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76 第16章:復讐の終焉と空虚

第16章 第2節


鎮圧が完了した城下町の外郭を抜け、私は一人、かつて「白亜の城」の裏手に位置していた静寂な小高い丘へと登っていた。


かつてこの場所は、ヴァルハイト伯爵家の私有庭園であり、春になれば白い可憐な花々が一面に咲き乱れる穏やかな休息の地であった。父は政務の合間にこの丘で本を読み、母は手製のお菓子を重箱に詰めて、幼い私と一緒にピクニックを楽しんだ場所。


だが今、私の眼下に広がるのは、白亜の花園などではない。


主冷却炉の熱暴走と薬品爆縮によって完全に破砕され、真っ黒な煙と生体毒の紫煙を吐き出し続ける要塞の残骸。そして、その周囲を埋め尽くす、将軍ヴァルターやザハール魔導中佐をはじめとする千数百名の帝国兵たちの焼死体と、内側から破裂した肉片の山であった。


「……あ……」


遅れて丘を登ってきたシルヴァが、私の背後で足を止め、息を呑む気配がした。


彼女の眼差しは、要塞の全滅という途方もない惨劇の光景と、その惨劇の頂点に一人佇む私の後ろ姿を交互に捉えていた。


五年。

十歳のあの日、温かな家庭と両親の愛、そして人間としての未来のすべてを不条理な暴力によって奪い去られたあの日から、私のすべての行動はこの瞬間のために計算されてきた。


自らの肉体を刃とし、骨格を万力とし、前世の物理・化学・解剖学の知見を駆使して敵のシステムを内側から解剖する。

父の首を刎ねた将軍ヴァルターを、体内の過剰再生血の暴走によって内側から圧殺した。

我が一族の血をすり潰し、領民を家畜として扱ったザハール魔導中佐を、自作の可燃性気体密室の中で三千度の熱波とともに蒸発させた。

そして、二人の仇敵とともにこの地に集結していた帝国軍第3師団という巨大な暴力の機構そのものを、一片の生存者すら出さずに完全消滅させた。


物語の筋書きであれば、ここでひとつの巨大な「結末」が訪れるはずだ。


両親の無念を晴らした復讐者は、亡き父母の墓前に膝をつき、積年の哀涙を流すのだろう。

「父様、母様……仇は討ちました」と声を震わせ、積もり積もった怨念と痛みを吐き出し、奪われた温かな思い出に縋りついて号泣するはずだ。あるいは、復讐を成し遂げた達成感と虚無感の狭間で、胸を焦がす熱い感情に身をよじるはずだった。


だが——。


煙の立ちのぼる廃墟を見下ろす私の心の中に湧き上がってきたのは、涙でも、復讐の快感でも、哀惜の情すらでもなかった。


そこにあったのは、完璧なまでに冷え切った、絶対的な「冷めた感覚(無感覚)」だけであった。


(心拍数、毎分六十分。自律神経の乱れ、ゼロ。ホルモン分泌による感情的動揺……感知されず)


私は自らの左胸——かつて「心」と呼ばれた肉体組織の鼓動に、そっと自らの右手を当てた。


静かで、規則正しく、何の乱れもなく脈打つ心臓の音。


父を殺した男を殺し尽くした。

母を踏みにじった男を肉片に変えた。

故郷を破壊した軍隊を全滅させた。


しかし、そのどれほどの血を流そうとも、前世の物理法則における「不可逆性」の真理が覆るわけではないのだ。


死んだ人間は、いくら仇を殺したところで生き返りはしない。

焼き払われた肉体は、どれほど仇敵の血を注ごうとも、二度と五年前の温もりを取り戻すことはない。

壊されたシナプス回路は、過去の幸福な思い出を「熱い感情」として再生させる能力を永久に失っている。


「……レヴナント様……」


シルヴァが、耐えかねたように震える声で問いかけてきた。


「本当に……終わったのですね。ご両親の直接の仇も、この地を汚していた軍勢も……あなた様の手によって、一人残らずこの世から消え去りました……」


彼女の声には、私という存在に対する畏怖とともに、過酷すぎる戦いを終えた一人の少年に対する、微かな哀憫(あいびん)が含まれていた。


「あなた様の胸の中には……今、何が残っておられますか……? 怒りは……悲しみは……少しは、癒やされたのでしょうか……?」


私はゆっくりと振り返り、シルヴァを見つめた。


その瞳——両親の仇をすべて殺し尽くしたはずの私の「死んだ目」には、以前と全く変わらない、光も影も存在しない無機質な暗黒だけが横たわっていた。


「癒やし?」


私は静かな、高低差のない声で応じた。


「シルヴァ、お前はまだ勘違いをしている」


「……え……?」


「穴の開いた水槽に、どれほど大量の血液を注ぎ込もうとも、水槽が満たされることはない。……最初から『感情』という名の受容器官を物理的に破砕されている私にとって、復讐の完遂とは、心を癒やす行為などではない」


私は足元に転がっていた、黒焦げた瓦礫の破片を無造作に靴底で蹴り飛ばした。


「前世の計算作業と同じだ。長年放置されていた複雑な多項式(方程式)の解を導き出し、最後に『ゼロ』という数値を記入して計算用紙を閉じた……ただそれだけの感覚だ」


「ゼロ……」


「そう。仇を殺せばマイナスがゼロになるわけではない。元より存在しない過去の幸福という不純物を切り捨て、ただ目の前の害獣を解剖学的に処理し終えたという『作業完了の報告』に過ぎん」


私の言葉には、狂気すら含まれていなかった。

それがあまりにも純粋で、無感情から導き出された絶対の物理的事実であったからこそ、シルヴァは言葉を失い、喉を詰まらせてその場に凍りついた。


悲しむこともできない。

喜ぶこともできない。

復讐の達成感に浸ることすら許されず、自らの手足を犠牲にして叩き出した大惨劇の頂点で、ただ「作業が終わった」という冷めたデータだけを抱えて佇む少年。


それは、哀れな復讐者の姿などではない。

人間としてのあらゆる情緒を切り捨て、自らを完璧な屠殺・解剖装置へと作り替えた、動く棺(レヴナント)そのものの姿であった。


「父の死も、母の死も、そしてヴァルターやザハールの死も……私にとっては単なる物理現象の推移に過ぎない」


私は黒磁の短剣を鞘へと滑り込ませ、カチリと静かな金属音を響かせた。


「仇をすべて殺し尽くした後に残ったのは……ただ冷え切った自傷再生の肉体と、計算通りに敵が全滅したという完璧な解剖記録だけだ」


夜風が、高台の私の髪を冷ややかに揺らしていく。


かつて温かな愛が満ちていたこの故郷の丘で、両親の仇をすべて殺し尽くした暗殺者レヴナント。

熱い涙も、途方もない虚無すらも置き去りにし、完璧な無感動という冷めた防壁を身に纏ったまま、彼は次なる目的——この理不尽な世界そのものを解剖するための新たな一歩を、静かに踏み出すのだった。

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