(19)今日から勇者
これは明らかに異常な効果だと思った。逆流すらしそうな力を感じる。身に余る力だ。おそらく、長くは保たない。
「!」
俺は渾身の一撃を繰り出した。ここで初めて将軍の盾、目に見える神言器の盾が俺の剣を防いだのである。
「盾使ったァ!」
王子が叫ぶ。わざわざこう口にするということは、目に見える盾を使わせたのが珍しいということなのだろう。そして王子はそう叫びながらも雷撃を飛ばした。すると、それは見えない盾に弾かれることなく、将軍の肩を掠めたのである。
それに気付いた俺は王子へ目を向けると、王子が小さく頷いた。
――勝機が来た
俺が剣を握り、もう一度力を溜めると、将軍は盾に魔力を集中させているように見えた。盾の宝玉が光る。全力で防御するつもりだろう。何度防がれるのか分からないが、俺も長くは保たないと思ったので、ここで決めにかからなければならない。
……この手は使いたくなかったが――
「雷槍!!」
王子が雷撃を発したのが合図かのように、俺も発射した。……剣を。盾へ向けて芯を割るように力の限り投擲した。
「!?」
将軍は驚愕の表情を見せつつ、正面から俺の剣を受けつつ王子の雷撃を避けた。俺の剣はその盾を壊す。そして俺はそのまま脚を踏み込み、体内に循環した全魔力を軸足の逆へ流し込んだ。
脚は身体の中で最も筋肉の量が多い。俺は、鍛錬で作り上げたその筋肉へ全力を込める。
これまでの積み上げ、今目覚めた力。王子とともに作った好機。
……親父と同じことをしてしまった。
義足を飛ばしてきた親父と同じことを。
将軍の神言器の盾が割れ、形を失った。それは魔力が空になったことを指す。魔力が空になった神言器は石に戻ってしまうのだ。神言石は生まれてきたときに握っていた同じ手に収まり消える。魔力が充填されると再び神言器として復活する。もっとも、俺のものはずっと石だが。
なので、不視の盾の守りもなく、将軍は俺の全力の蹴りを受け、地に叩きつけられ兎のように跳ね飛ぶ。
「父上! 拘束を!」
判断と指示が早い。王子が国王へ将軍を捕縛するよう指示した。魔力を空にさせ体への痛撃も与えたので、拘束魔法が効きやすくなり、力ずくでの脱出も難しくなるというわけだ。
「……あれ?」
判断が早くて助かった。俺も即、限界を迎え膝をついて立てなくなった。想定より反動が大きかった。
王子は俺が将軍を撃破するとともに、将軍の手から落ちた剣を蹴り飛ばして即遠ざけていた。恐るべき判断速度だ。だが、これで安心して反動からの回復を待つことができる。
「……勇者様」
……は?
「ありがとうございます……。白相の者たちも、ラディクトも殺さずに止めてくださいました」
王女が感極まったような表情と声でそう、俺を讃えた。
「あ、いや、俺は王子に雇われて……」
救世主が現れた、と言わんばかりの雰囲気で俺へ涙を溜めたような顔で訴えられる。困る。
どう説明しようか考えを巡らせると、その横をすっとルルカが通り過ぎ、水球に閉じ込められている将軍の方へ向かった。
「おい、ルルカ、危ねえ、気をつけ……」
王子がルルカを心配し、注意したが、ルルカは何かに導かれるように神言器と思われる水晶を掲げ、将軍の方へ向けた。すると、水晶は俺達を案内していた時同様、虹色に光る。そして、呼応するように将軍の額から鍵穴状の光が発せられた。
「……なんだ?」
王子が未知なるものを目の当たりにしたような顔で、その成り行きを見つめる。俺も目が離せない。なんだこの現象は。気になる。
――それはとても厳かで、どこか切ない
「あなたは、とても、苦しんでいた」
ルルカはただ一言、そう発した。そして光は止む。
「……! 私は……!」
将軍は何かから覚めたような表情で、我に返ったと言わんばかりの様子を見せた。
「あ……あぁ、そうか、私は……」
将軍がそう、正気に返ったかのような言葉を漏らすとともに、軍靴の音が聞こえた。
「捕らえよ!」
気付いたら王女の魔法は解けており、弟王子が呼んだと思われる兵達が部屋へ雪崩れ込んでくる。兵達は白相の刺客達を捕縛し、残りの兵は水球に閉じ込められている将軍の周りを囲む。
「王よ、拘束を解いていただいても大丈夫です。私は抗いません」
将軍のその言葉とともに拘束魔法が解かれた。そして将軍は兵達に捕縛された。
「……ラディクト」
「裁きに掛けて下さい。お話しできることは全てお話しいたします」
王がそう言葉を掛けると、将軍は潔く審判を仰いだ。
そうして刺客達と将軍は投獄された。
「……っ、はぁ……終わったァ」
その一部始終を見届けると、王子は息を吐き、どさりと座り込んだ。さすがに疲労が溜まっていたようだ。司令塔としてずっと気を張っていたのもあって、やっと気が抜けたのだろう。
「大義でした。さすが私の息子です」
「母上も無事でよかった」
「ラディクトには一発お見舞いして差し上げました」
「はは、やると思った」
この王妃はなんというか……すごい圧だ。うむ、王子は母親似なのだろう。それでもその顔は誇らしげで、嬉しげに見えた。言葉通り褒めているのには間違いなさそうだ。
「ときに、そこな傭兵」
「はい?」
急に俺へ声を掛けられ、思わず肩をすくめた。
「おぬしは、今日から勇者である」
言葉を失った。俺はしばらく放心して思考が止まってしまった。




