オターネスト訪問
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国王から作戦実行の許可を取った後、日を改めて、俺は西部地域の港湾都市オターネストを訪れた。日帰りの予定なので、俺一人での訪問だ。
駐留していた西部軍の兵士の案内で、馬車に乗って都市を見て回る。
魔王軍から都市を奪還して以来、オターネストでは西部軍主導の下、急ピッチで復旧作業が進められているようだ。
なぜ、軍が主導しているのかというと、その理由は三つある。
一つは、現在、オターネストの執政官の地位が空席になっているため。
これは、かつて同都市の執政官だったフランツが、魔王軍に都市を奪われた責任を取る形で、その職を解任されたことが原因だ。
一応、懲罰人事の意味合いもある上に、現在、フランツはウォートシエイラの執政官を任されているため、多分、復帰することはないだろう。
もう一つは、単純に復旧作業は重労働なので、軍が組織的に動いた方が捗るため。
そして、最後の理由は、先の戦闘において投降した魔王軍の獣人部隊の兵士が、捕虜として大量に捕らえられているためだ。
魔王軍の獣人部隊は、ほぼ全員が獣の顔をした「獣の血が濃い獣人」なので、当然のように個々の戦闘力は平均的な「普通の人間」よりも高い。
そんな獣人の捕虜を大量に抱え込んでいる状況下で、軍が撤収するわけにはいかないのだろう。
「捕虜にも復旧作業を手伝わせているのか?」
都市を視察する道すがら、道の端に積み上げられた瓦礫を、馬車の荷台に乗せている獣人を見つけた俺は、案内役の兵士に尋ねた。
「数人の班に分けて、監視の下、交代で作業をさせております」
「自分たちで壊したんだから、自分たちで復旧しろってことか?」
「いえ。むしろ、向こうから屋外での労役を希望してきたようです」
「そうなのか?」
意外ではあったが、その理由を尋ねたところ、まあまあ納得のできるものだった。
どうやら、獣人というのは、体を自由に動かせない、狭い空間に閉じ込められる、昼夜の区別がつかないという環境に、大きなストレスを覚えるらしい。そんなの、普通の人間でも同じだと言いたいところだが、獣人は特にその傾向が強いようだ。
「それじゃ、地下牢なんて、獣人にとっては地獄みたいなものだな」
「そのようです。元々、捕虜の数に比べて、牢屋の数が全然足りておりませんので、現在では問題行動を起こした者だけを、懲罰的に地下牢に収容しております」
そうすると、たいていの獣人は十日もしないうちに音を上げて、反省の弁を述べ、模範囚のように態度を改めるらしい。
「狭い部屋でじっとしているくらいなら、外で働いた方がマシってことか」
力自慢の獣人にとっては、瓦礫の撤去作業など散歩のついでの準備運動、あるいはちょっとしたレクリエーション感覚なのかもしれない。
「屋外で作業をさせて、暴動が起きたりはしなかったのか?」
「画策した者はおりますが、未然に阻止いたしました」
やはり、そのような動きはあったらしい。
「そのようなこともありましたので、現在は監視を強化し、屋外作業に従事させる時は手足を縄で拘束しております」
そう言うと、案内役の兵士は「前へならえ」をするように両腕を伸ばした。
「だいたい、これくらいの幅ですね」
「なるほど」
間隔としては、四、五十センチくらいだろうか。
それくらいの長さがあれば、走ることはできなくても、狭い歩幅で歩くことはできる。
腕を左右に広げることはできないが、目の前の作業をこなすことはできるだろう。
『でも、それだと武器を持って、上下に振り回せますよね?』
危なくないですか? と。
山田が疑問を呈してきたが、別にそこまで危険ではない。
腕を左右に広げられないということは、正面で起こることにしか対処できないということだからだ。
右で起きたことに対処するには、体ごと右を向かなければならない。左も同じ。
要するに、左右の両睨みができないので、挟み撃ちにされた時点で詰んでしまうのだ。
『でも、獣人なら縄くらい嚙み切れますよね?』
(手の縄はな。でも、足は無理だろ)
前屈みになってモゾモゾと動いていたら、さすがに監視に気づかれてしまう。
地下牢送りになるリスクに対して、あまりにも成功率の低い賭けだと言える。
(しかも、成功したところでどうするんだって話だからな)
獣王クラスの化け物が自由の身になるのであれば、形勢逆転も起こり得るかもしれないが、一兵卒がそうなったところで「だからどうした」というレベルの話だ。
警笛を鳴らされてしまえば、もうどうしようもない。
逃げるにしても、海側に退路はなく、かといって陸側にはゴールが無い。
オターネストは、捕虜になった獣人部隊にとって陸の孤島なのだ。
「あとはまあ……。問題行動を起こした場合、連帯責任にすると伝えてありますので。それが効果的なようです。あまり褒めたられたことではありませんが」
「獣人は同族意識が強いからな」
どんどんやればいいんだ、と。
苦笑いを浮かべる案内役の兵士の言葉を、俺が気にするなと笑い飛ばしたところで、馬車は都市の中心にある庁舎に到着した。
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