シャロム
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かつて俺がオターネストに潜入し、当時、魔王軍の指揮官だった狼の獣人サルーキと激闘を繰り広げた執務室は、いろいろな物が持ち込まれて、すっかり雰囲気が変わっていた。
簡単に言ってしまえば、公務をする部屋ではなく、個人の私室になってしまった印象だ。
そんな様変わりした執務室で俺を待っていたのは、オターネストに駐留する西部軍の指揮官だった。
「勇者殿、お待ちしておりました。私はアルバレンティア王国軍、西部方面軍、オターネスト駐留部隊の指揮を任されております、シャロムと申します」
開口一番、シャロムと名乗った男は席を立ち、足早に歩み寄ってくると、俺に握手を求めてきた。
壮年と言って差し支えない見た目の割には、若々しく、物腰の低い男だ。
「オターネスト攻城戦における勇者殿の作戦は、実に見事でした。また、先の南部軍の反乱におきましても、多大な功績を上げた勇者殿には、感謝と尊敬の念に堪えません。西部軍を代表して、お礼を申し上げます」
「うん」
「そして、ロザリア殿下とのご婚約、心よりお祝い申し上げます」
「ありがとう」
なんだか、随分と勢いのある男だ。ぐいぐいくる点はフランツと似ているのだが、不思議と鬱陶しさを感じさせないのは、風格のせいだろうか。そこはかとなく、大物感がある。
「あんた、貴族だよな?」
「はい。西部地域を統括するウォートランド卿は、私の父親です」
「ああ。あの人の息子か」
ということは、ライカにとってはオジさんにあたる人物だ。
「親父さんには、いろいろと世話になってるぞ。立派な人だよな」
『覇王丸さんが……他人を褒めた? ……そんな馬鹿な』
(馬鹿はお前だ)
いくら俺の性格が捻くれていようと、他人を褒めることくらいある。
山田に茶化されて俺は不機嫌になったが、肉親を褒められたシャロムは「そうなんです」と上機嫌になった。親を褒められて喜ぶということは、親子関係は良好なようだ。
「偉大な父親を持つと、息子は苦労するものなのです。オターネストを魔王軍に占領された時は、親父殿が隠居する前で良かったと、兄弟一同、胸を撫で下ろしたものですが、今となっては、いつになったら隠居してくれるのかと、全員がヤキモキしている有り様で」
「へえ」
「私も、もう前線で指揮を揮うような年齢ではありませんので。なし崩し的にオターネストの執政官になれないものかと画策しているところです」
「そういう話は、胸の中に留めておいてくれないかな」
少なくとも、初対面の相手に話すことではないし、ましてウォートランド侯爵と知り合いの俺に打ち明けられても、返答に困る。
「ところで、もし、勇者殿とロザリア殿下の間に女のお子様が産まれましたら、その時は私の息子と結婚させたいのですが、いかがでしょうか?」
「だから、気が早いんだよ」
それに、そんなことになろうものなら、俺の嫁の従兄弟が、俺の娘の夫になるという、訳の分からない事態になってしまう。家系図も大混乱だ。
「今日は日帰りの予定だから、さっさと本題に入りたいんだけど」
「ああ、これは失礼しました。既に準備は整っております」
シャロムは照れ笑いを浮かべると、俺を先導して執務室の外に出た。
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