半径数メートルの世界しか見通すことはできなかっただろう。
(もうすぐ目的地に着きそうだし。このへんでいいか)
俺は油断なく周囲に目を凝らすと、次の行動を起こすことにした。
「あ。ちょっと待ってくれ」
「どうした?」
立ち止まるように促す俺の声に、獣人の男が後ろを振り返った、その時――――
「ぐっ!?」
俺は、完全な不意打ちで獣人の男の喉を鷲掴みにすると、そのまま強引に吊り上げた。
獣人の男は慌てて俺の腕を振りほどこうとするが、両足が地面から離れてしまっては、もう間に合わない。
片手で軽々と獣人の男を宙吊りにした俺の指先は、しっかりと頸動脈を絞めていた。
「ぐ! がっ!」
指先の感触から、獣人の男がもがき、苦しみ、歯を食いしばる様子が伝わってくる。
獣人といえども、体の構造は普通の人間と同じだ。
頸動脈を圧迫されれば、どんなに長くてもニ十秒ほどで失神する。
程なくして、だらりと弛緩した獣人の男を、俺は建物の外壁に寄りかからせるようにして、座らせた。
「おい、起きろ」
ぺしぺしと頬を叩く。
「う……ん」
落ちた直後だったので、すぐに意識を取り戻した獣人の男は、ほんの一瞬だけ視線を虚空に彷徨わせた後、はっと息を飲んで俺を見上げた。
俺はにこりと微笑むと、再び再び獣人の男の首を絞めた。
「うっ……ぐっ!」
なぜ、こんなことをするのか――――苦痛に歪められた表情が、語っている。
獣人の男は体が思うように動かないらしく、俺の腕に軽く手を添えたところで、再び意識を失った。
「おい、起きろ」
俺はすぐに力を緩めて、今度は右手を獣人の男の首元に添えたまま、左手でぺしぺしと頬を叩いた。
「う……」
「おはよう」
意識を取り戻した獣人の男に、もう一度、笑顔で話し掛ける。
「あ、あんた――――ぐっ!」
「大きな声を出すんじゃねーよ」
笑顔のまま、低い声で脅すように囁くと、俺は首にかけた右手の指に軽く力を込めた。
「ひっ!」
それだけで、獣人の男の表情は恐怖に染まり、微かに震えはじめた。
無理もない。
他人に首を絞められて意識を失うというのは、一種の臨死体験だ。
ごく短い間隔で、二度も疑似的に「殺された」のだから、恐怖を感じないはずがない。
まして、こんな人通りの無い真っ暗な路地では、何かのはずみで本当に殺されてしまうかもしれないのだから。
「や、止めてくれ……」
腕力では俺に敵わないことも、理解しているのだろう。
獣人の男は抵抗らしい抵抗をしなかった。
「悪かったな」
心にも無い――――とまでは言わないが、俺はこれからすることを考えて、形式的に謝罪の言葉を口にした。
「話をして思ったけど、多分、お前はそんなに悪い奴じゃないんだと思う」
「……」
「でもさ。そんなの、関係ないんだよ」
そう言って、痣が残るくらいに強く、指先に力を込める。
「俺の仲間に手を出した時点で、俺にとって、お前らの生き死にはどうでもいいことなんだ」
一言一句、自分にも言い聞かせるように。
呪詛のように言葉を吐き出しながら――――
俺は獣人の男に、三度目の擬似的な死を与えた。
評価、ブックマーク、感想などをもらえると嬉しいです。




