第3話 迷子の花火と砂埃の中のラストスパート
府中高校へと続く坂道に沿って立つクスノキの梢で、セミの声が三十五度の猛暑の中で絶叫する合唱団のように響き渡っていた。それは夏休み初日のことだった。
高橋蒼は額ににじんだ汗をハンカチで拭いながら、静まり返ったメインの教室棟の廊下を歩いていた。
今日は一学期の終業式を終えた後の最初の月曜日の朝だ。もし環境委員の植物の水やり当番と、夏休み初日の英語の補習プリントの受け取りが重なっていなければ、今頃はまだ家で冷房の効いた涼しい風を浴びながら、温かい布団の中で丸まっていたはずなのに。
普段は蜂の巣をつついたように騒がしい教室棟も、今は異様なほど静かだった。1年A組の引き戸は、生徒がプリントを取りに来られるように鍵が開いていた。蒼は教室に入り、窓際の四列目にある自分の席へと直行した。
英語のプリントの束をカバンに入れる前に、この二ヶ月間ですっかり習慣になった反射的動作で、彼女は身をかがめて木の机の中に手を入れた。
コツン。
彼女の手が、茶色いクラフト表紙のノートのザラザラした厚紙に触れた。
蒼の唇に、自分でも気づかないほどの微かな微笑みが浮かんだ。彼女はノートを引き出し、自由奔放な男子の字で書き足されたばかりの最後のページを開いた。
『夏休み前最後の金曜日。 ねえ、隣のクラスの君。来週から学校は夏休みに入るね。今日はいつも通り、ノートを机の中に残しておくよ。夏休み中は教室棟が施錠されて選択授業もないから、今度の月曜の朝に君がノートを取ったら、そのまま家に持ち帰って保管してくれ。机の中に残しておくと、掃除のおばちゃんに片付けられちゃうかもしれないからね。九月の二学期の始業式に返してくれればいい……』
蒼の視線は、その下に続く長々とした注意書きへと滑り落ちていった——夏祭りのことを全部書けだの、アイスを食べすぎてお腹を壊すなだの、それに彼女の「片想いハート」をからかうのも忘れずに。
「本当にお節介なやつ……。これじゃまるで、小学生が先生に夏休みの絵日記を提出するみたいじゃない」
誰もいない教室で、蒼は小さく唇を尖らせて一人ごちた。しかし彼女の指先は、少しめくれたノートのページの隅を優しく撫でていた。
もし今日、彼女が水やりのために登校していなければ、おそらくこのノートは六週間の夏休みの間、真っ暗な机の中で孤独に過ごさなければならなかっただろう。そう思いながら、蒼は茶色いノートを革のカバンのメインポケットに丁寧に入れ、ジッパーをしっかりと閉めてから教室を出た。
府中高校の机の中にあったノートが、蒼の小さな寝室までついてきたのは、それが初めてのことだった。
そして、家にある勉強机の上にそれが存在してくれたおかげで、蒼の十六歳の夏休みは、退屈さがいくらか和らいだ。
数日おきに、プールから疲れ果てて帰ってきた日の午後や、縁側でチリンチリンと鳴る風鈴の音を聞きながら横になっている真夜中に、蒼はノートを開いては、まだ顔も知らない1年B組のバカな男子に向けて短い日記を書いた。アスファルトも溶けそうなほどの暑さのこと、富士山のように高く積まれた数学の夏休みの宿題のこと、そして由佳が夏の一大イベントである川辺の花火大会に向けて新しい髪型に変えたことなどを彼女は語った。
八月末の花火大会の夜、蒼も由佳のグループに誘われ、浴衣を着て出かけることになった。
華やかにメイクをした友人たちの中で浮かないように、蒼は夕方の五時から母親に頼んで、朝顔の模様が入った淡い水色の浴衣を着付けてもらい、まだ履き慣れていない新品の下駄を足に引っ掛けた。
しかし、両岸に押し寄せる人波がますます激しくなった時、トラブルに見舞われた。
花火の打ち上げ前、場所取りのために何万人もの人々がひしめき合う中、きつすぎた蒼の右足の下駄の鼻緒が足の甲に擦れてヒリヒリと痛んだ。彼女がほんの一瞬身をかがめて鼻緒を直そうとした時、笑いながら通り過ぎていった若者の集団に横へと押し流され、由佳たちのグループから完全に引き離されてしまった。
「由佳! 私、こっちだよ!」
蒼は背伸びをして呼びかけたが、運営のアナウンスのスピーカー音と人波の喧騒が、彼女のか細い声を飲み込んでしまった。彼女は慌ててスマホを取り出して電話をかけようとしたが、一箇所にあまりにも多くの人が集中していたため、電波のアイコンがくるくると回り続け、接続エラーが表示された。
蒼の心臓は激しく脈打ち始めた。
友人たちが屋台のエリアで自分を待っているのではないかと焦る一方で、新しい下駄が皮膚に食い込んで痛くて早く歩けなかったため、蒼は歯を食いしばって下駄を脱ぎ、手に提げたまま裸足で人混みを縫って前へと走った。しかし、誰も見当たらない。みんなが自分を探して歩道橋の方へ戻ったのではないかと考え、彼女は慌てて引き返し、駅の方向へと逆走した。そして駅の方から、誰かが「神社の入り口の近くに女子のグループがいる」と話しているのをかすかに聞きつけ、今度は神社の方へと裸足で走っていった。
十五分。そして三十分が過ぎた。
蒼の足の裏と甲は水ぶくれになり、赤く滲んで、これ以上一歩も進めないほど激しく痛んだ。自分がどこに立っているのかに気づいた時、周りには杉の木立の向こうに隠れた古い神社の裏手にある寂れた石段があるだけで、賑やかな川辺のエリアからは完全に遠ざかっていた。
ドーン! ダーン!
ちょうどその時、最初の花火が夜空へと打ち上げられ、色鮮やかな巨大な菊の花のようにパッと咲き誇った。
木の葉の隙間から青や赤の光が明滅し、冷たい石段の上で膝を抱えて座り込む蒼の孤独な姿を照らし出した。彼女は泥まみれになった裸足の真っ赤な水ぶくれを俯いて見つめ、それから再び、遠くの空で赤々と輝いては消えていく花火の束を見上げた。高校に入学した最初の日々から蓄積された無力感と惨めさが突然押し寄せ、彼女の鼻の奥をツンとさせた。
その夜、花火の打ち上げが終わり、人混みが散ってようやく電波が回復し、由佳が少し目を腫らした蒼を見つけ出したのだった。
家に帰り、メイクを落として足の傷に絆創膏を貼った後、蒼は柔らかいオレンジ色の照明の下で勉強机に向かった。茶色いノートを開くと、なぜか翔太の見慣れた字が並ぶページの前では、さっき友達の前に立っていた時のように自分の弱さを隠す必要はないように感じられた。彼女はペンを取り、夏休み五ページ目の日記に、惨めに迷子になった夜の出来事をすべて正直に書き綴った。
さらにその日の夜の終わりに、二学期が始まるまであと数日しかないことを考えた時、蒼はふとあることに気づいた。彼女が完璧な仮面を脱ぎ捨てて、泣き言を言ったり、このバカと口喧嘩をしたりできるのは、現実世界では二人が完全に見ず知らずの他人だからだ。彼が翔太という名前で、自分のすぐ隣の1年B組の生徒だとわかった今でも、もしある日廊下で本当に顔を合わせることになれば、彼女は間違いなく恥ずかしさから防壁を築き上げ、この「秘密の樹洞」は永遠に消え去ってしまうだろう。
そう思い、二学期の始業式で登校した金曜日、茶色いノートを木の机の中に戻して「月曜日の朝の泥棒」に返す前に、蒼は最後のページに太い枠で囲った追伸を丁寧に書き足した。
◇
「鈴木! 二学期最初の月曜日の朝から、机の中に体ごと潜り込んで二度寝するつもり?!」
透き通っているが威圧感のある声が頭上から響き、出席簿で木の机をコツコツと叩く音がした。俺はビクッと飛び上がり、頭頂部を机の裏側にコツンとぶつけてしまった。
「いっ! そんなことないですよ、沢渡先生! 俺はただ……夏休みの間に俺の机がシロアリに食われてないか点検してただけです!」
俺は頭を抱えながら見上げ、愛想笑いを浮かべた。
目の前に立っていたのは沢渡先生——1年B組の担任であり、俺たちの国語の先生だ。沢渡先生は今年まだ二十代半ばで、長い黒髪をいつも綺麗なポニーテールにまとめ、細いフレームの眼鏡をかけたとても知的な外見をしている。しかし、その優しそうな外見に騙された1年B組の生徒は皆、カミソリのように鋭い彼女の「生徒の心を読み取る」能力によって高い代償を払わされてきたのだ。
「この机を食えるようなシロアリがいるとしたら、あんたの勉強嫌いのせいで歯が全部折れちゃうでしょうね、翔太くん」
沢渡先生は眼鏡をクイッと押し上げ、机の中から引き出したばかりの茶色いノートの上に置かれた俺の右手を目を細めて見つめ、からかうように少し口角を上げた。
「そういえば、夏休み最初の月曜日の朝、あんたが『忘れ物の復習プリント』を取りに行かせてくれって生活指導の先生に慌てて頼み込んでたって聞いたけど、今日の休み明けテストの点数はあのザマだったわね? もしかして、机の中に忘れたのは復習プリントじゃなくて……どこの子のラブレターだったの?」
「そ、そんなわけないじゃないですか! 先生のからかいすぎです!」
俺の顔は真っ赤になり、慌てて両手で国語の教科書を茶色いノートの上に強く押し付けた。沢渡先生はクスクスと笑い、出席簿で俺の肩をポンと軽く叩くと、悠然と教壇へ歩いていき週明けのホームルームを始めた。
先生が二学期の予定を話し始めるのを待ってから、俺はこっそりと安堵の息を吐き出した。胸の奥では、心臓がまだ嬉しさでバクバクと高鳴っていた。
戻ってきた! 先週の金曜日は短い始業式が終わってすぐに全校生徒が下校になったから、彼女がノートを学校に持ってくるのを忘れたんじゃないかとハラハラしていたのに。まさか今日の月曜の朝、茶色いノートが俺の机の中に綺麗に戻ってきているとは!
俺は頭を低く下げ、机の下でこっそりとノートを開いた。
目に飛び込んできたのは、いつものような一、二ページではなく、見覚えのある丸い字でびっしりと埋め尽くされた十ページ近いページだった! 1年A組の彼女は約束通り、ノートを家に持ち帰り、夏休みの間に起きたあらゆる出来事を書き留めていた。英語の補習のこと、メロン味のかき氷を食べて頭がキーンとなったこと、そして夜にテレビで音楽番組を見たことまで。
俺は夢中で一行一行を貪るように読み、無意識のうちに口角が耳のところまで吊り上がっていた。そして、八月末の花火大会の夜について書かれたページをめくった時——。
『……足が痛すぎて、数秒身をかがめて下駄の鼻緒を直しただけなのに、顔を上げたら由佳たちの姿はどこにもなかったの。電波がなくて電話も繋がらないし。みんなが待ってると思って、下駄を脱いで手に持ったまま、裸足で川辺から駅まであちこち走り回って、また神社の方まで戻って……。結局誰にも会えなくて、足は水ぶくれで死ぬほど痛いし、神社の裏の真っ暗な石段に一人で座って、頭上で爆発する花火を見るしかなかった。その時、自分がバカみたいで惨めすぎて、危うく泣きべそをかきそうになったわ。これを読んで私を笑ったら、あんたのノート真っ二つに引き裂くからね!』
『追伸(絶対厳守):ついでに二学期に入ったから、私たち二人の間に「秘密の樹洞協定」を設立することを宣言します。お互いのクラスに名前を探りに来るのは【絶対に】禁止、友達を通して探りを入れるのも禁止、そして現実で顔を探そうとするのも禁止! 今のままの、机の中を通じた匿名の他人の状態をキープすること。もしあんたがルールを破って1年A組に私を探しに来たら、このノートを即座に焼却炉にぶち込むからね!』
俺の唇の笑顔はゆっくりと静まっていった。
花火の夜を綴った文字を見つめる。そこだけ筆圧が少し強くなっているのは、この文章を書いている時、木の葉の隙間から花火を一人で見上げて石段にうずくまっていたあの夜の孤独を、彼女がまだ感じていたからだろうか。下にある「秘密の樹洞協定」にしたって、自分の恥ずかしい話をうっかりこぼしてしまったから、廊下で俺に顔を見られてからかわれるのを恐れているのは明らかだった!
今度ばかりはちっとも笑えなかった。それどころか、心の中に苛立ちと奇妙な切なさが入り混じった感情が湧き上がってきた。
このバカ女……。普段ノートで俺を罵る時は誰よりも生意気で鋭いくせに、現実で花火を見に行って迷子になったら、母親とはぐれた五歳児みたいにうろたえてオロオロするってどういうことだ?! 新しい下駄で足に水ぶくれができているのに、なんで下駄を脱いで川辺から駅まで裸足で走り回ったりするんだよ?!
沢渡先生がまだ教壇で話していることも忘れ、俺はペンを勢いよく抜き出すと、次の白紙のページに強く押し当てて、ページ越しに彼女の額を小突いてやりたいような勢いで一気に書き殴った。
『二学期最初の月曜日。 おい! 君の夏休みの日記、全部読んだぞ! でもその前に一言説教させろ。君はバカにもほどがあるだろ?! 君はお祭りで母親とはぐれた幼稚園児かよ、なんで下駄を脱いで裸足であちこち走り回ったりするんだ?! お願いだから、このサバイバル原則その一を脳みそに刻み込んでおいてくれ。人混みで迷子になった時は、よく迷子になる方が【同じ場所に立ち止まって】連絡手段を探すか、もう一人が探しに来るのを待つこと! 両方がパニックになってお互いを探し回ったら、青春を全部費やしても絶対に出会えないんだぞ、このバカ! 次にどこかで迷子になったら、一番目立つ場所を見つけてそこでじっと待ってろ、わかったか?! ところで、足の水ぶくれはもう完全に治ったのか? まだ痛むなら、今週の体育は先生に言って見学させてもらえよ。それと、「顔を探さない協定」の件は承認してやる! 現実で僕に会って、僕のイケメンぶりに言葉を失うのが怖いんだろ? 安心しろ、武士に二言はない。君が許可するまで、1年A組なんかにわざわざ探しに行ったりしないさ!』
長々とした説教と、文末の身元を秘密にする約束を書き終えて、ようやく胸のつかえが少し下りたような気がした。
空気を和らげるため、ページの残り半分に、俺は自分の夏休みの出来事を彼女に話し始めた。炎天下でのバスケの練習、田舎の従弟と一緒にカブトムシを捕りに行ったこと、そして夏休みの最後に遭遇した「衝撃的な」事件についてだ。
『そういえば、心臓が止まりそうになった話を聞いてくれ! 先週末、駅前のコンビニに飲み物を買いに行った時、隣の席の美波が見知らぬ背の高い男と一緒にアイスを買っているのに出くわしたんだ! 雑誌の棚の後ろに隠れて二人が笑い合っているのを見た時、僕はてっきり彼女の彼氏だと思って、心臓が口から飛び出しそうになったよ。失恋なう! ところが二分後、彼女が僕に気づいて、夏休みで帰省中の大学生の兄貴だって紹介してくれたんだ! まったく、間一髪で死にかけたぜ! クックック!』
ネット上のステータス更新のノリで「なう」という言葉を無邪気にノートに書き込み、深く考えることもなく、週末にノートを返すのをウキウキしながら待った。
◇
翌週の月曜日の朝、九月の最初の涼しい秋風が府中高校の廊下を吹き抜け始めた頃、高橋蒼は朝の自習時間に茶色いノートを開いて読んだ。
彼女の視線は、花火の夜の迷子を怒る翔太の文章と、「秘密の樹洞協定」に同意する彼の言葉に長く留まった。
『人混みで迷子になった時は、よく迷子になる方が同じ場所に立ち止まって、もう一人が探しに来るのを待つこと! 両方がパニックになってお互いを探し回ったら、青春を全部費やしても絶対に出会えないんだぞ、このバカ!』
蒼の両頬は思わず少し熱くなった。
ページの上には明らかに「このバカ」や「幼稚園児」といった凶暴な罵声が並んでいるのに、その段落の最後にある、足の水ぶくれを気遣う言葉を読んだ時、蒼は胸いっぱいに広がる優しい温もりを感じた。花火の夜、由佳のグループが彼女を見つけた時、友人たちは浴衣が汚れていなくてよかったと褒めそやし、電気が消える前にと急いで写真を撮りに行くだけだった。彼女が裸足で走って自分自身を傷つけたことに怒り、見つけてもらうために立ち止まらなければダメだと念を押してくれたのは、机の中にいるこの顔も知らないバカな男子だけだったのだ。
「もしあの時、私を探しに来たのが彼だったら……もっと早く見つけてくれたのかな?」
頭をよぎった奇妙な考えに蒼はハッとして、それを振り払うかのように慌てて首を振った。そして自分の動揺を誤魔化すために、急いでその下の段落を読み進めた。
すると、ページの一番下にある文章を目にした途端、彼女の端正な眉はピタリとしかめられた。
『……雑誌の棚の後ろに隠れて二人が笑い合っているのを見た時、僕はてっきり彼女の彼氏だと思って、心臓が口から飛び出しそうになったよ。失恋なう!』
「失恋……なう?!」
蒼は目を瞬かせ、感嘆文の末尾にぽつんと置かれた「な・う」という丸みを帯びた平仮名二文字をじっと見つめた。
一体「失恋なう」って何なのよ?!
彼女は女子高生の語彙力を総動員して解読を試みた。まず、「なう」という響きは猫の鳴き声である「ニャウ/ニャオ」に似ている。まさか……夏休み前に私が階段の下の野良猫にエサをあげている話をしたから、今度はこのバカが、自分が失恋したと勘違いしてあまりのショックに……コンビニの中で錯乱して「ニャーニャー」と鳴き出したってこと?!
あるいはもっと恐ろしいことに——彼女はふと、昔のおじさんたちがネットで自分の「今やっていること」を自慢するために、英語のNowから取った「なう」という言葉を文末につけていたという話を、父親から聞いたのをうっすらと思い出したのだ!
でも、ティラノサウルス時代みたいなそんな古臭い言葉、今の地球上で誰が使うっていうのよ?! ネット上のオヤジたちでさえ、今どき文末に「なう」なんて書く人はいやしないわ!
翔太がコンビニの雑誌コーナーに隠れ、好きな子に彼氏ができたと思い込んで青ざめ、胸を押さえながら猫のように「なう~」と鳴いたり、四十歳のおじさんみたいな文体を呟いたりしている姿を想像し、蒼はたまらず教科書で顔を隠して笑いをこらえた。彼女はすぐにペンを取り、ページの余白に容赦ないツッコミを書き込んだ。
『火曜日:ねえ、迷子のアドバイスと匿名協定への同意はまあまあ悪くないから、とりあえずお礼を言っておくわね(足はもうすっかり治ったから!)。【でも】ちょっと待って、下にある「失恋なう!」って一体何語なのよ?! 隣の席の子に彼氏がいると勘違いした時、ショックのあまり階段の下の野良猫になって「なう~」って鳴いたわけ?! それとも、先史時代のおじさんたちの真似をして、文末に「なう」ってつけてオシャレぶってみたの?! あんたのその石器時代の語彙センスには、本当に救いようがないわね!』
その翌週、ノートを受け取り蒼のそのツッコミを読んだ翔太は、今度は自分が頭を掻きながら不可解そうに窓の外を見つめ、「なう」という完璧な言葉を使ったはずなのに、なんで自分が猫になって「ニャウ」と鳴いたり、先史時代のおじさん扱いされたりするのかと不思議に思う番だった。
もちろん、二人ともその小さな「なう」という言葉は相手のバカな冗談だとしか思わず、すぐに忘れてしまった。なぜならその時、二学期最大のイベントがそびえ立つように迫っていたからだ——秋の体育祭である。
◇
九月の後半に入ると、焼け焦げるような夏の日差しは徐々に和らぎ、高く澄み切った秋の空と、府中高校のグラウンドの砂埃を巻き上げる涼しい風に取って代わられた。
一年生全員が、体育祭に向けた熱狂的な練習の数週間に突入し始めた。
この頃の茶色いノートのページでは、「美波へのアタック」や「SNSの写真加工」の話題はすっかり消え去り、代わりに湿布の匂いや、リレーの練習、大縄跳び、綱引きの後のふくらはぎの筋肉痛を嘆く言葉で埋め尽くされていた。
そして当然ながら、僕が1年B組に所属し、机の向こうの彼女が1年A組に所属している以上、二人の共同日記は自然と決戦前の激しい宣戦布告の戦場と化した。
『体育祭の二週間前の水曜日(翔太):今日、僕たち1年B組は大縄跳びの練習で、一回も引っかからずに連続五十回の新記録を達成したぞ! おまけに、僕は一年生リレーのアンカーに選ばれたんだ! 今年の総合優勝は1年D組のスポーツモンスターたちの手から逃れるのは難しそうだけど、君の1年A組に砂埃を吸わせてやるくらい、この鈴木翔太には朝飯前だ! 首を洗って、僕の背中がゴールラインを駆け抜けるのを見る覚悟をしておくんだな! クックック!』
『体育祭の一週間前の月曜日(1年A組の反撃):とんがり顎のくせに大口叩かないでよね! 私たち1年A組は昨日、大縄跳びで六十五回も跳んだんだから! リレーだって、うちのクラスには陸上部で疾風みたいに速い男子がいるんだから、あんたみたいな中途半端なバスケ部員なんて、靴拾いをするのが関の山よ! 来週、1年A組と1年B組のどっちが後ろに立つことになるか、楽しみに待ってなさい!』
ノート上の口喧嘩が、俺の中の負けず嫌いの血をぐつぐつと煮え立たせた。
体育祭本番の週——それは茶色いノートが俺の机の中に戻ってくる週でもあった——雲一つない真っ青な秋空の下、校庭中に応援の太鼓の音が鳴り響く金曜日の本番当日、俺はまるで1年B組の全名誉が自分の両足にかかっているかのように、完全に燃え尽きた。
白いラインが引かれたトラックの脇でウォーミングアップをしながら、俺の目はグラウンドの反対側にある1年A組のテントのエリアをあちこち探り歩いた。真っ白な体操服を着て同じハチマキを締めた何百人もの生徒たちが、歓声を上げて応援していた。「秘密の樹洞協定」で顔を探らないと約束したとはいえ、あの騒がしい人混みの中で、毎週俺を罵ってくるあの丸っこい字を書く女子が一体誰なのか、気にならずにはいられなかった。今この瞬間、彼女は俺がノートに書いた通り、1年B組のアンカーのタスキをかけたこの俺の姿を追ってくれているのだろうか?
その考えは、俺に信じられないような力を与えてくれた。一年生最後の決戦となるリレーで、砂埃が舞うカーブで健二からバトンを受け取った俺は、十六歳の全力を振り絞って歯を食いしばり、最後の五十メートルで1年A組の走者を追い抜き、学年総合二位(1年D組の化け物には負けたが)でゴールラインを駆け抜けた。1年B組の生徒全員の爆発するような歓声と、トラックの脇で飛び跳ねる沢渡先生の満面の笑みの中で!
1年A組を鮮やかに追い抜いたことがあまりにも誇らしくて、体育祭の閉会式が終わった金曜日の放課後、俺は汗とチョークの匂いが残る1年B組の教室へ一目散に駆け戻り、カバンから茶色いノートを取り出して、ページいっぱいに長々と勝利の宣言を書き連ね、それから1年A組の彼女に見せつけるために、もったいぶって机の中へと置いた。
◇
十月初旬の月曜日の朝。
1年A組の教室で、高橋蒼は机の中から取り出したばかりの茶色いノートを頬杖をつきながら見つめ、非常に奇妙な表情を浮かべていた。半分は呆気にとられ、半分は必死に笑いをこらえているような顔だった。
彼女の目の前のページには、翔太の傲慢さに満ちた大きく躍動する文字が並んでいた。
『体育祭の金曜日:ハハハハ!! 見たか1年A組の君?! 僕の言った通りだろ! 最後のカーブでの、この鈴木翔太の稲妻のような神がかったラストスパートで、君のクラスをビュンと追い抜いて、一年生リレーの二位を勝ち取ったぞ! 僕がゴールラインを駆け抜けた時、風を切って走る僕の勇姿にグラウンド中が釘付けだったね! ベロベロバー、負け犬め! 今週はちゃんと負けを認める手紙を書くんだぞ! クックック!』
蒼は最後の行を読み終えると、瞬きを二回して、教室の窓からグラウンドの外を眺めた。
「こいつ……ここまで見栄っ張りだったの?」
蒼は小さく一人ごちた。
なぜなら、ついこの前の金曜日の体育祭の午後についての彼女の記憶では、一年生最後のリレーで、走者たちが砂埃の舞う最後のカーブに突入した時、明らかにクラッシュが起きていたからだ! かなり離れた1年A組のテントから真っ白な砂埃越しに、蒼は1年B組のアンカーが足をもつれさせてトラックに派手に転がり、這い上がってびっこを引きながらブービーでゴールするのをはっきりと見ていた。そして彼女の1年A組こそが、二位でゴールしたはずじゃないの?!
その時、遠くから1年B組のタスキをかけた体操服の影が土煙の中にひっくり返るのを見て、蒼は心臓が縮み上がるほど心配になり、「どうしよう、あのバカな翔太が1年B組のアンカーだって自慢してたけど、それじゃあ今トラックに顔面から突っ込んで転んだのはあいつなの?!」とまで思っていたのだ。
なのに今……ノートを開いて読んでみると、彼はその痛々しい転倒について一言も触れていないどころか、「風を切る神がかったスパート」で彼女の1年A組を追い抜いたと、ページ丸々使って大口を叩いているのだ!
もちろん、蒼は自分の目の確かさを微塵も疑っていなかった。最初のページで自分の顎をピッケルのように尖らせて描いていた、あの超ナルシストで見栄っ張りの男子の性格について彼女が理解している限り、今の蒼の頭に浮かんだ唯一の解釈は非常にシンプルなものだった。
「きっと先週、私にノートで散々大口を叩いちゃったから、本番で転んで全校生徒の前で惨敗したのが恥ずかしすぎて白状できなくて、私の前で最後の体面を保つために、目を瞑って黒を白と言いくるめるような嘘をノートに書くしかなかったのね!」
グラウンドでの転倒で両膝に絆創膏を貼りながら、私にからかわれないように涙目になりながら歯を食いしばって架空の勝利の自慢話を書き連ねているバカな翔太の姿を想像すると、蒼は彼がなんだかおかしくもあり、無性に哀れにも思えてきた。
思いやりのある分別をわきまえた女子として、蒼は隣のクラスのバカの脆いプライドを守るために、その「悲しい真実」を冷酷に暴くのはやめることにした。彼女は黒ペンを取り、微笑みながら意味深な返事をページに書き込んだ。
『月曜日:はいはい、分かったわよ、あんたはすごいわね、砂埃のカーブでのラストスパートは本当に「神がかってた」わよ! 地面の上をあんなに力強く滑ったら、今頃膝とか肘とかも……さぞヒリヒリ痛むでしょうね? 想像の中のチャンピオンさん、膝にはちゃんと赤チンを塗っておくのよ!』
その翌週、1年B組の教室でノートを受け取り、彼女のその奇妙な返事を読んだ俺は、無傷でかすり傷一つない自分の膝を見下ろして頭を掻きむしり、きっと彼女は1年A組が負けたのが悔しくて、俺が転んだなんて嫌味を言って呪っているんだろうなと心の中で思った。
爽やかな秋風がそのまま二つの教室の窓を通り抜け、十六歳の笑い声と無邪気な勘違いに満ちたページを優しくめくっていった。そこは、お互いが、相手はただ壁一枚隔てた隣の教室に座っているだけなのだと固く信じ込んでいる場所だった。
お読みいただき、ありがとうございます!
次話は30分後に更新します。




