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56 第12章:ギルド脱走と領地への進軍

第12章 第2節


二番と五番の凄惨な死体が床に転がり、彼らの死体から溢れ出た体液と私の血が混ざり合って、密閉された空間内に濃密な鉄と薬品の臭いを充満させていた。


「距離を取れ! 魔導針で刺し穿て!」


一番(ファースト)の冷酷な指令に従い、生き残った六人の「上位の影」たちが一斉に間合いを跳び滑らせた。彼らは私の「自傷再生による超近接拘束」の恐怖を目の当たりにしたことで、二度と間合いを詰めまいと、壁際に沿って円陣を描くように散開した。


投擲——。


数十本の魔導針と、麻痺毒を塗布した暗器が、雨のように私の全身へ向けて降り注いだ。


バババババババッ!


逃げ場のない狭い密室。私は回避の動作すら挟まず、あえてその暗器の大半を正面から受けて立ち続けた。両肩、腹部、太腿に鋭い鉄針が深々と突き刺さり、肉を貫く。


「入った! 麻痺毒が巡るぞ!」

「そのまま動けなくなるまで針を打ち込め!」


刺客たちが狂喜の声を上げた。


しかし——彼らは知らなかった。

私の体内で励起されているのは、単なる自己治癒力ではない。前世の解剖学と薬理学の知識に基づき、体内に入り込んだ異物や毒素を、過剰な代謝速度と細胞分裂の圧力によって「力任せに体外へ押し出す」狂乱の生体排水システムであった。


ズズズズッ……ババッ!


肉体に突き刺さった数十本の魔導針が、私の急速に再生・収縮する筋肉の圧力によって逆噴射するように弾き飛ばされ、壁面へと甲高い音を立てて跳ね返った。毒素は細胞が受容体に結合する前に、傷口から溢れ出る過剰な血液とともに体外へと洗い流されていた。


「なっ……暗器が力任せに押し出された……!?」

「毒が……効いていないだと!?」


刺客たちが息をのんだそのコンマ数の静寂。


私は刺さった針を自ら抜き捨てることもせず、あらかじめ床面に撒き散らしていた自らの過剰再生血の「表面張力」と「結晶化反応」を密かに利用していた。


前世の化学知識——高濃度のタンパク質と生体触媒が含まれる血液は、高熱と物理圧が加わることで急速に凝固し、極めて滑りやすい有機性の皮膜を構成する。


私はわざと足元を狂わせたかのように、血の溜まりの上で右膝を大きく折ってみせた。


ガクッ……!


「……がっ……!」


苦痛に耐えかねて体勢を崩したかのような、完璧な「破綻の演技(誘い)」。


それを見たファーストの瞳に、激しい所有欲と確信の光が宿った。


「そこだ! 再生の過剰負荷によって生体平衡が崩れた! 二度と立てないように神経節を破壊しろ!」


ファーストの言葉に誘い出されるように、最も腕の立つ「三番」と「四番」の二人が、死角である私の背後と頭上から一気に躍り出た。彼らの長剣が、私の首筋と背骨の基部(神経節)を正確に一閃せんと鋭い軌線を描く。


完璧な罠への飛び込み。


(かかった)


私の「死んだ目」が、暗闇の中で冷たく光った。


膝をついた体勢のまま、私は自らの左手首の動脈を黒磁の短剣で力任せに横一文字に切り裂いた。


ドシュッ!


「なっ……自ら腕を……!?」


飛び込んできた三番と四番が目を見開いた瞬間、私の切開された手首から、極限まで生体魔力を励起させた過剰再生血が、高圧の噴霧器のように勢いよく噴出された。


プシャーッ!!!!!


密閉された結界空間の内部。逃げ場のない超高圧の血液の霧(エアロゾル)が、飛び込んできた三番と四番の顔面、そして視界を丸ごと覆い尽くした。


「目が……!? 粘膜が灼けるぁぁぁぁっ!?」

「皮膚が……肉が増殖して塞がるぅぅっ!」


過剰な再生魔力を帯びた私の血液が、彼らの目、鼻、口から体内へ侵入したコンマ数秒後、二人の細胞は狂乱的な異常増殖を開始した。喉の奥で増殖した己の肉によって呼吸を塞がれ、二人は肺を狂わされて血を吐きながら床へと転がった。


「三番! 四番!?」


残された刺客たちがパニックに陥ったその瞬間、私は流れるような動作で立ち上がり、崩れ落ちる三番の腕から、彼が持っていた「結界制御の魔導親鍵(マスター・キー)」が装着された白銀の腕輪を、短剣の先で腕ごと切り落として奪い取った。


ドスッ!


「……しまっ——!?」


遠くで見守っていたファーストの顔から、完全に余裕が消え去った。


彼がこの部屋に施した「思考封殺結界」。

それは外部からの干渉を断ち、内部の人間を閉じ込めるための最高級の魔導要塞であった。しかし、その結界の制御権は、ギルド長であるファースト、そして現場の指揮を執る三番の腕輪(マスター・キー)に分散されて保持されていたのだ。


奪い取った白銀の腕輪。

私は躊躇なく、自らの切り裂かれた左手首の生肉の中へと、その腕輪を物理的に強引に押し込んだ。


バキバキバキッ……!!


「ぐあ……っ!」


激痛とともに、私の肉体と骨が腕輪の魔導回路を包み込むように爆発的な再生を開始した。

私の体内に流れる過剰な再生魔力と生体電流が、直接腕輪の回路へと流入し、強引に結界の制御システムへと同期(ジャック)を開始したのだ。


【警告:生体波長の強制書き換えを検知……結界制御権の五十パーセントが移動……】


密室の壁面に刻まれた結界の紋章が、不気味な赤紫色へと変色し、激しく明滅し始めた。


「ば……バカな……!? 結界の魔導回路に……自らの肉体と血液を直接接続して書き換えたというのか……!?」


ファーストが驚愕の声を上げた。


一般的な魔導士や暗術士であれば、結界の権利を奪うためには複雑な呪文の解読や術式の分解作業を必要とする。しかし、私は自分の肉体と血液を「物理的な導線(ケーブル)」として使い、自分の再生魔力を力任せに結界の基盤へと流し込むことで、システムそのものを強引にハメ奪ったのだ。


「これで……半分だ」


私は血の付いた左手を掲げ、冷ややかにファーストを見つめた。


「この結界はもう、お前が私を閉じ込めるための檻ではない。……私が、お前たち全員を逃がさずに屠殺するための『私の檻』だ」


「くっ……! 全員突撃しろ! 奴が結界を完全に掌握する前に殺せぇぇっ!!」


ファーストの狂乱した叫び。

残された四人の刺客たちが、死の恐怖に背中を押されるようにして一斉に私へと襲いかかってきた。


しかし、結界の半分を掌握した私にとって、この部屋の空気の圧力、壁面の振動、そして敵の動線は、すべて私自身の「肉体の一部」と同等に把握できていた。


「シルヴァ」


私は振り返ることなく命じた。


「右の二人の脚を止めろ」


「……御意!」


影から飛び出したシルヴァの短剣が、動揺した六番と八番の足首の腱を正確に切り裂いた。体勢を崩した二人へ向けて、私は結界の物理圧力を局所的に集中・解放させた。


ドォンッ!


「ぐわぁぁぁっ!?」


結界の壁面から跳ね返った物理衝撃波が二人の頭部を直撃し、脳漿を撒き散らして即死させた。


残る二人も、私の黒磁の短剣の精確極まる刺突によって、喉と心臓を貫かれて崩れ落ちた。


わずか数十秒。

暗殺ギルドが誇る「上位の影」八人は、全員が自らの仕掛けた結界と、私の自傷再生戦術の前に、文字通りの肉塊となって全滅した。


静寂が、血の海と化した部屋を再び支配した。


残されたのは、血塗れの床に佇む私とシルヴァ。

そして、壁際に追い詰められ、白銀の魔導注射器を握りしめたまま全身を激しく震わせている暗殺ギルドの最高統括者——ファーストだけであった。


「ひ……ひぃ……っ!」


ファーストの顔から、かつて暗殺者たちを支配していた絶対者の威厳も、冷酷な教育者としての余裕も、完全に消失していた。


彼が目の当たりにしたのは、自分の育て上げた作品などではない。

自分の手で解剖し、コントロールできると思っていた「狂気の怪物」が、自らの肉体を傷つけ、血を流し、物理と魔導の法則すらも力任せに書き換えて迫ってくるという、絶対の絶望であった。


「さあ……ファースト」


私は左手首の肉に埋め込まれた腕輪から血液を垂らしながら、一歩、また一歩と彼へと近づいていった。


「お前が作ったこの完璧な密室で……最後の解剖実験を始めよう」


結界の制御権を完全に奪取した私は、絶望に身をすくませるギルド長へ向けて、黒磁の刃を静かに突き立てるのだった。

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