(26)二人の英雄
祝賀行進――それは、英雄の戦果が讃えられる晴れの舞台だ。
俺はリベリオとともに、屋根のない馬車に乗せられ、王都を凱旋させられる。
もちろん、竜の皮鱗製の鎧を着用するよう指定され、帯剣していた。勇者らしい格好ということだ。
リベリオは見たことがある服だ。軍服と思われるが、戦場での礼装のようなものだろうか。厚い革と金具で仕立てられており、よく見たら格式が高い。ラディクト将軍戦の時と同じものだ。神言器の籠手を戦闘仕様にしており、その状態で国民へ向けて手を振っていた。
「ほら、お前も手を振ってやれよ。勇者様の凱旋だぞ」
「あ、あぁ……」
広報部が早速仕事をしていた。掲示板に張り紙が貼られたり、広報士が各所で口頭にて触れ回っていた。
俺は、魔王軍の総司令官のドラゴンを筆頭に、指揮官級を各個撃破したとして大々的に知らしめられた。平民出身の成り上がりという触れ込みでもある。嘘ではないので逃げようがない。ラディクト将軍を討ったことはもちろん伏せられている。
リベリオはこの国の王子でもありながら、王国軍総司令官として勝利をもたらしたことになっている。それもまあ、嘘ではない。
二人の英雄が誕生したというわけである。そしてこの二人の英雄は身分が違うながらも友である――という筋書きだ。いや、それも嘘ではないのだが。
「我が国エーレンエムは魔王の脅威に屈することはない! 俺たちがこうして退けた! これからも負けることはない!」
手に持ってはいるのに拡声器も使わず、リベリオはそう大声で鬨の声を上げた。うん、使わなくても届く。至近距離で聞くと耳が痛い。
リベリオがそう、何かしらの文言を叫ぶたびに国民は熱狂した。
これは楽士の祭りかなんかか? 吟遊詩人とか、村へ稀に訪れた時くらいにしか見かけたことはないが、ここまで沸き立つことはない。
「お前、何か言うことないのかよ」
「いや……」
俺から言いたいことは特にない。……あ、一つだけある。
「お、言うのか? これ貸してやるよ」
「ああ」
俺は声に自信がないので、リベリオから拡声器を借りた。魔力はリベリオが流してくれる。
「勇者の粉はただ飲むだけでは駄目だ。鍛錬をしないと効果がないから気をつけて欲しい」
俺がそう言うとリベリオは吹き出した。
「宣伝かよ!! っていうか注意事項?」
「駄目なのか?」
「いや、まだ売り出してねえだろ」
「そうだな」
そう言われてみればそうだ。
「これからどこかで俺の研究成果の勇者の粉が売られるからよろしく」
「おい!」
これから売られるということを伝えておいた。これなら問題がないだろう。リベリオから突っ込まれたが、まあいい。
リベリオが何か言うと国民は熱狂的に沸き立つのに、俺がそう発言したら国民がざわついた。何故だ。
「お前、もう何も言うな! 手だけ振っとけ!」
リベリオにそう言われてしまったので、俺は無になって手を振った。黙って手を振っていたら、国民は沸き立ち、手を振り返してきた。うむ、確かに何も言わない方が良いと思った。
「これから竜の宴を開催する! 王城裏に集まるがいい!」
リベリオがそう宣言して回る。王都を隅々まで練り歩き、馬車はその方向へ進んでいった。
王城裏へ到着した。俺たちは馬車を降り、護衛に囲まれながら主賓席に着く。
「こいつ、戦場から持ってきたのか」
「検分してたんだ。特に何も問題なかった。保存魔法掛けておいたから腐ってはいない」
俺が戦場で真っ二つにしたドラゴンが持ち運ばれていた。討伐から数日経っているが、保存魔法を掛けて検分していたらしいので、腐敗はしておらず、鮮度を保っていた。
この王城裏は兵が出撃の際に待機する場所でもある。王家主催の宴の際にはここが用いられるらしい。
「おお、結構香ばしい匂いしてきたな」
「本当だ」
ドラゴンが目の前で大胆に切り分けられ、こんがりと焼かれていく。リベリオが鼻をひくつかせて、匂いを感じていた。
「あまり火を通しすぎると固くなる」
「そうなのか」
俺が自分で捌いて火を通してみたときの経験則であった。少し生に近い方が旨味がある。
そして、調理されたドラゴンと、果実酒が運ばれてきた。至れり尽くせりだ。
「皆、これが我が国を危機に晒した憎き敵だ! 我らでこいつを噛み砕き腹に収めて我が国の勇猛さを知らしめよ!」
「我が国の勝利に乾杯!!」
リベリオが口上を述べ、乾杯の音頭を取った。国民が沸き立ち、杯を掲げる。
それにしてもよく、こんなに口上が出てくると思った。王族だから学があるので語彙が豊富ということか。
「お、おぉ~……、まあいける」
「結構食い応えあるぞ」
「なんか強くなりそうな気がするな」
「なるかもな」
「なるだろ。お前、馬鹿力なのドラゴン食ってたからじゃねえの?」
「いや、そんなに頻繁には。やっぱり虫蛋白粉だ」
「どんだけ虫の粉推すんだよ」
肉を食いながら、リベリオとそんな会話をした。俺は村で酒を飲むことはないが、こういった席でこうして出されたからには飲まねばと思い、飲んだ。
友とこうして語らいながら飲む酒は美味いと、初めて知ったのだった。
俺は気付いていなかった。この様子も詳細に記者に記録され、絵も描かれていたことに。




