人間万事塞翁が馬
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明日です。
「死刑になるっていうのは、冗談だ。俺と結婚しなくても死刑にはならないから、そこは安心していい。――――ただ、その場合は多くの制限の付いた人生を送ることになると思う」
結局、俺は何もかも包み隠さずに、言葉を尽くして説得することにした。
「お前はきっと、それを自分への罰として受け入れてしまうと思う。けど、俺はそれが嫌なんだ。一生の問題だし、適当なことを言って誤魔化すつもりはない。勿論、お前のことを利用するつもりもない。だから、今回は俺の策に乗っかってくれないか? 悪いようにはしないし、責任も取るから」
「……ライカちゃんや、ヒナちゃんはどうするんですか?」
「心配しなくても、あの二人とは、昨日、結婚した」
「なに!?」
ロザリアの代わりに、後ろでゲンジロウ爺さんが驚きの声を上げた。
「おぬしは……馬鹿なのか?」
「うるせーよ」
仕方ないだろ、と。
あまりにも性急で出鱈目なやり方であることは自覚しているので、俺は後ろを振り返らずに仏頂面で反論した。
それを正面で見ていたロザリアは、困ったような顔で微笑んだ。
「……なんだか、少しだけ分かった気がします。覇王丸様は要領が良いように見えて、実は悪いんですね」
「ほっとけ」
「勿体なかったかもしれませんよ? 今、甘い言葉の一つでも囁いてくれたら、私はすっかりその気になっていたのに」
「……ホントかよ」
そんなことを言われても、どの道、要領の悪い俺には無理な話だ。
「そういうやり方は、あまり気が進まない」
「はい。それも、覇王丸様らしいと思います」
ロザリアは頷くと、おもむろに両手を差し出して、俺の手を包み込むように握った。
俯いているのと、身長差のせいで、その表情を窺うことはできない。
ただ、指先が微かに震えていた。
「私を……護ってくださるのですか?」
「そうだな。俺が護ってやるよ。いろんなことから」
俺が後ろ盾になる以上、ロザリアに対する批判は、勇者に対する批判になる。
自分で言うのもなんだが、俺は獣王を撃退し、神聖教会と竜の巣を味方に引き込み、反乱を瞬く間に鎮めてしまうほどの軍事力と影響力を持つ勇者だ。まともな損得勘定のできる者ならば、ロザリアを批判して、俺の不興を買うような真似はしない。
加えて、ロザリアは王女として、国内では絶大な人気を有している。
つまりは、世論の反発と、勇者の不興。
政治的な理由でロザリアを批判するには、デメリットが大きすぎるのだ。
「厳密に言えば、お前を護ってくれるのは、この国で暮らす人たちだけどな。お前が誰からも好かれる王女だからこそ、誰もお前には手出しできないんだ。――――ただ、形の無いものに護られるのは不安だろうから、体のデカい俺が近くにいてやるよ」
そう言って、俺が手を握り返して指先の震えを止めると、ロザリアは驚いたような顔をして俺を見上げた。せっかく泣きやんだのに、また涙が零れ落ちそうになっている。
「……いいのですか? 私、面倒くさい女かもしれませんよ?」
「ライカとヒナも大概面倒くさいから問題ない」
ライカは変なところで頑固だし、ヒナはとにかく猪突猛進で遠慮を知らない。
「結婚したら、別れませんよ? 一生、護ってもらいますよ?」
「責任は取るって言っただろ。お前が嫌じゃなければ、言われなくてもそうするつもりだよ」
「嫌なわけが……!」
ロザリアは、それ以上は言葉にならない様子で、涙でくしゃくしゃになった顔を隠すように俺に抱き付いてきた。しがみ付く……という表現の方が適切かもしれない。
俺は子供をあやすようにロザリアを抱き止めて、その背中をぽんぽんと叩くように擦った。
「これは、結婚してくれるってことでいいんだよな?」
「……」
俺の無粋な質問に、ロザリアは抱き付いたままの姿勢で何度も頷く。
「それならよかった」
俺は安心して、胸を撫で下ろした。
ふと横を見ると、
「お前ばっかりズルいんだよなぁ……」
ハウンドが妬ましげな視線で俺を睨み付け、
「収まるべくして収まったか。正に人間万事塞翁が馬だの」
ゲンジロウ爺さんが仲人のような顔をしてニコニコと笑っていた。
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