(29)魔法が使えるようになった俺
馬車を手配された理由の一つに、これをこの村に設置するという目的があった。
「置く場所ねえな」
「しかし外に置きっぱなしはマズい」
ニキが修理した転移器の片割れだ。王宮への直通経路というわけである。これを設置しておけば、向こうからの連絡はすぐに来るし、依頼を受けたら即、向かえるというわけだ。しかし、我が家に置き場はなかった。ほとんど意味を為していない道場に置こうかと思ったが、親父が嫌がった。解せない。
というわけで、外に置くしかないのだが、何も囲いもなく置いておくのは問題がある。なにしろ、王宮の城門内に通じている。事情を知らない者が勝手に起動して転移されたら困るわけだ。
「しゃあなし。小屋でも作るか」
「そうだな」
ニキとどう設置するか話し合い、小屋を作ることにした。
俺はさくっと近所の木を切り倒し、枝を切り落としたものを集めておいた。あとはニキが建ててくれる。基本的に文句が多めのニキであるが、自分が修理した転移器の設置とあって、張り切っていた。
俺はあまり器用ではないので、小屋作りはニキに任せ、アミッドへ土産を渡しがてら久しぶりの村を歩いてくる。
「久しぶり」
「ゼン……! 勇者になったって本当!?」
「ああ。どんな風に伝わってるんだ?」
ちょうど道すがらアミッドに出会ったので話す。この村は少し歩けばすぐ知り合いと顔を合わせる。王都城下町の人混みが嘘のようだ。
「なんか、ドラゴンを倒してその肉を食らったとか……」
「ふむ、この村でやってたこととあまり変わらんな」
「よく考えたらそれ、だいぶおかしくない?」
吟遊詩人の歌は分かりやすい話が印象に残っているようだ。アミッドの話では詳細はよく分からなかった。
「ドラゴンといえば、俺が倒したからか、英雄の館とかいう店で売ってたドラゴンメダルが完売してた」
「なにその店」
「ラディクト将軍の記念品とかがあった。魔物のメダルもあった」
「へえ~。都会ってすごいな」
俺が都会の話をしていたら、周りに同年代の奴らが集まってきた。
「ゼン!! お前、勇者になったって!?」
「マジか? 無属性だろお前」
「ラディクト将軍見たか? かっこよかったか!? 死んだってウソだろ!?」
「ってか、英雄の館ってなんだ!?」
質問攻めにあう。相変わらず無属性で弄られるが、今の俺は違う。
「俺は無属性魔法を使えるようになった」
「なんだそれ!?」
「見てろ」
俺は拳を握り、うっすらと微量に拳だけに魔力を流すようにした。
「無属性魔法:気合い(弱)!」
そう、誓約を口にし、発動させるとうまいこと拳にだけ力が流れた気がする。
「フン!!」
そして、地面に落ちていた硬めの石を拾い、握りつぶした。
「どうだ?」
「……じゃねーよ!!」
皆、一斉に俺へ突っ込みを入れた。何故だ。
「……魔法?」
皆、首を傾げる。
「魔法だ」
迫真の表情で俺はそう答えた。
「そ、そうだな……」
皆、引き気味になり、サッといなくなっていった。
「あ、あのさ」
「なんだ?」
アミッドだけはその場に残っていた。
「それ、筋力じゃない?」
「……む、完全に否定はできないな」
そう言われてみれば、手に力を込めた意識はある。
「おれが捕まえた虫の粉飲んでたからか~」
「そうだろう。虫蛋白粉のおかげだ」
虫蛋白粉の話が出たので、それが「勇者の粉」として王都で売り出されるという話をした。
「え、ええ~~っ!?」
「そこでだ。これの製造をお前に委任したいと思う」
「お、おれに!?」
俺の意匠を使用したものが売れた場合、一定の金額が俺に支払われる契約をしたという話もした。
「これに関してはお前にも売り上げの幾らかが入るような契約にしよう。すでに、祝賀行進で少し宣伝してきたのでたぶん売れると思う」
「そ、そんなことしてたの……」
次に王宮へ行く際は見本を持っていくことも話した。これは一大産業になりそうな予感がする。ちょうど転移器も設置したので、ラーニャにも話をつければ、一気に運ぶことも可能だ。
「ああ……、そうなるといいな。おれ、神言器が虫取り網だから向いてる仕事がいまいち見つからなくて」
「正直、お前が神言器をそれにしたのを聞いたとき、将来どうするのかと思っていた」
「ひどい」
そう、正直な話をすると俺たちは顔を合わせて笑った。
「俺はそもそも石のままだからな。でも勇者になったし、人生どうなるか分からん」
「そうだね」
「じゃあ、そんなとこでよろしくな」
「ああ」
俺はそう、アミッドへ話をつけると、土産があったことを思い出した。
「土産忘れてた。メダルだ」
「英雄の館の?」
「ああ」
そしてメダルを渡す。
「え、ドラゴンじゃないの?」
「お前は虫が好きだろ」
「あ、ありがとう……」
若干、アミッドの反応が芳しくない気がしたが、俺の選択は間違っていないと思う。
その後、俺は魔法が使えるようになったということで、魔具を使う実験をする。
「あなたもついに魔法が……」
ラーニャから実験用に魔具焜炉を出してもらった。
「無属性魔法:気合い(弱)!」
今度は指先にだけ魔力を流すつもりで思い描いた。そして、魔具焜炉の魔力装置に触れる。
「!!!」
勢い良く指がそこにめり込んだ。変な音がした。もしかして……これは、壊れた?
「し、身体強化系の魔法かしら……」
「そ、そうだな……」
それにしたとしても、魔力さえ流れれば何かしらの反応が出るのではと仮説を立てていたが、現時点ではそれを証明できない。
「……弁償する」
「そのうちでいいわよ」
少し肩を落とした俺にラーニャは優しく肩を叩いてそう言った。




