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剣の岬

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明後日です。

 剣の岬にあるのは、町ではなく巨大な軍港だった。


 ピスキスの港よりも遥かに大きなオターネストの港を、更に上回る規模だ。さすがは、魔王軍のオット大陸進攻を水際で食い止めている最前線といったところだろうか。


 正式名称は「アルバレンティア王国・西部地域・第一軍港・ザフトスパーダ」という非常に長ったらしいものらしい。


「あまりにも長すぎるので、皆、第一軍港で覚えていますね。斯く言う私も、昨日、部下から聞いて正式名称を暗記したくらいですから」


 軍港内を案内しながら、俺たちにそう説明してくれたのは、先日、オターネストでも会ったシャルムだ。


 シャルムはオターネストに駐屯する部隊の指揮官であり、当然、第一軍港のトップは別にいるのだが、今回は作戦に関与する獣人の捕虜をオターネストから大量に移送している関係で、シャルムがそのまま作戦の指揮を執ることになっている。


 通常、このようなことはあり得ないのだが、第一軍港のトップがシャルムの弟であるため、


「引き継ぎしないで、このまま指揮を執れば?」


「じゃあ、そうする」


 こんな軽いやり取りで、今回のような特例的措置が実現したらしい。


 にわかには信じがたいことだが、つい先刻、到着の挨拶をした際に、当の本人からそのように告げられているので、間違いなく事実だ。


「お前ら兄弟、仲が良いよな?」


「悪くはないですね。今回は、弟が作戦成功の手柄を譲ってくれた形になります。もっとも、作戦が失敗した場合の責任も押し付けてきたことになりますが」


 シャルムの話では、オターネストとその周辺で繰り広げられた魔王軍との一連の戦闘の後、すぐに南部地域で起きた反乱の鎮圧にも駆り出されたことで、西部軍全体に厭戦的な雰囲気が広がっているらしい。


「まあ、無理もないか」


 東部軍は美味しいところをつまみ食いしただけでMVP気取り。


 南部軍はシャードにすべての責任を押しつけて被害者面。


 西部軍からすれば、やっていられるかという話だろう。


「私も弟も、昔は前線に出て部隊を動かすのが好きだったのですが、今ではそのような感情は綺麗さっぱりなくなりました。魔王軍の侵攻がオット大陸の人類にとって対岸の火事ではなくなってからというもの、あまりにも簡単に人が死んでしまう。多くの兵士にとって、戦場での敗北は死を意味するのだと理解した時、演習で弟と勝敗を競っていた頃の自分が愚かで滑稽に思えてきたのです」


 負けても次があると考えていた自分を叱ってやりたいと、シャルムは自嘲した。


「ですから、勇者殿の考えた作戦については、私だけではなく、弟も面白いと感じているようです。今まで魔王軍を相手に、交渉を試みたことは一度もありませんでしたから」


「そうなのか?」


「こちらが奴隷になる以外の選択肢を認めない相手とは、そもそも交渉が成立しません」


 それは、もっともな話だ。


 現在、魔王軍は世界中に喧嘩を売っているが、例外的に獣人国とは同盟関係にある。


 それは、なぜだろうか?


 魔王軍にとって獣王の存在が脅威だった――――勿論、それも理由の一つだろう。


 だが、それならば静観を決め込んでいた竜の巣に対して、積極的に攻撃を仕掛けていたのはなぜだろうか? 脅威度で言えば、竜の巣の方が遥かに上のはずだ。


 人間や竜とは交渉の余地が無いけれど、獣人とはあったということだろうか?


 それとも、両国の間には同盟とは名ばかりの、実質的な主従関係が存在しているのだろうか?


(そもそも、悪い奴が戦争を始める理由って何だ?)


『いろいろあるんじゃないですか? 資源を得るためとか。覇権主義とか。選民思想とか』


(選民思想とか、ありそうだな)


 オターネストで話をした獣人も、魔人は獣人を見下しているという話をしていた。


『でも、それなら見下している獣人の国と同盟を結んでいるのは変ですよね?』


(そうだな)


 結局のところ、今、手元にある情報だけでは、正解に辿り着くことは難しそうだ。


 魔王軍が戦争を始めた理由。


 今までは降りかかる火の粉を払う程度の認識だったが、積極的に消火活動をするのであれば、火元の特定は必要不可欠だろう。


 そんなことを考えていると、視界が開けて眼前に港と海が現れた。

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