(6)神言とホラ吹き
食事の後、しばし卓で寛ぐ。
今日は皆、この時間に神言器へ神言を納めていた。思いつき次第納めるのが良いとされている。記憶があやふやにならないうちがいいし、納めることにより魔力が還元されるので、早い方がいいのだろう。
「昨日は曇りでした。明日は晴れます。ゼンはまた隣に来ます」
フィアが眼鏡に触れながら納める。すると付属した石が淡く光る。これは受理されたということだ。
神言というが、このように何か意味があるのか、役に立つのか、予知なのかどうかもよくわからないものが殆どだ。過去に起こったことも降りてくるらしいし、先のことも降りてくるが、それが当たっているとは限らないようだ。まあ、明日もこいつの隣に行くけど。
「ゴンさんの借金は昨日返済完了になった」
ラーニャが納めた今日の神言はこれである。隣の爺さんの話だ。これもきちんと受理されている。ゴン爺さんが借金していたことなど俺は知らない。知ったとて何だという話である。それにしてもこの村は借金している奴が多い。
「俺はまだだぜ!」
聞いてない。親父の借金は永遠なのではないかと思う。
「ぼちぼちでいいのでよろしくお願いしますね」
ラーニャが親父にそう返していた。ラーニャが少しずつ肩代わりして、現在は親父がラーニャに借金をしている状態になっている。とりあえず借金取りに追われることはなくなっているが、それでいいのだろうかと思う。ラーニャのそんな親父を見る目が優しげだがその気持ちはよく分からない。この人達は一体何を考えているのだろうか。
「利息ゼロはマジでありがたいぜ……。ラーニャ、いつもありがとな」
親父が片目をつむり微笑みを投げると、ラーニャは笑顔で頷いた。俺が親父を尊敬できないのはそういうところだ。意味が分からない。フィアに聞いたら「それが男女の機微というものです」と言っていたが、俺にはまだ早いようだ。
「オレも働きますし~。おやっさんはのんびりしてください」
親父の義足を分解し、点検・修理しながらニキがそう言う。
ニキの技能、ひいては神言器はこのために具現化している。これがなければ、親父の義足と義手は故障や劣化で使いものにならなくなっていた。親父が躊躇なく攻撃のため飛ばしてくるのもこれがあってこそだ。
「じゃあ、オレも納めるか。うーん、屁を漏らすおっさんは仕事ができない」
「は?」
思わず声が出てしまった。ニキが変な神言を納めたのにそれがきちんと受理されたからだ。
「なんだそれは」
「しゃーねえだろ、降ってくるし。ガチだぜ、意味分からんけど」
俺が突っ込むと、ニキはそう答える。言う通り、受理されている以上、神言として認められているのは確かではある。
「っハハ、こんなのテキトーにホラでも納めとけ。ゼンはいつか落とし穴に落ちる」
「は!?」
親父がそう曰う。親父の神言器は光らない。さすがに嘘の神言は受理されないようだ。こんな感じで、親父はいつも適当な嘘ばかり納めている。神言器の石が光っていないので受理されていないから嘘なのは本当なのだろう。
……いや、俺が落とし穴に落ちるのはもしかしてあるかもしれない。稽古の前に落とし穴を仕込んでおいて、誘導される可能性がある。親父ならやりかねない。
力技で嘘を本当にした場合、それは後から神言として認められるのだろうか。そんな疑問が湧いてきた。おそらく「降って」こないと駄目なのだろう。意識して神言のようなものを発してもおそらく無効だと思われる。
親父はまともに神言を納めていなさそうなのに、魔具である義手義足を稼働させつつ、魔技や魔法を放つほどの魔力を有している。これが親父の最大の謎だ。
親父が泥酔したときに「アニ、愛してる、会いたい」と泣きながら繰り返し呟いているのを見たことがある。それは俺の母さんの名前だ。母さんといつ別れたのか、今どこにいて何をしているのか俺は知らない。親父も語らない。親父のそんな姿を見てから余計に聞きにくい。そして、その時に神言器である大剣の石が煌々と輝いたのを覚えている。
これらを踏まえて、俺は神言器や神言の謎を考察しているのだが、なにせ、己の身で体感できないので、ずっと謎のままである。
「俺の神言石が英知の書になる……なる……」
こういうのは意思が大事なのかと思い、まだ何にも具現化しない神言石に向けて俺は「ホラ」を吹き込み続けていた。両手で己の神言石を包むように胸の前で掲げ、祈りを捧げるように呟く。
「なんねーよ」
「男なら剣だろ剣!」
ニキが半笑いで突っ込んだり、親父も野次を入れてくるが、俺は無視している。
絶対にこの世界の謎を解き明かしてやる――
そんな意思を掲げ、俺は「知」への渇望を意識していた。




