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74 第15章:城塞の罠と化学爆破

第15章 第5節


摂氏三千度を超える激熱の火炎と、音速を超越した超高圧の爆縮波が、密閉された「第1生体実験中枢」を内側から破壊し尽くしていた。


ドガァァァァァァァァンッ!!!!


最上階の大広間に充満していたジエチルエーテル、高圧メタンガス、そして気化された過剰再生血のエアロゾルが一瞬で連鎖起爆したエネルギーは、もはや一つの部屋の範疇に収まるものではなかった。


白亜の城の天井を覆っていた厚さ数十センチメートルの対魔導装甲板が、内側からの爆圧によって紙くずのように引き裂かれ、空高くへと吹き飛ばされる。


「ひ……ぎぁぁぁぁぁぁぁっ……!????」


主魔導制御台の上で逃げ場を失っていたザハール魔導中佐、そして数十名の帝国魔導技師たち。


彼らが何年もかけて築き上げてきた不死の理論も、身に纏った高級な防護魔導衣も、熱化学爆発の絶対的な物理エネルギーの前には一片の価値もなさなかった。爆風が直撃したコンマ数秒の間で、彼らの身体は炭化する時間すら与えられず、皮膚、筋肉、内臓、骨格に至るまでが分子レベルで叩き潰され、無残に気化・蒸発して空間から掻き消された。


我が一族の血を解剖し、すり潰し、領民たちを家畜として弄んだ天才魔導士ザハールは、自らが溜め込んだ薬品と自爆用トラップの密室の中で、悲鳴の途切れとともにこの世から完全に消滅した。


だが、大爆発の牙はそれだけに留まらなかった。


大広間で逃げ場を失い、超高圧となった熱波と衝撃波は、私が事前に誘導・固定しておいた「中央昇降シャフト」ならびに「主階段」へと向けて、まるで巨大な魔導大砲(キャノン)の砲身から打ち出される砲弾のように、一気に下方へ向けて集中噴射された。


ズドォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!


『——ひ、火がっ!? 上層から炎の槍が降りてくるぞぁぁぁぁっ!?』

『退け! 退けぇぇぇっ! 階段が詰まって降りられ——』

『ぐあああぁぁぁぁぁっ!???? 身体が……肉が溶け——』


昇降シャフトと主階段の内部に、ぎゅうぎゅう詰めに密集していた帝国軍第3師団第2増援連隊の一千余名。


彼らは前進することも、後退することもできぬまま、狭い筒状の通路の中で、上層から叩きつけられた衝撃波と熱線の直撃を真っ正面から喰らった。


圧砕。そして熱気化。


狭い空間に閉じ込められた爆風は衝撃波を何十倍にも増幅させ、重装甲兵たちの強固な鉄甲冑を内側の肉体ごとペシャンコに押し潰した。続いて押し寄せた三千度の火炎が、逃げ惑う兵士たちの肺と喉を内側から焼き尽くし、一千を超える人間をまとめて焼き払っていった。


ドォン! ドォォォォンッ!


さらに、要塞の最深部に位置していた「主冷却炉」が、過熱された過剰再生血と爆縮波のショックによってついに限界を突破。熱暴走による大爆発(炉心溶融誘爆)を引き起こした。


要塞の土台そのものが下から大きく跳ね上がり、何千トンもの魔導コンクリートと岩盤が派手に砕け散る。


要塞外郭に配置されていた三十二基の魔導砲座は崩落した地盤ごと土砂に呑み込まれ、残存していた試作型不死兵士三百体も、培養槽ごと高熱の魔導オイルの中に没して全滅した。


帝国軍第3師団——かつてヴァルハイト伯爵領を夜襲し、我が故郷を惨劇の実験場へと変え、周辺諸国へ侵略の脅威を振り撒いていた敵国最精鋭の主力軍。


将軍ヴァルター、ザハール魔導中佐、暗殺ギルドの精鋭、そして一千を超える正規軍歩兵連隊。


そのすべてが、私が構築した物理・化学・自傷再生のハメ殺しの方程式の前に、たった一晩の爆縮劇によって、文字通り「完膚なきまでに全滅」したのだ。


◇


爆風が去り、不気味な煙と赤黒い熱気が渦巻く最上階の瓦礫の小山。


すべてが吹き飛び、天が剥き出しとなったその場所で、泥と煤に塗れた瓦礫の隙間から、ゴソリと音が響いた。


バキッ……。


焼き尽くされた肉の破片と、黒く焦げた骨格の小山が内側から弾けた。


シュゥゥゥゥ……と猛烈な生体蒸気を噴き出しながら、そこから立ち上がったのは、左腕と右脚を骨ごと吹き飛ばされ、全身の皮膚の八割を気化された「肉の怪物」であった。


私——アレン・フォン・ヴァルハイト(レヴナント)。


前世の医学的定義における「全細胞の九九パーセントの瞬間気化」。

爆縮の直前、私は自らの肉体をシルヴァに覆いかぶせることで『生体防波堤』とし、初期衝撃波の大部分を自身の過剰再生体で物理吸収していた。


普通の人間の生体であれば、一瞬で分子レベルまで分解されて死に至る熱量。


しかし、私の体内に宿る「再生」の狂乱的な生体エネルギーは、心臓の奥に僅かに残された過剰再生因子の核から、コンマ数秒で爆発的な自己再構築を開始した。


バキバキバキバキバキッ……!!!!!


失われた左腕の骨が過剰な勢いで生え伸び、削ぎ落とされた筋肉と筋組織が泡立つように膨らみ、瞬く間に真新しい皮膚が全身を覆い尽くしていく。コンマ三秒。吹き飛ばされていた右脚も、骨格から完璧に再生を遂げ、私は無傷の状態で瓦礫の上にしっかりと両足で立ち上がった。


私の背後、私の肉体の影となって爆圧を免れていたシルヴァが、私の過剰再生血の保護皮膜から這い出し、荒い息を吐きながら立ち上がった。


「ハァ……ハァ……っ! レヴナント様……っ!」


彼女の銀灰色の瞳が見つめたのは、見渡す限りの壊滅の光景であった。


かつて帝国軍が誇った「ヴァルハイト要塞」は、跡形もなく崩壊していた。

巨大な防衛壁は粉々に砕け、何十本もの煙突は折れ曲がり、地下の実験施設も、魔導砲座も、そして何千人もの帝国兵たちも、すべてが高熱の土砂と血の海の下へと埋め立てられていた。


静寂。


夜風が、燻る煙と焦げた生体薬品の臭いを吹き流していく。


あんなにも絶大で、理不尽で、五年前の私からすべてを奪い去った帝国軍第3師団という巨大な暴力のシステム。それが、いまや私の足元で、沈黙するただの黒焦げた肉と鉄のゴミの山へと成り果てていた。


「終わりました……」


シルヴァが、茫然とした声で呟いた。


「敵軍主力……第3師団、全滅。将軍ヴァルター、ザハール中佐、不死兵士……全て、消滅いたしました……」


彼女の眼差しには、信じられないほどの驚愕と、この狂気的な殺戮を成し遂げた私という存在に対する、絶対的な戦慄が宿っていた。


たった一人。

自らの肉体を切り刻み、骨を刺し込み、物理と化学の法則に従って敵のシステムそのものを内側からハメ殺した十五歳の少年。


彼が成し遂げたのは、単なる復讐劇ではない。一国を揺るがす軍事拠点を、たった一人の「自傷再生の暗殺者」が完膚なきまでに解剖し、全滅させたという、暗黒の神話であった。


「……あぁ」


私は再生したばかりの右手の短剣を静かに引き抜き、手首の血を拭い取った。


私の「死んだ目」には、仇敵を全滅させた達成感も、故郷を取り戻した喜びすらも存在しなかった。


ただ、冷酷な解剖学者が、予定されていた膨大な実験工程をすべて狂いなく完了させた後のような、どこまでも静かで冷え切った平穏だけが広がっていた。


「害獣の全滅作業……完了だ」


過去の思い出を捨て、自らの心すらもハメ殺しの方程式の刃へと変えた死に損ないの棺。


自由を得た暗殺者レヴナントは、崩壊した要塞の瓦礫を踏み越え、月光の差す夜の闇の中へ向けて、静かにその足を踏み出していくのだった。

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