(18)無属性魔法・気合い
ひとまず状況確認だ。王子とともに入室した俺は、室内を見渡した。
――本当にラディクト将軍がいた。しばらく会っていなかったが、本人で間違いない。
将軍はその剣を静かに相対する人物へ向けている。剣を向けられているのはドレスを纏った貴婦人だ。扇を構え、ものすごい威圧感を放っている。熱気すら感じる。これはもしかして魔技なのかもしれない。親父が身体能力を高めている時に似ている。
その貴婦人の後ろにいる中年の貴人が杖を掲げて泣きそうな顔をしている。杖を掲げている先に、魔法の水球に捕らえられている者たちがいる。共通して皆、肌と髪が白かった。まるでフィアのようだ。
神具と思わしきものの側にはヴェールを被った高貴そうな女性がいた。怯えたような顔をして俺達へ視線を向けている。その前にいる高貴そうな少年が石になったかのように固まっていた。
「……リベリオ王子、生きていらっしゃったのですね」
「ふざけるな! 父上たちをどうするつもりだ!」
把握した。王子の言葉から、中年の貴人は国王と推測できる。ということは、ここに揃っているのは王族ということだ。状況的にそうだとは思ったが。
……いや、なんだこの状況。俺は何故こんな場面に遭遇している?
「死んでいただきます。あなたにも」
将軍がそう言い放った瞬間、王子の拳が猛烈な勢いで繰り出された。指抜き手袋状だった籠手が瞬時に腕まで覆う籠手へ変化する。
「雷撃ッ!!」
技名とともに拳に雷が発生し、渾身の一撃となる。将軍は剣を両手で握り、受ける。何かに引火してしまうのではないかと思うほど大きな火花が散った。
王子の属性は雷、神言器は籠手。騎乗器は神言器ではなかった。それにしても技名を叫ぶのは必要なのだろうか。今まで技名を叫ぶ奴に出会ったことはない。
「ゼンッ、頼む」
王子は開始の合図もなく戦闘を始めた。先手必勝という鉄則があるのでそれはまあ正しいだろう。御託を並べる暇があったら手を動かすべきだ。
王子が将軍と対峙しながら、水球に閉じ込められている者達を指した。国王がそれを抑えているということは、将軍の手がかかった刺客なのだろう。と、いうことは俺にそれを抑えて欲しいということだ。国王に余裕がなさそうな所を見るに、おそらく魔法の維持が難しいということだ。
「姉上頼むッ!」
王子が姉上と呼ぶヴェールを被った女性……すなわち王女だ。王子の指示を受け、祈るような仕草をすると、ヴェールが淡く発光する。これはおそらく神言器なのだろう。魔法が発動すると、この部屋の空間が変異した。一気に空間が広がり、障害物が消える。
……これはやりやすくなって助かる。器物破損などをして後で賠償金を取られたら借金返済どころではなくなるからだ。
それとともに、俺は刺客たちの方へ駆け、水球の上から素手で殴打した。なるべく致命傷にならないように昏倒させるようにした。殺してしまったらこれもまた後で何かしらの責任問題になるかもしれない。そうなると困る。
刺客達を全て昏倒させると、ちょうど国王の魔法が解けた。維持の限界だったようで、杖を握り込んで膝をついた。
「ああ……っ、ありがとうございます……」
王女が涙ながらにそう感謝を述べたのが聞こえた。それを注視する間もなく、俺はそのまま将軍の方へ駆け、滑り込むように一撃を見舞った。当然のように剣で受けられた。何か見えない壁のようなもので勢いが減衰された感覚がある。
「……ゼン君、君か。何故」
「よく分からないが雇われました」
「そうか。君に恨みはないが……これも何かの因果。向かってくるなら容赦はしない」
「ああ」
短く言葉を交わした。俺達に因縁はない。だが将軍曰く因果はあるようだ。その実はよく分からないが、報酬が出る上に将軍と本気の手合わせができるのは確かだ。命懸けだが。
王子との打ち合わせで傾向と対策を聞いていた。
将軍の属性は理。神言器は盾。見えない盾を発動させる魔技を使う。それは「不視の盾」というらしい。大技として軍全体を守る魔法「軍神の盾」というものもあるらしいが、今回は使用しないと思われる。
それにしてもこの技名は王子が勝手に命名しているのではないだろうか。将軍の口から聞いたことはないし、今、口にしてもいない。
神言器の盾は小さくして腕に装着していることが殆どだそうだ。大きさは可変で、弓矢を防ぐ際などには大きくして使用するそうだが、一騎打ちになると基本、使わないらしい。魔技の方が取り回しがいいからだろう。
この不視の盾が厄介だという。聞く感じ俺もそう思った。
俺が剣を習った時に魔技については聞いていない。それを使わせる実力が俺になかったのもあるだろう。そうでなくとも、高い壁だと感じていた。単純な剣技だけでも敵うか分からない。なのに、こちらが認識することもできない防御技があるのだ。
「雷槍!!」
王子が遠隔で雷撃を飛ばす。無言で飛ばした方がバレなさそうだと思うのだが、気分の問題なのだろうか。
それはともかく。王子が遠隔攻撃を四方から発し、盾の発動をさせ、認知負荷を増やすという方針なのだ。あと、魔力の消耗も同時に狙う。俺もその勢いに乗り、連撃を浴びせる。一秒間に十度打ち込んだ。
「腕を上げたようだね?」
王子の雷撃を自動発動かのように盾で防ぎ、俺の連撃も一部を盾で防ぎながら、剣でも受ける。剣にも盾を纏わせていると思われる。勢いが減衰される。目が複数付いているのだろうかと思わせるほどの反応だ。
「嫌だけど親父と修行したので」
「そうか」
本音が出てしまった。親父の意味の分からない稽古は正直苦痛だったので、思わず口から出た。それに比べて、将軍の剣技は美しい。全てが機能的だ。盾の使いどころも完璧である。
将軍と撃ち合うと呼吸が合う感じがする。周りの色彩は失せ、ただ水が一滴落ちるかのような静けさに身を置いたような感覚になってきた。
「雷槍!!」
せっかく心地よい感覚を覚えてきたところで現実に引き戻されるようだ。謎の技名が響き我に返る。もう、俺は千発以上は叩き込んでいるはずだ。
喉の奥がからからと乾いてきた。おそらく、俺は疲労しているのだろう。だが、まだ決定打を繰り出せていない。それでも全く手応えがないわけではなかった。力の減衰が弱くなってきている。盾が薄くなってきたのを感じた。作戦は無駄ではなかった。
あと一つ、決め手が欲しい。俺も何か必殺技がいるのではないだろうか。
そういえば、王子は神言が聞こえないのに魔力を発生させて魔技や魔法を使えると聞いた。曰く「気合い」だそうだ。体力を魔力に変換させるのを思い描く。そしたら使えるという。
――それならば、もしかして
俺は剣を握りこみ、王子が行っているように体力を魔力に変換させる、と思い描いた。そして、親父が魔力を身体能力強化に使い、熱を発しているのも思い描いた。
「無属性魔法・気合い!」
王子が行っているのはおそらく「誓約」なのではと思い至った。なので、技名を口にしてみた。同じ神言が聞こえない者の行っていることなので、もしかしてこれで威力が増幅されるのではと思ったからだ。
「は!?」
王子の怪訝な声が聞こえたが、ドン、と全身が脈打つような感覚を覚えるとともに、体の全神経が覚醒したように感じた。




