(31)調査依頼
転移器を使うと一瞬で王都に到着した。徒歩や乗合馬車で賊などを気にしながら向かった時を思うと、移動の概念が狂いそうになる。
「……勇者ゼンだ」
自分で勇者と名乗るのは気が引けた。だが、城門内に転移器が設置されており、衛兵が管理しているため、身元を明らかにする必要があった。
「ああ、勇者様、お待ちしておりました。お通り下さいませ」
顔も覚えられており、特に厳重な確認をすることもなく王宮内に通された。すっかり、王宮の機構として組み込まれたのを感じる。
「よお、ゼン! 来たな」
「ああ」
俺の到着を聞きつけたリベリオが出迎えてくれた。
村に来た時の格好から一変、王族らしい格好に戻っている。こうして見ると派手な奴だと思った。
「ゼンさんこんにちは!」
「ルルカ」
ルルカもともに出迎えてくれた。
前に見た装いとは変わっている。裾が短く動きやすそうな装いになっていた。前の装いは裾が長く、走りにくそうだと思っていた。その時はいかにも神殿にいそうな巫女という装いであった。
「あんたも謁見を?」
「はい、わたしも行かせていただきます」
「こいつに話したら神託が降りたのでとか言うから……」
「えへ、神託と言えばだいたい通る感じになってきました。でも本当ですよ、私も行くべきと降りたんです」
「まったく……」
神託とはそういうものなのだろうか。ルルカのことはまだよく知らないが、深窓の令嬢という感じはしない。随分と活動的だと思った。
どちらかというと人を振り回す側のリベリオが振り回され気味なのが少し面白い。
俺とルルカのやり取りをフィアとニキが妙な表情で見ていた。親父が俺とルルカとの関係を茶化したせいではないだろうか。いや、まだそこまで深い付き合いをしているわけではないのに。
しかし、彼女に初めて出会った時と握手をした瞬間に妙な感覚を覚えたのを思い出した。あれは一体何なのか、気のせいなのか考察は進んでいない。
「勇者ゼンよ。此度は足労である」
謁見室にて国王からそう労われる。俺たちは膝をついて一礼をしてから立ち上がり、次の言葉を仰ぐ。
「此度の依頼は魔王の正体についての調査だ」
いきなり核心的な仕事が舞い込んできた。勇者になったらまずはどこぞの魔物を倒してこい、という仕事から始まるのだと思ったが、そういった段階ではないのだろう。
「その件についてですが……」
俺は、ラディクト将軍を籠絡した女が魔王、もしくは魔王の配下なのでは、という考察を述べた。
それについては、王族関係者内でもそう考えていたとのことだ。状況的にそう考えるのは必然なのでそこは相違なかった。
「その上で、おぬし達には資料を調べてもらいたい」
例の女が魔王だとしても、その女の正体は分からない。女の正体についての手掛かりはない。
ラディクト将軍は女の見た目は覚えてはいたが、女の魔法により記憶が断片化し、詳細は思い出せなかったとのことだった。
魔王というものについて文献から当たり、こちらから正体を探ってみようということだった。
「この、資料があるところが若干厄介で……」
昔、司書として王宮に勤めていた賢者がいたという。その賢者は英知の書などの研究をしていた。それにまつわる書物を集めるにとどまらず、己の研究を記し書としていた。
英知の書を模すかのように、古今東西のあらゆる知恵を欲していたという。なので、膨大な文献が彼の元にあった。
だが、この賢者はある問題を起こし、王宮を追放された。賢者は書物を全て引き上げ、所有の館に閉じこもった。
「奴……サモシエルは冥府の魔物と化した」
王のその言葉を耳にし、フィアの様子が少し変なことに気付いた。いや、この賢者の話が始まったあたりから様子がおかしい。身を抱え、何かを堪えているかのようだ。
「サモシエルは契約事故を起こし、死亡したはずだったのだ。検分を行い、埋葬をしようと再び訪れた時、館の前に立ち塞がる魔物となっていた」
話が読めてきた。俺たちにこの亡霊を退治させようというのだろう。
「サモシエルは館の前から動かぬ。よって、直ちに害はない。だが、館に立ち入ろうとすれば立ち塞がる」
「オレ達がそいつを倒せばいいんですね、父上」
リベリオが率直に要点を言った。
「ああ、勇者達に任せる。リベリオ、お前が行く必要もない」
「なんでだよ!」
少し畏まって父王へ応対していたリベリオが素を出して荒れた。
「お前は王族の自覚を持て。身を危険に晒すような真似を自ら望んでするなど……」
「いや、軍総司令までやってんだぞオレ」
なにやらこれは親子喧嘩なのだろうか。リベリオが言う通り、今さら身の危険を案じるのは変な話である。自ら壁に頭を打ちつける奴に言うことではない。
「王、よろしいでしょうか?」
「申せ」
ルルカが提言をしだす。
「王子もともに向かうよう神託を授かっております」
「なんと……。分かった。リベリオ、お前もともに向かうがよい」
「ああ、女神のご指名だ。行ってくるぞ」
リベリオとルルカが顔を見合わせて笑っていた。これは……うむ、そういうていということなのだろう。
「よし! 行くぞ!」
「出発です!」
リベリオとルルカが元気にそう、宣言した。
国王との謁見が終わり、依頼を受けた俺たちは軽い打ち合わせをしたのち、馬車に乗り込んだ。
「……フィア」
「ゼン」
馬車の中で身を抱えながら、一言も発さずにいたフィアが気になった。
「具合が悪いのか?」
「いいえ」
俺はフィアの左手に自分の手を重ねた。
「指輪、効くか?」
「え、あ、は、い……ッ」
効果の重ね掛けにならないかと思い、己の魔力を渡すように思い描いた。
「私、負けません。負けません……、あなたがいるから」
「そうか」
どんな敵でも怖くない。
そう言い聞かせて前に進む。
そんな風に見えた。




