67 第14章:血統保持者(敵国将軍)との死闘
第14章 第3節
気管と肺の内部へ高濃度の過剰再生血を流し込まれ、喉の奥から沸き立つ己の肉の瘤によって窒息の地獄へと突き落とされた将軍ヴァルター。
「ガはぁぁぁっ……! ぐ、ふぅぅぅっ……!!」
彼の目が血走り、硬化した褐色の首筋には紫黒色の太い血管が狂ったように浮き出ていた。だが、数多の惨劇の修羅場を潜り抜けてきた帝国軍第3師団長としての狂執は、呼吸の途絶という絶望的な物理障害すらも一瞬の力任せで押しのけようとした。
「ぬ……舐めるなよぉぉぉ……! 青二才がぁぁぁっ!!」
ヴァルターは肺の破裂と窒息の激痛に顔面を歪ませながらも、体内に残された膨大な気力と金剛血統の腕力を爆発させた。彼の両腕の筋繊維が巨木のごとく太く跳ね上がり、固く握り締められた金剛の拳が、私の至近距離から連続で叩き込まれた。
ドガァァァンッ! ドカァァァンッ!!
「ぐあ……っ……!」
逃げ場のない超近接戦。金剛の拳が私の腹部と右肋骨を相次いで穿ち、肉を破砕し、骨を粉々に叩き折る。衝撃波が背後の魔導コンクリート壁を放射状に粉砕し、室内に瓦礫の雨を降らせた。
「レヴナント様……っ!!」
影から突入の機会を伺うシルヴァの悲痛な叫び。
普通の人間の戦士であれば、いくら再生能力があろうとも、この超高圧の質量打撃を連続で食らえば肉体の構造を維持できず、脳揺散と全身の骨格粉砕によって即座に運動機能を全廃させられるだろう。
だが——。
私というシステムにおいて、自らの肉体の損壊は「敗北」でも「危機」でもない。
それどころか、破壊され、断裂し、溢れ出る自らの手足の肉と骨こそが、金剛の肉体を持つ敵を逃がさずハメ殺すための「最高の粘着・鎖機構」なのだ。
(敵の表皮の完全硬化範囲……肩関節、肘関節、ならびに膝関節の可動隙間(関節包)……)
私の「死んだ目」は、叩き込まれる一撃ごとに、ヴァルターの強靭な肉体構造の『解剖学的間隙』を冷徹にスキャンし続けていた。
敵の金剛血統の表皮は、外側からの刃を弾き返す。
しかし、肘や膝、肩といった「関節を折り曲げるための隙間」まで完全に結晶化させてしまえば、彼は一切の関節運動を行えなくなる。つまり、関節の隙間の皮膚は、可動性を確保するために他の部位よりもわずかに薄く、柔軟な生体膜によって構成されていたのだ。
(自らの手足を犠牲にし、敵の関節の隙間へ肉体を力任せに肉薄・食い込ませる……物理的完全固着の完遂)
「死ね! 死ね! 死ねぇぇぇっ!!」
ヴァルターが狂乱のままに繰り出した、私の左肩を粉砕せんと迫る右ストレート。
私はその必殺の拳を、回避するどころか——あえて自らの「左腕全体」を犠牲にして、正面から受け止めた。
グシャァァァンッ!!
凄まじい肉の破砕音。
私の左腕の肉と骨が、ヴァルターの金剛の拳の衝撃によって一瞬でペシャンコに潰れ、腕の骨が何十もの尖った破片となって皮膚を突き破って飛び出した。
「な……っ! 自ら腕を破砕させ——!?」
ヴァルターが目を見開いたその瞬間。
私は潰れた左腕の「飛び出した砕けた骨の破片」と「断裂した筋組織」を、そのままヴァルターの右肘関節の隙間(関節包)へ向けて、力任せに深々と突き立て、食い込ませた。
ズスッ……バキバキバキッ……!!
「ぐあぁぁぁっ!?」
ヴァルターの口から絶叫が漏れた。
私の砕けた左腕の骨が、彼の右肘関節の可動隙間へ刺さり込み、同時に私の過剰再生の魔力が爆発。潰れた私の左腕の肉と筋肉が、ヴァルターの肘関節を包み込むようにして狂乱的な速度で「異常再生・肉の癒着」を起こしたのだ。
私の壊された左腕の肉と骨が、ヴァルターの右腕と「解剖学的に生体結合(肉薄化)」し、彼の右肘を二度と曲げ伸ばしできない万力として物理固定した。
「な……何だこれは……っ!? 自らの腕を潰して……ワシの関節に肉を癒着させたというのか……!? 離せ! 離れろぉぉぉっ!!」
ヴァルターが狂乱して左拳を振るい、私の右脚の膝を粉砕した。
ゴキィィィンッ!
私の右膝の関節が逆方向に折れ曲がり、大腿骨が肉を破って飛び出す。
だが、私はその激痛に眉ひとつ動かさず、折れ曲がった自らの右脚の骨と肉を、今度はヴァルターの左膝関節の裏側(臠窩)へ向けて、容赦なく深々と噛み合わせ、巻き付けた。
バキバキバキバキッ……!!
「ひぃっ……!? 膝が……脚が動かん……っ!???」
私の折れた右脚の骨と、爆発的に増殖する筋肉が、ヴァルターの左膝関節の隙間へ食い込み、彼の左脚を物理ロックした。
腕を犠牲にし、脚を折り砕き、自らの身を削りながら敵の関節へと肉薄する。
その戦いぶりは、もはや暗殺者という言葉すら生ぬるい。自らの肉体を切り刻み、骨を刺し込み、相手の全身の関節を「自らの生の肉と骨の万力」によって強制的に結合させ、逃げ場を奪っていく——暗黒の怪異そのものの地獄絵図であった。
「な……何なんだ貴様は……っ!? 痛みの感覚はないのか……!? 人間ではない……貴様は怪物だ……!!」
両腕と片脚を私の破砕された肉と骨によって関節ごとガチリと噛み合わされ、一歩も動けなくなった金剛の将軍。
外側からの刃をすべて弾き返す彼が、自らの腕と脚に「人間の破砕された肉と骨」が寄生虫のごとく巻き付き、関節の動きを奪われているという現実。
「痛みの感覚?」
両腕と右脚をボロボロに損壊させ、自らの骨を敵の関節へ突き立てたまま、私は感情の削ぎ落とされた声で、至近距離からヴァルターの瞳を見つめ返した。
「生理学に基づけば……痛みとは、肉体の異常を脳へ伝達するための『単なる電気信号の入力』に過ぎん」
私の「死んだ目」が、呼吸腔を塞がれ、関節を固定されて死の恐怖に震える将軍を映し出す。
「脳へ送られる電気信号など、意識の演算領域から切断すれば何の問題もない。……私にとって、この壊れた自らの手足は、お前という強靭な肉体を完全にハメ殺すための『使い捨ての固定用ボルト』だ」
「ひっ……ひぃぃぃぃっ……!!」
ヴァルターの喉から、武人としての誇りを完膚なきまでに砕かれた、情けない悲鳴が漏れ出た。
自分が誇っていた「絶対の硬度の肉体」。それが、目の前で自らの手足を躊躇なく潰し、骨を突き立てて関節を万力固定してくる狂気の怪異の前には、何の意味もなさない「身動きの取れない石像」へと成り果てていたのだから。
「仕留める」
私は唯一無傷で残されていた右手に握った黒磁の短剣を、ゆっくりと掲げた。
自らの肉体を犠牲にして敵の関節へ肉薄し、逃げ場を完全に奪う怪異の戦い。
絶対の硬度を誇る金剛の将軍ヴァルターの命脈は、いまや暗殺者レヴナントの構築した完璧なハメ殺しの密室の中で、ついに最後の一閃を迎えようとしていた。




