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70 第15章:城塞の罠と化学爆破

第15章 第1節


将軍ヴァルターの巨躯が、自らの体内で暴走した過剰再生の生体圧力によって内側から惨絶に破裂し、泥と血の海へと変わった制御室。


肉片と化させた仇敵の残骸を踏み越え、私とシルヴァは、要塞の真の心臓部——かつてヴァルハイト伯爵家の本館『白亜の城』の基盤であり、現在は帝国軍の最重要機密区域となっている「第1生体実験中枢」へと続く重装甲エレベーターシャフトの内部へと足を踏み入れた。


地鳴りのような重低音が、要塞の骨組みを激しく揺らし続けている。


地下水脈を通じて私が注ぎ込んだ「高濃度過剰再生血」は、要塞の主冷却炉、生体精錬パイプライン、そして兵士たちの飲料水循環系へと飽和・浸透していた。要塞全域の配管からは、限界を超えた過熱と生体反応による紫煙と蒸気が噴出し、壁面の魔導回路が激しい火花を散らして明滅を繰り返している。


「レヴナント様、主冷却炉の熱暴走による全域誘爆まで……もはや時間がありません」


追従するシルヴァが、不気味に熱を帯び始めたエレベーター壁面の温度を感知し、低い声で進言した。


「上層の第1実験中枢には、ザハール魔導中佐と、彼が率いる最後の防衛戦力——完成型『不死兵士』の精鋭小隊が固まっています。主冷却炉が破裂すれば、この要塞全体が吹き飛びます。一刻も早くザハールの首を討ち取り、脱出経路を確保しなければ……」


「逃げ道の確保など、最初から計算に入れていない」


私の「死んだ目」が、不気味に赤く光るエレベーターの制御盤を冷徹に見つめた。


「ザハールは天才的な魔導士だ。彼は要塞の異常をすでに察知し、自分だけが助かるための緊急脱出用転移術式、ならびに最上階の防衛結界をすでに起動させている」


そう。敵の指揮官・ザハール魔導中佐は、ヴァルターのような筋肉と暴力の猛将ではない。冷酷なまでの合理主義と、科学者にも匹敵する精密な魔導計算を誇る人物だ。


彼ならば、要塞の冷却系が異常をきたし、防衛線が内側から崩壊しつつある現状を前にして、即座に「要塞全体を捨て駒にし、自分だけが研究成果を持って脱出する」という最短の最適解を弾き出しているはずであった。


そして、彼が最上階の実験中枢に引きこもり、防衛結界と転移術式のチャージを待っていること——それこそが、私の構築する「城全体を巨大な殺傷部屋(トラップハウス)に変える最終仕込み」における、絶対の前提条件であった。


「ザハールに脱出の隙など一秒も与えん」


私は右手の黒磁の短剣の刃を、自らの左手首の動脈へ深々と突き立てた。


ドシュッ……!


鮮血が噴出する。だが、私はその苦痛に眉ひとつ動かさず、切開された手首から溢れ出る高濃度の過剰再生血を、エレベーターシャフトの壁面を這う「要塞主魔導伝導ライン(メイン・バス)」の露出した銅線と魔導結晶へ向けて、力任せに塗りつけた。


バチバチバチバチバチッ!!!!


私自身の過剰再生魔力を帯びた血液が、要塞全体の魔導回路の「神経系」へと直接介入(ジャック)を開始した。


【警告:中央魔導伝導ラインに未知の生体波長が混入……制御権の強制書き換えを検知……】


「……っ!? これは……城全体の物理構造そのものを、あなたの魔力で書き換えているのですか!?」


シルヴァが息を呑んだ。


そう。単に過剰再生血を毒として循環させるだけではない。

私は先ほど暗殺ギルドのギルド長・ファーストから強引に奪い取り、自らの左手首の生肉と融合させた「思考封殺結界の魔導腕輪(マスター・キー)」の権限をフル稼働させ、要塞全体の「環境・建築・魔導システム」そのものを、私自身の「生体拡張器官」として同期(ジャック)させていたのだ。


建築工学、自動制御理論、ならびに生体化学の融合。


かつて私の父が暮らし、優しさと暖かさに包まれていた「白亜の城」。

その城の壁、床、天井、換気口、水路、そして防衛結界のすべてのシステムが、いまや私の血液を導線とし、私の狂乱的な自傷再生魔力を動力源として、進入した者を絶対に生かして出さない「閉ざされた巨大な生体屠殺箱(トラップハウス)」へと作り替えられていく。


「第一段階……全緊急退避区画ならびに脱出ポッドの閉鎖(ロック)」


私が指先を滑らせると、要塞の外郭に設置されていたすべての非常脱出口と転移ポッドのハッチが、重厚な鋼鉄音とともに物理的に完全溶接・閉鎖された。


「第二段階……気化過剰再生血(エアロゾル)の全通気管への強制逆流」


地下の精錬精製タンクに蓄えられていた数千リットルの過剰再生血と、冷却水の蒸気が、要塞内部の無数の通気ダクトを通って、最上階の第1実験中枢へ向けて高圧で噴出を開始した。


「第三段階……防衛術式の反転(フィードバック)」


ザハールが外部からの侵入を防ぐために最上階に張り巡らせた「高圧熱線結界」と「空間遮断障壁」。私はその結界の指向性を、内部から血液回路を伝って強引に反転させた。


外部からの侵入を防ぐための堅固な壁が——内部にいるザハールと不死兵士たちを二度と外へ出さず、内部で発生する熱と過剰再生毒を一切外へ逃がさない「完全密閉の加圧蒸気室」の壁へと変貌したのだ。


「城全体が……巨大な殺傷部屋……」


シルヴァが、震える声でその全貌を言葉にした。


敵が自分を守るために築いた堅固な要塞。

敵が自分だけ助かるために起動した防衛結界。

敵が効率よく要塞を運営するために敷設した循環パイプライン。


それらすべての「敵の技術と構造」が、私のたった一滴の血液と解剖学的ロジックによって、敵自身をハメ殺すための自爆装置・拷問器具へと反転させられていた。


「ザハールは今頃、自分が完璧な要塞の頂上で転移術式の完成を待っているつもりだろう」


エレベーターが最上階——第1生体実験中枢の重厚な扉の前で、ガコンと重い音を立てて停止した。


扉の向こうからは、すでに気化された過剰再生血の紫煙が充満し、閉じ込められた不死兵士たちの異形化と、原因不明のシステム異常に混乱する帝国魔導技師たちの悲鳴が漏れ聞こえていた。


「だが……彼が足を踏み入れているその部屋そのものが、すでに彼の肉体と魔導回路を内側から解剖し、破滅させるための『私の手の中の密室』なのだ」


私は右手で黒磁の短剣を低く構え直した。


過去の故郷の思い出も、家族の温もりも、何もかもが失われたこの城。

だが今、この城全体が、仇敵ザハールを絶望の極限へと叩き落として圧殺するための、完璧に計算された巨大な自傷再生の仕掛け部屋として完結した。


「行くぞ、シルヴァ。最後の解剖実験の幕を上げる」


静かに開く最上階の扉。

焦熱と過剰再生毒が渦巻く殺傷部屋の奥へ向けて、暗殺者レヴナントは、最後にして最大のハメ殺しを完遂するために、静かに足を踏み出していった。


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