(23)二人の町歩き
王から勇者としての身の振り方を申しつけられるまで、まだ間があった。協議中なのだろうか。外出は認められているので城下町を歩いてみようと思う。
「フィア、城下町へ行こう」
俺はフィアを誘った。ニキはすでに遊び歩いていて姿を見かけない。フィアには特に予定はなさそうなので、一緒に歩きたい。
「えっ、あ!? はい」
「ん? なんか予定あるのか?」
「ないです! 行きます!」
少し戸惑いのようなものを見せたが快く同行してくれるようだ。
フィアは王都へ入ってから、王宮内でも変わらず上羽織を目深に被っている。城下町を歩くにあたってもそうだ。
そういえば「白相の者」という立場があることを王族達から何度か聞いている。ラディクト将軍が刺客として率いていた兵達は、皆これであった。魔力を供出する者達もこれであるようだ。
果たして、フィアがそれに該当するのかは分からないが、見た目だけなら条件に値する。だが、本人から申し出はないので追求はしていない。事件の経緯は話してあるが、これについてどう考えているかはよく分からない様子だった。
「人が多い……建物がでかい……」
語彙力が失せたかのような感想を漏らしてしまった。田舎村では到底見かけない光景が目の前に広がる。
石畳で舗装された道が四方に分かれ、奥行きを作っている。ナログ村のように真っ直ぐ歩けばどこからでも村の外に出るということはない。ここではどこかで行き止まりになることがある。
フィアは道中や戦場のように土を魔法で動かし、移動することはできないので自分の足で歩いている。できなくはないのだろうが、石畳を壊すことになるだろう。
そんな道を所々、人が詰まったりして往来している。立ち止まれば誰かにぶつかってしまう。ナログ村では道の真ん中で止まろうが寝そべろうがぶつかることも踏まれることはない。
「気をつけろ」
「はい」
フィアに猛烈な勢いで向かってきたおじさんがいたが、俺が前に立つとスッと横に避けていった。なんなんだ。
奇妙なことに、何度かそういうことがあった。立ち向かうなら容赦はしない。たまに回避を失敗するおじさんがいたが、俺にぶつかるとすごい勢いで飛んだ。大丈夫だろうか。
「なんか危ないな」
「え、あ……はい」
俺が手を差し出すとフィアはおずおずとその手を取り握った。はぐれそうだし、手を握っておくことにした。
「店の種類が多い。一日では回りきれそうにないな」
「そうですね。どこから見たらいいか迷っちゃいますね」
食べ物の屋台、宝飾品、日用品、武器、食料品、菓子……様々な店があった。学術的な書物がある店はないのか気になった。これは王宮の図書室を閲覧させてもらった方が良さそうなのだが、許可は出るのだろうか。
「お、魔具の店があるな」
「見てみますか?」
「ああ」
村で一番大きい建物である教会の数倍の大きさの建物だ。かなりの規模の店のようだ。装飾が施された両引き戸の扉が入口だ。
「ん?」
なんと、自動扉らしい。手で触れるよう、注意書きがされた箇所がある。だが、そこに触れても動かない。調子が悪いのだろうか。一応、縁に手が掛けられるので俺はそれを掴み、両手で開いた。村の家屋にある引き戸に比べてかなり立て付けが悪い。でもなんとか開いた。
「あ……ゼン、それ」
「どうした?」
「魔力を流して開けるものだと思います……」
「え?」
そう言われてみれば、魔具とは魔力を流して使うものだ。それを売っている店の扉が魔力必須という仕組みで選別装置になっていてもおかしくない。俺は選別されていたのだ。なのに、その理を無視してしまったことになる。
フィアも入店すると、俺の魔重鉄鋼剣と同じくらいの重さの扉をそっと閉めた。
俺も魔法が使えなくはないのだ! 「無属性魔法:気合い」で魔力を発生させ、魔具を扱うことはでき……るかまだ試していなかった。おっと、これも研究課題だ。きっと使えると信じてのちの研究を楽しみにしよう。
「魔具焜炉、当然のようにあるのか」
「ここではどの家庭にもあるそうですよね」
「結構な値段だが、王都の人間は金持ちなんだな」
ラーニャがこの間仕入れたものを見せてもらったが、様式は同じもののようだ。これを村の人間に普及させることができればかなりの儲けになりそうだが、導入できる家庭はあまりなさそうだ。ラーニャはこれよりは安い値段で卸しているようだが。
やかん、鍋などの調理器具もあった。これは焜炉に掛けることもなく、直接魔力を流せば発熱して調理ができるもののようだ。これも見たことがある。
「ん? なんかこれ……」
「どうしましたか?」
「これってニキが……」
やかんの魔具の底に、装飾のような金継ぎの跡がある。ニキが修理していたものではないだろうか。見覚えがある。
「え? 修理品の方が高い?」
「本当ですね」
傷一つない新品と思わしきものもあったが、そちらより修理品の方が高いのだ。
「王都では魔具を修理するというのが一般的ではないようです」
「そうか。だから」
それに加え、ニキの修理した跡が一品ものの装飾が施されたものとして価値が付加されているようだ。
「うわ、ちょっと待て、義手義足ってこんな値段なのか」
「すごいですね……」
「でも、ものとしては親父が使っているものの方が機構が複雑だと思うし精巧だ」
ここにある義手義足は最低限の日常生活の補助ができる程度の簡素なものだ。それでも焜炉などに比べて桁違いの価格である。それを鑑みると親父の義手義足はとてつもない価格なのだろう。そう考えると、今回の報酬でその価格を賄えた上に、道場建築代まで賄えたのはかなりの成果だ。実は、道場建築代はおまけのような比率である。
それにしても親父はよくそんなものを入手できたと思ったし、あまりにも雑に扱いすぎていると思った。
ここまで見ておいてなんだが、特に買うものはない。俺はフィアに扉を開けてもらい、店を静かに出た。
「……これは一体?」
「土産物屋でしょうか?」
魔具店を出た俺たちは『英雄の館』と書かれた看板の店で足を止めた。
「入ってみよう」
「はい」
今度は特に魔力が必要のない扉のようだ。よかった。
「ん?」
店入口付近にこんな張り紙があった。
『英雄ラディクト将軍追悼』
そういえば、ラディクト将軍の国葬があったばかりであった。店の看板の内容に紐付いてはいるということか。
中に入ると、そこには何に使用するのか不明な用途のものがあった。
ラディクト将軍の肖像画の写し、将軍の剣を模した木刀、盾の模造品、木彫りの人形。それとは別にドラゴンやオーガなどの図柄が彫られたメダルがある。
「よぉ、兄ちゃん! ラディクト将軍のファンかい?」
「あ……いや……」
「いやあ……惜しい人を亡くした。あの方は我が国の誇りだ。それを忘れないようにこうして記念品を作ったってわけよ。どうだい?」
将軍が逝去したのはほんの数日前である。この記念品の出来から察するにそれ以前から陳列されていると思われる。
……便乗商売?
「しっかし、兄ちゃんデカいなあ。ラディクト将軍くらいあるんじゃないか? いやあ、騎士団に入ったらどうだい? 憧れは果たさねえとなあ」
「は……はあ……」
気まずい。数日前に謀反を起こした将軍を蹴り倒して取り押さえたなどと言えない。
「これはいったいなんなんだ?」
「お土産だと思います」
「何か役に立つものなのか」
「眺めて楽しい……」
「そうなのか」
この店にあるものの用途が分からないのでフィアに聞いた。木刀は鍛錬に使えると思うが、強度に不安がある。盾の模造品は実用には耐えられないと思う。そんなことを思っていたが、どうやら見て楽しむためのものらしい。
「そうか、土産か……。あ、そうだアミッドに買っていくか」
魔物の姿を格好良い図柄で彫った記念メダルを眺め、故郷の友人への土産を選ぶ。
「うん、虫メダルにしよう」
「ドラゴンの方がかっこいいから、そっちの方がいいんじゃないですか?」
「まあ、あいつは虫好きだし」
「そうですね……」
黒光りする虫の図柄なので、格好良さは担保されていると思ったからそれにした。
「角が生えている虫の方がいいかなって思ったけど売り切れか」
「え……ええ、いいと思います」
フィアが苦笑いしていたが、気にしないことにした。
「それにしてもあれは将軍の許可を取っているのだろうか」
「たぶん、取ってないと思います」
「そういうもんなのか?」
「許可料とかいるんじゃないのか?」
「その発想はなかったです……」
店を出てからフィアとこんな会話をした。
本人の名や姿を使って物を売るのであれば、まず、許可がいるのではと思った。そして売上の一部は本人に還元されるべきではないかと思った。
このように、あの店に関しては思うところがある。これは英雄を消費する構造ではないかと思ったからだ。
そんな引っかかりを抱えながらも俺たちは今までにない体験をしたと思う。俺は未知の体験ができて楽しく思った。
「フィア、疲れてないか?」
「平気です」
少し息を切らしながらフィアは柔らかく笑んだ顔を見せてくれた。
握った手が温かい。




