オース海峡攻略作戦 一
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上陸作戦に必要なものは、すべて揃っていた。
俺の目の前には、作戦に使用する大型船が二隻と、小型船が一隻。
それぞれの甲板では乗組員が出港の準備を進めている。彼らは船乗りであると同時にアルバレンティア王国の兵士でもあり、ほぼ全員が風や水の魔法を使えるエリートらしい。
船の前には、魔王軍に引き渡す予定の獣人の捕虜。人数は、実に三百名。
シャルムの予想を超える人数の希望者が出たらしく、残念ながら選考漏れした者もいたようだ。ただ、それでも半数以上の捕虜はオターネストに残る決断をしたわけだが。
「連中にはちゃんと説明してあるか?」
念のため、俺が確認すると、シャルムは「勿論です」と頷いた。
「魔王軍がどのような対応を取るか、不明であること。故に、身の安全は保障できないこと。数回に分けて引き渡しをする予定であること。全員に連帯責任を課すこと。故に、たった一人でもこちらの行動を阻害する者が現れた場合、引き渡しは即時中止になること。――――以上のことを、全員に説明済みです」
「分かった。じゃあ、あいつらを船に乗せちゃってくれ」
「畏まりました」
シャルムが部下に指示を出すと、程なくして獣人の捕虜たちがぞろぞろと移動を開始した。
今日も捕虜全員が、手錠でいうところの鎖の部分に数十センチの余裕を持たせて、両手・両足を縛られているようだ。船に乗り込む時の段差で、躓きそうになっている者がいる。
「俺の連れは?」
「勇者殿の奥方二人は、既にもう一隻の船に乗り込んでおります」
「早いな。竜も一緒か?」
「はい。勿論、捕虜には目撃されておりませんし、兵士にも箝口令を敷いております」
シャルムの回答は百点満点だった。察しが良いのは、非常に助かる。
今回の作戦の肝は、言うまでもなく、オース海峡を越えてトレンタ大陸に渡ることだ。魔王軍への捕虜の引き渡しはそのためのカモフラージュに過ぎない。
ただ、一口にオース海峡を越えると言っても、簡単なことではない。船で魔王軍の警戒網を突破するのは不可能に等しいので、竜に乗って空を移動するのが現実的ということになる。
問題は、ワタシとオレサマの飛行可能距離だ。もし、途中でスタミナ切れ(魔力切れ)を起こせば、海の藻屑になってしまう。
そこで、俺はワタシとオレサマを船に乗せて、ぎりぎりまでトレンタ大陸に近づく策を取ることにした。オース海峡の端から端まで飛ぶことはできなくても、中間地点の海上からであれば、余力を残して渡り切ることができるという算段だ。
これは、他ならぬワタシとオレサマが、かつて同様のやり方で神聖教会の自治領まで魔王軍の兵士を輸送しているので、試すまでもなく実現可能だ。
勿論、甲板に竜を乗せたまま近づいてはバレバレなので、俺はシャルムに頼んで甲板の板を取り外し、船倉と直結する大穴を開けてもらった。
「万が一、魔王軍が飛翔魔法で偵察を飛ばしてきた場合、上空から見れば竜の存在がばれてしまいますので、予備の帆を広げて穴を隠してあります。ただ、頭上を覆われると竜が嫌がるので、お二人ともずっと竜に付き添っているようです」
「男どもは?」
「出発の時間まで、応接室で寛いでいただいております。獣人の方もいらっしゃるので、魔王軍の捕虜と間違われるといけませんから」
俺は第一軍港に着いた後、シャルムの弟に挨拶をする必要があったので、一時的に仲間とは別行動を取っていた――――のだが。
俺を待っている間、女性陣は自分のすべきことをきちんとこなし、一方、男どもは応接室で寛いでいたらしい。
獣人だからあまり出歩かない方がいいと言われてしまえば、そのとおりなのだが。
「――――まあいいか。それじゃあ、馬鹿どもをさっさと呼んできてくれ」
「畏まりました。では、勇者殿も乗船してお待ちください」
シャムルは楽しそうに笑みを浮かべたまま、執事のように俺の指示に恭しく頷いた。
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