(34)無属性魔法:お祓い
ラディクト将軍戦の時に使った「無属性魔法:気合い」は全身に力を巡らせるよう思い描き発動していた。体力を魔力に変換する感じだ。土壇場で試したものなので加減が分からず、発動した瞬間に過ぎた力を得た感覚があった。実際、戦闘を終えたら倒れている。
だが、ルルカの発した神託は「剣に力を」というものである。
なるほど、その発想はなかった。己の身に力を巡らせるのと、剣に力を乗せるのとでは違いがありそうだ。そして、体への反動、負荷はないか低いのではと思った。
そして、神託……女神がそう指示したということは、効果が見込めそうである。はたして何故、俺の無属性魔法が冥府の魔物を祓えるのか謎だが、やってみる価値はある。
「無属性魔法:お祓い!!」
例によって技名を口にした。誓約により効果が増すと信じている。「は!?」とニキの声が聞こえたが無視だ。
「おぉ……! なんか光ったぞ!?」
リベリオが俺の剣を目にし、見たままを口にした。その言葉通り、剣が発光した。ルルカがゴーレム達を浄化したときの水晶と同じ輝きだ。熱を帯びない白い光が発せられている。これを発動しても気力体力に変化はないことに気付いた。なんとなく、威力が増す類のものではないと感じる。
「なんだそれは、無駄だ! 小賢しいわ!」
サモシエルが煽る。悪魔契約で万能感を抱いているのだろう。実際、あらゆる攻撃が通らなかったので、そうなるのは分かる。
「やってみなきゃ分からんだろう」
それは探究心。己の手で切り拓き、確かめ、知る。書物に記されたことも、始まりはその一歩からだ。
そして、観察による蓄積。
俺はこいつの情報をずっと探っていた。そこで発見したのは、鎖が全て攻撃に使われていたわけではないこと。その身を四方に固定しているものがある。
「……楔から解き放たれろ」
俺はその鎖を祓いの剣で断ち斬った。それは紙を切るように容易く切れる。全ての楔を断たれたサモシエルは、支柱を失った建物が倒れるように崩れた。
「……なっ!」
そして俺は仕上げとして、サモシエルの頭上から剣を振り下ろし、真っ二つに裂いた。手応えはないが断裂するのは目に見えて分かる。
「くそ……くそぉぉぉぉ!! 何者だ貴様ァ!!」
サモシエルの断末魔が響く。最後の知への欲求か。冥土の土産に答えてやる。
「勇者ゼンだ」
果たしてその知識は冥界で役に立つのかは分からない。怨嗟として抱えるものとなるだけかもしれない。それでも答えを返すという義理は果たした。
「お、おぉ……消えた」
「やったな!」
そしてサモシエルは消滅した。ニキがそれを確認し、リベリオが拳を上げる。
「新技だな! 聖なる剣ってとこか」
「いや……」
すでに技名を唱えているのにリベリオに上書きされそうになる。これもあとで広報が拾いそうだ。いちいち訂正する気も失せるが。
「……フィア、もう大丈夫だ」
「はい」
俺はフィアが怯えるものを祓った。とりあえず、目に見える恐怖は取り払えただろうか。
「あの……手伝っていただけますか」
フィアが敷地内の庭を魔法で少し掘る。ルルカがそれが何を意味するか察したようで、ゴーレムの芯となっていた白骨を拾いだした。それを見て、俺たちも骨を集める。
「ありがとうございます……」
白骨を土に埋め、ルルカが聖句を唱え御霊を送る。簡易的な埋葬というわけだ。フィアがそれを見届け、礼を述べた。
「さあ、中へ」
そしてフィアがそう促した。その顔には無理に作ったような笑みが浮かべられていた。今は何と声を掛けたら良いのか分からない。きっと、この館に事情を語るものがあるのだろう。まずはそれを知る必要がある。
「む、開かない」
館の内部へ立ち入ろうと、正面玄関の扉を押してみたが開かなかった。
「また魔力が必要なやつか……?」
王都の魔具店の扉を思い出す。魔力を流すと自動で開く扉だ。
「……普通に流しただけでは開きません。認証した魔力と合致しないと開かないものです。私は認証されていませんでしたので……」
フィアが仕組みを知っている口ぶりで言い切った。そして、過去にこの館と関係があったことをほのめかす。とりあえず、今はそれについて言及しないでおこう。
「よし、じゃあぶっ壊せば」
「……待てっ!!」
リベリオが拳に魔力を流し、扉へ振りかぶろうとした瞬間、ニキが制止した。
「あ……っ、あ、失礼しましたッ!」
王子に対して不遜な言葉で制止してしまったことに気付いたニキは慌てて土下座した。
「お、おう、別に土下座とかしなくていい。悪りぃ。早まったか」
「は、はいぃ。もしかして何か罠があるかも……」
そう言われてみれば、その可能性はある。ニキはわりと慎重な男だ。
「おぅ、ゼン。ちょっとここに立て」
「あ、ああ?」
ニキに指示されるがままに俺は扉の前に立った。そしてニキは俺の後ろから小石を勢いよく扉へ向けて投げる。
「ムゥン!!」
扉へ投げた石は薄い膜のようなものに弾かれ俺に向かって飛んできた。それを反射的に素手で叩き粉砕した。
「あ~、攻撃反射の術かなんか掛かってる。危ねえ危ねえ」
「なるほど」
ニキの慎重さに助けられたことになる。リベリオが力一杯扉を粉砕しようとしたら、その力がそのまま反射し、甚大な被害を受けるところだったかもしれない。
「いや、お前、盾にされたな?」
リベリオがそう突っ込む。
「……ゼンを盾にするの、やめていただけますか」
「ヒッ、すまん」
ぼこぼこと土が沸騰するかのように蠢き、フィアが怒気のこもった声でニキにそう言った。
「悪りぃ悪りぃ。まあ、これはちょっとどうにかしなきゃならんやつだ」
双眼器の魔具を装着し、ニキが扉から館全体にかけて取り巻く魔力を探り出した。
「失敗したら骨は拾ってくれよ」
「ああ」
「いや、冗談」
さっき、本当に骨を拾ったばかりなので冗談に思えなかったが俺は頷き、ニキは半笑いで首を横に振った。
そして因縁が埋められた館の扉を開こうと、工具の音が響いた。
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