(32)土の亡霊たち
馬車に揺られて俺たちは目的地に到着した。御者は館から少し離れて待機する。馬車から降りた俺たちは近付きながら館を目にした。
「なんか、変な感じがする」
「何となく臭い」
何とも形容し難い重い空気を感じた。ニキが臭いについて触れたが、言われてみればそんな気がする。
「なんだこれ。キモいな」
ニキが魔力を可視化できる双眼器の魔具で探ると、汚泥のような魔力が滞留していると言った。
「うわぁ……アレをどかさないとならんのか」
館まで辿り着いた俺たちはそれを目の当たりにする。国王の言う通り、そこには冥府の魔物が立ち塞がっていた。ニキがうんざりした顔で息を吐く。
「どけっ! 雷槍!!」
問答無用である。リベリオが何の断りもなく、サモシエルという名であった亡霊へ向けて攻撃した。
「バ……ッ」
ニキが「バカ」と言いかけて自分の口を塞いだ。気持ちは分かる。この魔物はこちらから近付かない限り襲ってこないものと聞いていたので、まずは様子を見た方がいいと思ったからだ。
しかし、先手必勝という言葉もあるので難しいところである。
「なっ!?」
リベリオが放った雷撃は、何の前触れもなく土から生えた人形の塊で防がれ、その人形は崩れた。
「ゴーレムか!」
土の魔物だ。これはサモシエルが使役しているものなのか、サモシエルの魔法なのか、単独で動く魔物なのかは分からない。
「ウギャーーー! 増えた!!」
ニキが叫ぶ。リベリオの攻撃を皮切りに戦闘が始まってしまった。ゴーレムが一気に十数体生えてきた。
「フン!」
俺は向かってきたゴーレムを一閃した。さほど手応えはない。ニキも工具の神言器から貫通の雷撃を飛ばし、核を撃ち抜き倒す。戦闘が得意と言い難いニキでも倒せる程度の強度であった。
「こいつら、そんなに強くねえ、ねえけど」
リベリオが魔力を込めるまでもなく拳の力だけで破壊しながら言う。
「キリがねえな!?」
何度破壊してもすぐに復活し向かってくる。決定打がない。これを延々と繰り返していたらこちらが消耗するだけだ。
「フィア、なんとかならないか!?」
地属性の精契者であるフィアなら、この土の魔物の操縦権を握れるのではと思った。
「できそうで、ちょっと無理みたい、です……っ」
それを試みようと魔法で操作し、数体束ねて接着し固定してみたが、すぐに剥がれた。
「何かが、芯になっているような……」
「芯?」
「土ではない、別のものが依代になっているかもしれません」
何らかの芯になっている依代があるようだ。それがなければ操縦は可能なのだろうが、それがあるため、操縦もできず無限に復活するものと思われる。
「そいつのせいで操縦できないんだな?」
「はい」
おそらく、その依代がこの地の土と癒着し、魔力切れになることもないとみられる。
「どうした、フィア?」
俺とフィアがそう推測したところで、彼女が胸を手で押さえ、息苦しそうにしていることに気付いた。
「祓ってください……」
フィアがルルカに向けてそう言う。
「私の同胞たちが、土の中で眠っています。彼らは天に登れずサモシエルに囚われています」
すぐに意味を飲み込めない言葉をフィアが発した。どういうことだ。ただ、このゴーレム達も亡霊の一種であることは分かった。
「……わかりました」
ルルカがどういった魔法を使えるのかは事前に打ち合わせていた。
ラディクト将軍へ使った記憶の解放の他に、浄化、回復、などができるそうだ。それは因果を司る天属性の術である。
「囚われし魂よ、安らかなる眠りを。女神の導きにより天へ還りたまえ」
ルルカは聖句を唱え、魔法を発動した。神言器の水晶が熱を帯びない白い光を放つ。記憶解放の魔法を発した時の虹色の光とは違う。この聖句はリベリオの技名のような誓約とは違うのだろう。そしてこの術は魔法というか、女神の御技といった方が正しいのだろうか。
「……あぁ、ありがとうございます」
フィアがルルカの発した魔法の清らかな光に包まれた魔物達を目にし、そう呟く。
そして、土の人形達は崩れ、そこに散らばったのは白骨だった。もう、彼らが土の亡霊として立つことはなかった。
「や、やったか……!?」
「ええ、この者達は祓えたはずです」
リベリオがゴーレム達の顛末について訊くと、ルルカはそう答えた。
「フィア……、そこにいるのか……」
ゴーレム達を祓ってもまだ終わりではない。本体といえるサモシエルを倒さなくてはならないのだ。
「よくも……儂から精霊を奪って……のうのうと……この簒奪者め」
地獄の底から這い出てきたかのような念を感じる。サモシエルはそんな念の籠った声でフィアに向けて聞き捨てならないことを発する。
「いや……っ、奪って、ない……っ」
フィアはサモシエルのそんな恨み言のような言葉を拒否するかのように身を抱えながらか細い声で抵抗した。
俺は無意識にフィアの前に立ち、隠し庇う。
「安心しろ、おまえは下がっていろ。俺がこいつを倒す」
聞きたいこと、気になることが山ほどあるが、今のこいつは普通ではない。ただ、目の前のこの亡霊が因縁の敵であることは確かであった。
何があっても俺はこいつを守る。それだけだ。




