事前準備
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次回の更新は明日です。
俺がウォートランド侯爵を経由して、オターネストの西部軍に事前に頼んでおいたこと。
それは、捕虜になっている獣人部隊の兵士と、話をしたいというものだ。
オース海峡を越えてトレンタ大陸に上陸する作戦――――その最大の目的は、海路では片道十日もかかる行程を短縮することにあるのだが、それ以外にも(ついでに)敵地で情報収集をするという第二の目的がある。
トレンタ大陸のほぼ全域が魔王軍の手に落ちて、ニ大陸間の交易が完全に途絶えてからというもの、オット大陸側の人類は魔王軍に関する新たな情報を入手できずにいる。
その一方で、魔王軍は人類側の支配地域である神聖教会の聖地にまで、スパイを潜入させている(いた)ので、人類側は情報戦で大きく後れを取っている状況だ。
いつの時代も、情報が戦局に与える影響は大きい。時にそれは、勝敗を左右する決定的な要因になることもある。
例えば、俺が四大貴族の赤髪侯に勝つことができたのは、前もって「夜になったら山火事を消すほどの雨が降る」と知っていたからだ。
その他にも、獣王の副官を務めていた仮面の魔人――――フィオレと話をしたり、竜の巣の反転攻勢に同行して魔王軍の兵士と交渉したりする過程で、俺たちはかなり有益な情報を得ることができた。
正確な情報は、効果的な対策につながる。
今回の作戦でも、俺たちが魔王軍に関する何らかの情報を持ち帰ることができれば、それは人類にとって値千金の価値を持つことになるだろう。
だが、いきなり敵地のど真ん中に潜入するのは、難易度が高すぎる。特に身長二メートルの俺は、体格的に目立ちすぎるので、はっきり言って潜入には不向きなのだ。
そこで、目を付けたのが獣人国ベスティアであり、黒豹の獣人ハウンドだ。
魔人の国に普通の人間が紛れ込むのは困難でも、獣人の国に獣人が紛れ込むのは容易い。
ただ、ぶっつけ本番で「行ってこい」ではさすがに可哀相なので、俺がこうして手ずから下準備と事前調査に奔走しているのだ。
(ホント、俺って優しいよな)
『自画自賛が過ぎる』
山田と無駄話をしつつ、シャロムに案内されて到着した部屋に入ると、そこには魔王軍の兵士と思われる一人の獣人が椅子に座っていた。
馬車で都市を視察していた際、案内役の兵士が言っていたとおり、一定のあそびを持たせた縄で両手と両足を縛られている。
「犬……狼の獣人か?」
「そうです」
「ふーん。なんか、犬とか狼の獣人が多いような気がする」
「さすがですね。実際、そのとおりです」
シャロムの話では、捕虜になっている獣人の実に六割以上がイヌ科の獣人らしい。
『犬の方が軍人向きと言うか、兵士向きなのかもしれないですね。猫はどちらかと言えば王様タイプじゃないですか。単独行動を好むと言うか』
(分かるような、分からないような)
ただ、黒豹はネコ科なので、それをハウンドに当てはめると納得できるような気がする。
(あいつ、どういうわけか一人部屋に泊まりたがるからな)
いずれにしても、ネコ科の獣人が単独行動を好むのであれば、ハウンドはますます今回の作戦に打ってつけの人材ということになる。
「勇者殿。私も同席してよろしいですか? 余計な口出しはしませんので」
「いいよ。情報を共有する手間が省けるし。隣で補足説明をしてくれると助かる」
「それならばお安い御用です」
俺とシャロムは刑事が取り調べをするかのように、机を挟んで、捕虜の獣人の対面に椅子を並べて座った。
ちなみに、作戦の内容はまだ軍事機密扱いなので、護衛の兵士は退室させている。
よって、室内にいるのは俺とシャロムと捕虜の獣人だけだが、特に問題は無いだろう。万が一、目の前の獣人が暴れるようなことがあっても、俺一人で対処できる。
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