(22)頭痛
「ところで、リベリオ。あんた、神言が聞こえないって言ったけど、正確には聞こえなくなったんだよな?」
「おう、早速呼びタメ馴染むな。いいな」
普通に友達と接するように話してみたが、これで良かったのだろうかと少しひやひやした。だけど、リベリオは満足そうだ。
「それはともかく。そうだ、普通に聞こえてたけどキモイから拒否した」
「キモイ……」
一体、どういう感覚なのか謎である。頭の中に知らない声が響くというが、気持ち悪いと言われればそうなのかもしれないとは思った。
「なんか、オレが見たこともねーこととか勝手に言ってくるのが嫌だった。オレはオレが見たものしか信じねーから」
ものすごい現実主義者なんだろうと思った。現場主義というか。身体感覚と思考がずれると気持ち悪さを覚える質なのだろうか。
「しまいには、内側から壊せとかわけわかんねーこと言ってくるし。いや、たぶん、オレが暴れがちなの知ってて誰かがオレに王宮をめちゃくちゃにしろって言ってんだ」
「暴れがちな自覚はあるのか」
「まあな」
これまで心の中だけで済ませていた突っ込みを思わずするようになってしまった。
それにしても、神言とは何なのだろう。洗脳に近しいものまで聞こえることが判明した。この発生源は一体なんなのか。神言は女神へ報告するものとされているが、どこから発せられるのかは誰も言及しない。これも今後の推論材料だ。
「だから壁に頭を打ち付けたら聞こえなくなった。スッキリしたぜ」
「え、そんな感じで消えるのか?」
「おう。よくわからんが、いけた」
リベリオは神言を拒否した。そして神言は聞こえなくなった。
それは強い意志とともに、物理的に禊も行ったことにより為されたのではないかと思った。それならば、同じことをすれば……
ガン!!
「は!?」
俺も壁に頭を打ち付けてみた。
「あ……」
やばい、壁が壊れた。
「ちょ、おま……、マジかよ」
「す、すまん、弁償する……」
足元には破壊してしまった城壁の石塊が転がる。ついやってしまった。やらかした。よりによって王宮を破壊してしまうとは。
「……聞こえたか?」
「聞こえん」
リベリオは俺が何でこんなことをしたのかを察してそう聞いたのだろう。そう、俺も壁に頭を打ち付ければ逆に神言が聞こえるようになるのではと思ったのだ。
「っていうか、お前は神言聞こえたことねえのか」
「ああ」
「まあ、無属性っていうからには、そうなんだろうな」
「一度くらいは聞いてみたかった」
「別にいいもんじゃねえけど、全く聞こえたことねえなら気になるか」
そうしてしばし沈黙すると、リベリオが鼻から息を漏らして小さく笑い出し
「……っ、はっ、ハハハッ!」
爆笑しだした。
「オレがこれやったとき、狂人とか言われたけどよ、お前も大概だな!! っていうかオレの時はオレが血だらけになったけど、お前がやったら壁の方が壊れるのかよ!」
「この壁弱くないか?」
「弱くねーよ!」
ドラゴンを倒す時に俺の背に乗った岩に比べたら弱いと思った。フィアが出した岩だ。
「っ、ハハ、これ、オレがやったことにしとくから安心しろ。またやったのかって思われるだけだし」
「いいのかそれで……」
とりあえず問題はないようだ。ないことにしよう。
「あ、いたいた。王子~! ゼンさんも一緒なんですね」
俺たちがそんなやり取りをしているところに、巫女が手を振りながらやってきた。
「なんかすごい音がしたからこっちかなって」
「あ、これか」
「わっ、何これ」
「スイマセン、俺がヤリマシタ」
巫女は俺が壁を破壊した音を聞いてここにやってきたようだ。俺は思わず棒読みで謝ってしまった。
「な、なんで!?」
「神言が聞こえるようになるかと思いまして……」
「え、ゼンさん聞こえないんです?」
「はい」
「て、いうかなんで敬語? わたしに対して」
「神託の巫女というのはどういう階級か分かりかねて……」
その様子を見ていたリベリオが笑い出す。
「ハハッ、そりゃま、そうか。忘れてたけど神託の巫女って公女に準じる階級なんだった」
「そ、そうか。やっぱりな」
俺たちのその様子を見て、巫女は小さく口を開け少し驚いたような顔をする。
「えっ、王子とゼンさん、なんか友達みたい」
「そうだぞ」
「え?」
リベリオは巫女に対して俺たちの関係を答えた。
「ダチだ! 無礼を許してある。フフン、オレにもダチができたってわけよ」
「えっ、友達少ないって言ってたけど、良かったです~」
「うるせ」
こちらも随分と仲がいいようだ。
「あんたらも友達なのか?」
俺からもそう聞いてみた。
「え、いや、あ? 友達ってかよぉ……」
リベリオの勢いが突然弱くなり口ごもった。少し首を傾げながら手で頭をかく。
「……師匠です!」
「は?」
巫女が元気よくそう答えた。
「いざというとき走れなきゃ何もできねえ、筋力がなければ動けねえ、って言われたので鍛えました!」
「ちょ、おい、おま」
巫女は握りこぶしを胸に当てながら溌剌とそう言い放った。リベリオが何故か少し慌てる。
「おかげで、神託を授かって王子を呼びに行くときも、窓から脱出して秘密の抜け道通って転移器まで行けました」
「シッ!」
これはあまり大きな声で言ってはならないことらしい。リベリオが辺りを見回しながら、指を口に当て、巫女へ口外しないよう合図した。
「あんまりデカい声で言うなよ? オレがそれでおまえんとこ行ってるのバレるだろ」
「バレてるんじゃないです?」
「う、うわあ」
リベリオが頭を抱える。なんだか少し面白い光景だ。
「今回、晴れて私の神託が国を救ったということになるので、外出がちょっと自由になりました。王宮には自由に出入りしていいとのことです」
「あ、なるほど、そうか」
どうやら神託の巫女というのは外出の制限があったらしい。そういう身分なのだろうと思った。
「やっぱり実績は信頼となるんですね。これで王子ともう少し遠いところまでお出かけできそうです」
「お、おぅ、かもな」
巫女がそう満面の笑顔で、リベリオの腕に手を絡め見上げる。うむ、仲がいいな。
「あ、ゼンさん」
「はい」
「改めて、ありがとうございました」
巫女は俺に向き直り、深く礼をした。
「いや、俺は仕事として受けてこなしただけです」
「そうなんですけど、わたしの神託はもう一つあって、王子に関して長剣を持った大男を見たら身を逸らせというのがあったんです。それがゼンさんのことだったんですよね。おかげで王子は刺客からの暗殺を免れたんですよ」
それは直接俺が何かをしたわけではないのだが、俺の存在が機を計る印となったのだろう。
「そして、王子の友達はわたしも友達になりたいです。どうか、畏まらず、わたしのことはルルカと呼んでください」
花が咲くような笑顔で巫女はそう申し出、手を差し出してきた。
「あ、ああ。よろしく、ルルカ」
そしてその手を握る。すると
「……!」
バチ、と頭の奥が弾けるような感覚に襲われた。ルルカも似たような感覚を覚えたようで、目を丸くし、ひっくり返りそうな顔をした。
「どうしたおまえら?」
「い、いや。なんでもない」
「静電気ですかね?」
ルルカは首を傾げ、そう答える。俺は鈍く頭の奥に痛みを覚えながらも鎮まるのを待った。
「ま、これでオレらはダチってことだ。これからいろいろあるかもしれんが、よろしくな」
「ああ」
「はい!」
こうして、俺にまた新たな縁が生まれた。少しの気になる謎を残しながら。




