(4)土の上のフィア
肉体の自主鍛錬を終えると、俺はいつも栄養補給をする。作り置きをして瓶に詰めている粉末を適量、水を入れた別の瓶へ入れ振る。そしてそれを一気に飲み干す。味のことは一切考慮していない。効率的に蛋白を摂取できれば良いと考え、作ったものだ。
「なあ、アミッド。虫をたくさん捕ってくれ。お前が頼りだ」
「……ゼン。そう言ってくれるか、任せろ」
昔、神言器を虫取り網にしてしまった奴に頼んで大量の虫を捕獲してもらっている。周りの皆が神言器を仕事などに直接役立てるものへ変化させていったため、あまり役立て方が分からないものへ変化させてしまったこいつは後悔していた。俺が思ったとおりになった。しかし、俺が頼りにしたら喜んでいるようだった。
その虫を乾燥させ、石臼で挽き、粉末にする。それを鍛錬の後、蛋白源として補給しているのだ。乾燥させやすい虫が適している。芋虫は直接食べる方が効率が良い。しかし、保存には適さないし量を多く摂取できないので採用していない。
鍛錬の後に栄養補給が必要と考えた。薪がなければ火は燃えないし、水がなければ苗は育たない。なので、肉体を鍛え上げるためには適切な栄養補給をする。
だが、あいにく、うちは貧乏である。食糧としての肉や魚、豆類は貴重なため、むやみに摂取することはできない。村全体で分け合ってもいるので、狩りをしてきたとしても独占できるわけではない。
というわけで、摂取しても問題のない栄養源を考えたのであった。
これは、肉体の作り方も含め、人に相談している。
「フィア、今日の土はどうだ?」
「はい。じんわりしています。気持ちいいです」
うちに家族として同居しているフィアに俺はよく物事を聞く。
こいつはよく地面で寝ている。寝るなら芝生の方がいいと思うのだが、土の上が良いらしい。謎だ。ゴツゴツして痛いと思うのだが、個人の趣向だしそこは追求していない。
こいつは、俺の二つ年上だ。だが、見た目は齢十四くらいの少女だ。とても華奢で、肌も髪も白い。瞳は赤い。今の俺が触れたら折れそうなくらいだ。昔、出会った頃は俺より背が高かった気がする。このくらいの体つきの大人もいないことはないから、おかしくはないだろうとは思う。
「じんわりって、本当か? 冷たいだろ」
「そこは個人差ですね」
俺も並んで寝る。こいつと話をするにはこれが最適だ。こいつはいつも、土の上を具合がいいと言うが、寝てみるとひやりとして具合がいいとは思えない。でも、体格差もあり、目線を合わせるのが少々面倒なのでこれが一番楽である。
まあ、あえて言うならこいつは地属性なので相性がいいのだろうか、といったところだ。それをこいつに言ったら「そういうことにしておいてください」だ、そうだ。何か含みがあるが、深く追求はしていない。
「……今日の稽古、親父が火を吹いて膝飛ばしてきた」
「相変わらずですね」
「ああ。痰を吐いておいて、それを発火させるやつよりマシかもしれない」
「それ、魔法陣と同じ原理です。体液は魔力を渡すのに最適ですし」
「そうか……」
親父との稽古で見た魔法や魔技をこいつに報告する。すると、原理を説明してくれる。原理が分かるとすっきりするが、親父の思考回路は依然、分からない。分かりたくない。
そして、フィアは物知りだ。知識が豊富だ。まるで書庫のようだ。
俺と出会う前、たくさんの本に囲まれて育ったらしい。さぞ、裕福な家庭の生まれなのだろうか。こいつの来歴はよく分からない。俺は何度か聞いたが、親父が「女の子の過去は追求するもんじゃない」とか言うので、追求するのを止めた。親父が言うことはどういう理屈なのか分からないが、こいつが話したくなさそうなのは確かにそう見える。
フィアの神言器の形は眼鏡だ。視力が弱い者が使う魔具として存在している。それを神言器としていた。物心付いた頃から視力が弱かったというため、世界がよく見えるようになりたいと願ったのだろうか。
こいつの神言器は、普段の視力補助の他、相対する者の属性・性質などの情報の読み取り、記憶の保持・再生……という能力があるそうだ。かなりいい機能だと思う。俺もこれにしたい。でも、俺は遠くの山で草を食む獣の種類が分かる程度の視力なので、眼鏡にするのは違う気がする。
「粉末蛋白はいい感じだ。暇を見て量産しておきたい」
「効果はあなたを見れば一目瞭然ですね」
「おまえのおかげだ。本当にいいものを編み出せた」
人体、生物に必要な栄養素について、俺はこいつに聞いた。こいつが書物で見たことのある情報を思い出し、それを含有してるものを探した。そして調達が易く、費用がかからないものを確保することができたというわけだ。
「おまえも飲めばいいのに」
「飲んでもいいんですが」
効果は俺で実証済だ。筋肉を作り、身体を頑強にするため栄養補給をしたらいいと思い、こいつにも飲むように勧めた。こいつはしばらく飲んでいたが、親父が「女の子に虫の粉を飲ませるな、馬鹿者」と言い俺の頭を殴った。解せない。
「あなたが殴られるので控えておきます」
「そうか」
俺にはまだまだ分からないことがある。そう思い、こうしていつもフィアの隣へ行く。
「……やっぱり、冷えてるんじゃないのか?」
依然として冷たい土の上にいて、体が冷えるのではないかと思う。俺はフィアの手を握り、体温を確かめる。
「あ……っ、あた、たかい、です……」
急に体温が上昇するのを感じた。こいつの手が熱を持つのを感じた。ぽこぽこと土が蠢く。地魔法が発動しているようだ。
こいつは、この国内でも珍しい「精契者」だ。精霊と契約を果たしている地魔法の使い手だ。地脈とうまく接続できたので魔力が満ち、自動発動したのだろうかと思った。
今度、こいつが魔法の実演勉強会をしてくれる。楽しみだ。その手を握りながらその日に想いを馳せた。




