(24)竜の宴《ドラゴンパーティー》
「っ、う、ああああああ、スッた~~~!!」
ニキが悲壮感をあらわにして叫んでいた。
「く、クソ……、あいつに託したのに……、有り金全部賭けたらパアだ!」
遊び歩いていたのは知っていたが、顔を合わせるなりこれで呆れてしまう。酒浸りになったり、娼館に行ったり、闘鶏賭博をして、せっかく得た報酬が消し飛んでいた。
ちなみに、村では酒に溺れる者を「酒カス」と言い、闘鶏賭博に金を突っ込む奴のことを「鶏カス」と言っている。さらに、ニキは煙草も吸っているので「ヤニカス」とも言う。
「親父の借金は俺の報酬でだいぶ返せるほどになったし、あんたのは別に……」
「く、クソ……、俺もおやっさんに酒をおごるくらいは……」
「あんた何しに来たんだ」
「うるせえ」
そうはいうものの、実はニキも今回の騒動に関する功労者なのである。ニキが転移器を修理していなければ、俺とリベリオが救援に行くことはできなかった。ニキは面白半分で修理したようだが、ルルカの神託の導きを見ると、これも運命なんだろうかと思った。
「よお、お呼びだぜ、来いよ」
「リベリオ、分かった」
客室にて俺とニキとフィアが待機していたところ、リベリオから呼び出しがかかった。
「は、ははぁ! っていうかお前、呼び捨てタメ口やばいだろ!」
ニキは慌てて膝を付き、リベリオへ傅いた。フィアも静かに傅く。
「あ~、言ってなかったのか。オレとこいつはダチになったんでいいんだ。まあ、お前たちも固くするな」
「そういうことだ」
「え、ええ~っ」
「そうだったのですね。不束者ですがよろしくお願いいたします」
リベリオが俺たちの関係を説明する。ニキは驚き慄く。フィアは立ち上がり礼をした。
「父上たちが呼んでる。まあ、いろいろ話し合いだ」
「……分かった」
協議が終わったのだろうか。俺の扱いについて、これから俺を含めて話し合うのだろう。
「そこの二人も来い。もう事情知っちまってるからな」
「ひっ、は、はい」
「……はい」
ニキとフィアにも声が掛かった。そう言われてみればこの二人も「この国の事情」を知ってしまったわけだ。俺から詳しく説明済である。もう、無関係ではいられないということだ。
「楽にして良いぞ」
国王がそう静かに申しつける。
俺たちは玉座がある謁見室とは別の部屋に通された。客間のような部屋だ。ただし、警備は厳重である。入口前には武装した兵が立つ。室内にも軽武装の兵が数人立っていた。
「よろしくお願いします」
勧められるままに柔らかい椅子に掛け、目の前に茶が出されたのを目にしながら、俺はとりあえずそんな言葉で応対した。こういう時、何と言っていいのか分からない。
俺の隣にフィアが座る。それだけで安心感があった。ニキは俺の後ろの小さな椅子に掛け、落ち着かない様子でいた。
この場には、王族と警備兵の他に、役割がよく分からない者が数人いた。身なりは貴族に近しい綺麗な服装だが、それだけでは役割の見当が付かない。着席している王族の後ろに立って控えていた。給仕もいたが、これは服装で判別が付く。
「今回の騒動の件、真相はもちろん口外不出ということで。その上で、我が国ではおぬしを勇者とする」
「はい」
国王から、再びの確認であった。
「これから、おぬしに質問をする。この者達は我が国の広報部の記者だ。この者達がおぬしへ質問をし、記録をする。逆に、おぬしからの質問にも答えよう」
役割不明の者たちの正体が判明した。そして、広報とは一体。俺をどうしようというのだろうか。
よく見たら、もう手を動かしている者がいた。もしかして俺の姿を描いているのではないだろうか。筆の運びがそのように見える。
……なんか、取り返しの付かない領域へ足を踏み入れているのでは、という気になってきた。
「では、その剣と鎧はどういった来歴があるのですか?」
今回は鎧の着用を指定され、帯剣を許されていた。もしかしてこの広報部のためなのだろうか?
「剣は鍛錬のために拾い集めた魔重鉄鋼を使って家族の知り合いの鍛冶師に作ってもらいました。鎧は近所のちょっとしたドラゴンを狩って、その素材で後ろの奴に作ってもらいました」
俺は振り返り、ニキを指差す。
「ちょっとしたドラゴンって何だよ!」
「近所の小さめな……」
リベリオから突っ込みが入る。国王がリベリオを諫めようとしたが、王妃がそれを制した。
「なるほど。ありがとうございます」
記者たちが一心不乱に記録していく。一体何を記録されているのだろうか。
「っていうか、お前のその剣、なんか名前あるのか?」
「いえ、特には……」
公の場なので、一応ここではリベリオに対して敬語などで対応する。
「いや、それはドラゴンを殺った剣だ。だから竜殺しだ!」
「は!?」
思わず、リベリオに対して素の態度で声を上げてしまい、慌てて口を押さえる。
「ドラゴンスレイヤー……」
記者たちが復唱した。まずい、公的な記録になってしまう。
いや、そんな代物では……。まとめて固まってたら鍛錬のための重りとしてちょうどいい程度の剣なんだが……。
と、言っても後の祭りだし、話が終わらなくなりそうなので流した。
「そのドラゴン、皮とか使った後どうした?」
「食った」
またうっかり敬語が抜けてしまった。そして何故かリベリオが質問してくる。
しかし、お咎めはないようだ。王妃が扇で口元を隠しながら心なしか目に笑みを浮かべているように見える。逆に何か不気味なものを感じた。
「マジかよ! 食えるのか!」
「貴重な蛋白源なので……」
「美味いか?」
「食えなくはないです。鶏肉に似ています」
「へぇ~~~! よし、じゃあ食うか」
「は?」
せっかく敬語を使えたと思ったら、また抜けてしまった。すっかりリベリオの調子に引っ張られている。
「お前が倒したドラゴン、食おうぜ! 竜の宴だ!!」
何を言っているのだろうか。突っ込みが口から出かかったけど堪えた。
……や、やめろ、記録するな。
記者たちが俺とリベリオのやり取りを逐一記録していく。そして王妃は笑みを浮かべながら頷いていた。これは良いことなのか、何かやらかしているのか分からない。
俺は一体どうなってしまうのだろうか。




