オース海峡攻略作戦 三
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「向こうも、こちらの存在には気づいているでしょう。これ以上、大型船で近づけば、それが開戦の合図になり、問答無用で迎撃される恐れがあります。また、このまま何もしなくても、警戒するに越したことはないので、続々と援軍の船が集まってくるでしょう」
「じゃあ、こっちも早めに動いた方がいいな」
こちらから仕掛ける以上、後手に回っても良いことはない。
俺はもう一隻の大型船に乗っている捕虜の獣人――――その第一陣を、小型船に移動させるように、シャルムに指示を出した。
「ついでに、あいつらも連れて来てくれ。向こうの船で働いているはずだから」
「畏まりました」
程なくして、不満たらたらの表情で現れたのは、アホ兄弟だった。
昨日、長距離航海の経験者であるにも関わらず、性根が腐っているという情けない理由で、ずぶの素人と同じ後発隊に振り分けられてしまった二人を強制的に成長させるため、俺は荒治療を施すことにしたのだ。
「兄貴、これはどういうことですか!」
「なぜ、俺たちが雑用のために駆り出されなくてはいけないんですか!」
こいつらの第一声は、だいたい能天気に笑いながら駆け寄ってくるか、俺に対して何らかの要求をしてくるか、はたまたクレームをつけてくるかのいずれかだ。
正直、もう聞き飽きている。
「お前ら、元々は俺の付き人だろーが。付き人に雑用をさせて、何の問題があるんだよ」
「俺たちは勇者の船の船長になるために頑張っているんです!」
「瞬きほどの時間だって、無駄にはできないんですよ!」
「……」
はっきり言って、今すぐ腹を殴るか、海に突き落としてしまいたい。
(時間を無駄にはできない……だと?)
いったい、どの口がそんなことを言うのだろうか。
とても三十歳(無職)のセリフとは思えない。
俺は深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、落下防止の欄干まで歩いて、海上に浮かぶ小型船を指さした。第一陣となる捕虜の獣人の移動は、既に終えているようだ。
「お前ら、あれを見ろ」
「獣人が乗っていますね」
「何人、乗っているんですか?」
「多分、五十人くらいだと思う」
小型船とはいえ貨物船なので、捕虜の獣人が積荷の代わりだと思えば、それくらいの人数を乗せることはできる。
一方、俺たちの乗っている船も大型船とはいえ石油タンカーのように超巨大な代物ではない。当然だが、地球の基準とは異なるのだ。
「今からあの船で、魔王軍に捕虜を引き渡しに行く。ぶっつけ本番だから、問答無用で攻撃される恐れもある」
「ふーん」
「危険っすね」
他人事のような感想を口にするアホ兄弟。
「ただ、捕虜は両手と両足を縛られているから、こっちで船の操舵をする必要がある。一人というわけにはいかないから、手伝いも含めて四、五人だな。あの船に乗り込むのが、今回の作戦で一番危険な役回りなんだ」
「ふーん」
「大変っすね」
またもや、他人事のような感想を口にするアホ兄弟。
「それで、これは俺が考えた作戦だから、危険な役回りを丸投げはしたくないということで、俺たちの中からも手伝いを出すことにしたんだ」
「ふーん」
「さすが兄貴! 義理人情に厚いぜ!」
ここまで言及してもなお、相変わらず他人事のような感想を口にするアホ兄弟。
こいつら、本当にアホなのかもしれない。
「それじゃ、よろしくな」
そう言って、俺が二人の肩をポンポンと叩くと、
「な、なにぃぃぃぃ!?」
「そんな馬鹿なっ!?」
ようやく、状況を正確に把握した二人は、驚愕の声を上げた。
当事者だと言われてしまっては、さすがに他人事のような反応はできなかったようだ。
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