(25)勇者の粉
「勇者様は体作りのためにドラゴンを召し上がるようですが、他にその体を作った食べ物はありますか?」
リベリオとのやり取りを受けて、記者からさらに質問される。
「虫の粉を水で溶いて飲んでいました」
「え?」
記者というものは己の主観を挟まずに事実を記していくものだと思ったが、俺の回答に首を傾げた。何故だ。
「それは一体?」
「虫を粉末にしたものです」
「え、えぇ……」
理解不能、という顔をしている。解せない。
「マジかよ、味は?」
「味のことは考慮していません」
「お、おぅ、チャレンジャーなやつだな。今度飲ませろ」
「はい」
リベリオが興味を持った。フィアしか飲んでくれなかったので、反応が楽しみだ。
そして、俺は田舎村において自分が占有できる蛋白源として有用であると説明した。記者は納得したようだ。
「なるほど、勇者様の体躯そのものが証左というわけですね」
「鍛錬も必要だと思います」
ようやく虫蛋白粉の有用性が理解された。俺がこの体で研究の成果を体現したというわけだ。
「ゼンよ」
「はい」
「後日、その蛋白粉の見本を数点こちらへ納めよ」
王妃からそう声が掛かった。
「あの、どうされるのですか? 鍛錬されますか?」
「勇者の粉としてこの国の産業に組み込もう」
「え?」
まさかの展開になってきた。もしかして、あの『英雄の館』に俺の商品が並ぶようになるのでは……と思った。
「分かりました。お持ちしましょう」
「期待しておるぞ。他にも順次、おぬしの意匠を産業に組み込んでいくので心せよ」
「あの……」
予感が的中した。このまま黙って流されれば、俺の意思とは関係なく俺が消費されていく。ラディクト将軍もこのような感じで産業化されたのだろうか。
「俺の意匠を使用される際、その利益配分はどのようになるのでしょうか」
「ほう……?」
これは確かめておかなければならない。質問しても良いとのことだったのでしてみた。いや、記者に、という意味ではないかと思ったけど、押し通そう。
「あと、どのように意匠が使用されるのか明文化して契約を交わすべきではないかと思います」
「ふむ、一理ある」
もしかして不敬にあたるのではないかと思ったが、王妃は笑みを浮かべながら興味を見せた。
「母上、その件に関しては僕にお任せ下さい。利益配分や契約を明文化いたします」
「ロジウス、いいでしょう」
弟王子がそう申し出てきた。ラディクト将軍との対決の時、固まっていた少年だ。王妃の指示で記者から弟王子へ数束の紙が渡された。
そして、弟王子は神言器と思わしき筆記具を手にし、紙へ手をかざす。すると紙は宙に浮かび、筆記具の石が光った。それとともに、じわりと紙へ文字が浮かんで固着する。それを数枚分繰り返した。
「確認してください」
それはまず、王妃に渡された。王妃が目を通す。問題はないようで、目を通し終わると一つ頷いた。
「おぬしも確認せよ」
そして俺に手渡される。
……国王は確認しなくてもいいのだろうかと思ったけど、薄々感じていたこの王家の力関係を考えるに、まあ……そういうことなのだろう。
「問題ありません」
横にいたフィアにも見せた。驚くべきことに、一瞬にして明確かつ納得いく契約内容が記されたのだ。
「すごいな……」
「ええ、この書式は完璧です」
この弟王子は戦闘において体が動かない質であるようだが、文官としての能力が高いのだろう。非常に気になる魔法だ。紙さえあれば書物が一瞬で書き上がるなんて夢のような魔法ではないか。しかも、内容の精度が高すぎる。これは神言器による自動書記なのだろうか、本人の思考によるものなのだろうか。
「ゼン」
「あ」
気付いたら書類ではなく、弟王子を凝視していた。心なしか怯えた顔をしている気がする。いや、俺は敵意をもって睨んだわけではない。フィアに突かれて我に返った。
「こいつ、こういうの得意なんだぜ~。古代文字とかも習得してるし、話が合うんじゃね?」
「お、おお……」
「兄上ッ」
「な、チェスとかしようぜ!」
リベリオがそう誘いかけると、弟王子は顔を赤くして慌てた。チェスとは何だろうか。この話の流れだとおそらく知的な遊戯なのだろう。それは気になる。俺は思わず感嘆してしまった。
この件に関してはこれで承諾し、契約書に名前を記した。これで俺の意匠が用いられた何かが売られ、利益を上げると俺に収益が入ることになった。
俺の木彫りの人形や肖像画の写しなどが売られるのはあまり気が進まないが、虫蛋白粉は俺の研究成果なので広まって欲しい。ただし、効果を出すには鍛錬が必要であることを必ず明記するように、と念を押しておいた。
記者たちはもちろんこのやり取りも勢いよく記録していた。
この他に、村での暮らしや得意な戦闘技など、様々なことを聞かれた。フィアやニキにも質問が及んだ。そして、取材を終えた記者たちは退室していった。
「以上でよろしいでしょうか?」
「ご苦労であった。これからおぬしは勇者としてこの国の民に知らしめられる。後日、祝賀行進と祝賀祭が開催されるので出席するように」
「竜の宴だな!」
「あ……は、はい」
これで終わりかどうか聞くと、国王にそう返された。まだやることがあるようだ。なかなか帰宅できない。祝賀行進とは一体何なんだろうか。リベリオが俺の肩を叩き、楽しげにする。あまり良い予感はしない。
「ところで、そこな工作兵ニキよ」
「は、はぃい!?」
王妃に名指しされてニキが分かりやすくたじろぎながら返事をした。ただでさえ圧が強い王妃から名指しとあっては、そうなるのは分かる。
「そなたに修理依頼を申しつける」
「は、はいっ!」
ニキは内容は聞かずに背を反る勢いで真っ直ぐにし、受け答えた。
「壊れている転送器二つ分。できるであろうな?」
「はいっ!」
これで新たに報酬をもらえるから良かったな、と心の中でニキへ言葉を掛けた。




