13 第3章:スラムの最底辺と買収
第3章 第4節
奴隷商人の荒々しい手に肩を掴まれ、私はスラム街の濁った泥道を連行されていった。周囲を固める屈強な手下たちは、誰もが無言で周囲を警戒し、通行人が近づくだけで鋭い威圧感を放っている。彼らが向かう先は、王都の華やかな表通りではなく、地表の喧騒が届かない、都市の地下深くへと潜る闇のルートだった。
すれ違う人々の影が徐々に消え、代わりに湿った石造りの壁と、灯りの少ない薄暗い回廊が視界を支配していく。奴隷商人に売却された子供たちは私一人ではなかった。同じようにスラムの路地裏や裏社会の底辺からかき集められた同年代の子供たちが、縄や鉄鎖で繋がれ、まるで売り物の家畜のようにトボトボと歩かされていた。中には恐怖に耐えかねて泣き叫ぶ者や、半狂乱になって暴れだす者もいたが、そうした子供たちは容赦なく重い鉄杖で殴りつけられ、血を流しながら地面を引きずられていく。
私はその惨たらしい光景を一言も発せず、ただ冷ややかに見下ろしていた。
泣こうが叫ぼうが、一度狂い始めた運命の歯車が逆転することなどない。ここで無駄に体力を消耗し、反抗の意志を見せることは、単なる「質の悪い商品」として処分されるリスクを高めるだけだ。生き残りたいのであれば、状況を正確に分析し、最も合理的な生存ルートを選択し続けなければならない。私の内側に宿る「死んだ目」は、この絶望的な移送の過程においても、周囲の環境や警備の配置、逃げ道の有無を機械的にスキャンし続けていた。
やがて、私たちは巨大な鉄の扉の前にたどり着いた。
そこから先へ進むためには、通常の王国の警備兵や魔導士たちが持つ探索の目を完全に欺く必要があった。なぜなら、私たちが連れ込まれようとしている場所こそ、表向きは存在すら認知されていない、国家の裏側のさらに深部に巣食う「暗殺ギルド」の根城だったからだ。
奴隷商人が重々しい呪文が刻まれた黒い木札を扉の前にかざすと、空気の質感が一変した。
微かに青白く明滅する古代の魔導結界が空間の歪みを生み出し、外側からのあらゆる探索魔法や感知の波動を完全に遮断していく。どれほど強力な王国の魔導士が上空や地上を捜索しようとも、この結界の内側にいる人間の気配を捉えることは不可能である。外の世界から完全に切り離された、絶対的な密室の空間。それが、これから私たちが叩き込まれる「養殖場」の入口だった。
鉄の扉が重い音を立てて開き、冷え切った地下の空気が私たちを迎え撃つように吹き抜けた。
消毒液と血の匂いが混ざり合う、異様なほど無機質な空間。天井には魔導ランプが等間隔に並び、その光の下で、すでに訓練を施されたのだろうか、感情を一切失った他の子供たちの冷徹な視線がこちらを向いていた。
奴隷商人は私を乱暴に放り投げ、冷ややかな笑みを浮かべた。
「さあ、着いたぞ。ここがお前たちの新しい家だ。……もっとも、今日から生き延びられる奴が何人いるか知らんがな」
男の手下たちが札束を受け取り、足早に闇の中へと消えていく。
私は冷たい石畳の床からゆっくりと立ち上がり、自身のボロ布の裾を払いながら、周囲を取り囲む地下施設の構造を冷静に見据えた。
親の庇護も、貴族としての特権も、スラムの泥臭いコソ泥としての日常も、ここで完全に断ち切られた。外の世界から遮断された古代結界の地下。その底なしの闇の中で、私は「暗殺ギルドの養殖場」という名の最悪の地獄へと言葉なく足を踏み入れ、さらなる冷徹な戦闘の歯車へと組み込まれていくのだった。




