↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/38

(17)獅子と竜

数刻前――


「閲覧室」にリベリオを除く王族が勢揃いしていた。

この部屋には英知の書を閲覧する書見台が設置されている。英知の書はこの書見台に固定されており、門外不出となっている。それと、魔力を奉納するための神具も設置されていた。王族の魔力は膨大である。それを活用するためもあるが、魔力の奉納量で英知の書の閲覧権が決まる。それは、王位継承権にも関わる事項である。


(本当は、戦争などというものなどは起こらなければいいのですが)


第一王女エレンディアが心痛を抱えながら魔力を奉納していた。


(これで白相の者たちの負荷が少しでも和らげば……)


戦争には戦闘魔具が導入されている。それに必要な魔力は兵各々の魔力の他に、外部から補充されるものを用いる。補充用の魔力は王城地下にある魔力炉から供給管を伝い、補給地へ流れる。


――その魔力はどのように生み出されているのか


(今も冷たい土に横たわっているのでしょう)


白相の者――そう呼ばれる者達が土の加護を受けながら魔力を生み出していた。彼らは特殊な出生により、神言の有無に関わらず魔力を生成できる。有事の際は召集され、国益として魔力生成に従事するのである。


エレンディアは、そんな白相の者たちの負荷を少しでも和らげるため、己の魔力を可能な限り奉納していた。

彼女は王位継承権第一位である。神言を多く受託し、それにより魔力を天より授かる。その魔力を慈悲により可能な限り奉納していた。次代の英知の書の閲覧権へ最も近付いている。

この国では王位継承権は英知の書の閲覧権と紐付いている。たとえ、王位を望んでいなかったとしても、拒否することは叶わない。


彼女は土の上に横たわり魔力を生成する白相の者たちへ直接労いをすることもあった。少しでも冷たさを和らげるために空魔法で彼らを取り巻く空間を温めたりもした。


(ラディクト……)


その際、ラディクトとよく相対していた。彼もまた、白相の者たちへの労いをよくしていた。直接言葉を掛け、励ます。王国の英雄が直接言葉を掛けるとあって、白相の者たちは誇らしげな顔をしていた。


(あなたがいるから大丈夫)


それはエレンディア自身の励みにもなっていた。

国益のため、白相の者たちの処遇を改めることはできない。それについて触れるのは禁忌かのように議題に上がることもなかった。誰もかも、直視することはなく。そして彼女も声を上げられない。

だけど、国を守り抜き、戦争がなくなれば彼らは苦しむことはなくなる。その未来を夢見て彼女は祈った。



「大丈夫か、大丈夫なのか」

「落ち着きなさい。王城の守りはラディクトが。戦場はリベリオが。我が国の盾、私の息子が負けるはずはないわ」


国王シゲジオラスが不安を露わにし、英知の書へ幾度も問いを立てる。その度に「問題はない、盤石である」と返る。そんなシゲジオラスへ王妃レパーダリアが圧のこもった声で叱咤した。


「ひぃん!」


そしてレパーダリアがシゲジオラスの尻を神言器の扇で叩く。


(父上は問いの立て方が間違っている。僕が問いを立てれば英知の書は本領を発揮するはずだ)


そんな光景を目にしながら、第三王子ロジウスは筆記具の形をした神言器を握りしめながら歯がゆさを感じていた。

彼は年若く、神言もさほど降りず、魔力の奉納量も少ないため発言権が殆どなかった。理属性であり、その能力は思考能力の加速だ。外から見ると、魔法や魔技が分かりにくく、力を低く見られている。挫折感や屈辱感を抱えつつも、国の行く末を見つめる視座への自信は誰よりもあった。


(戦場の状況くらい聞いたらどうなのか。今どうなっている? 具体的に、どのようになっているのか。そう聞くべきでは。大丈夫か、と漠然とした問いは役に立たない。欲しい答えが返ってくるにすぎない)


そう発言しようとして口をつぐむ。不安を紛らわせるように問いを立てる父へ、ある意味憐憫を感じていた。


(王の器とは残酷だ)


父は真面目だった。しきたりに従い、誰よりも勤勉に神言を納め、魔力を奉納していた。そして王となったのである。だが、父は人を導くという才に恵まれていない。覇気もない。先を見通す目もなく、深い思考もできない。


ロジウスはそう、父王を評価していた。


(姉上は優しすぎる)


白相の者たちへの慈悲により王位継承権が一位となっている姉にもロジウスは歯がゆさを感じていた。エレンディアは王位を望んでいない。だが、それを覆すことはできない。


(兄上は愚かだ)


今まさに戦場にいるリベリオに対してロジウスは憤りを感じている。真面目に神言を納め、魔力を奉納すれば王位継承権が第一位になる可能性があったのにそれを放棄したのだ。意味の分からない理由で神言を拒否し、壁に頭を打ち付けるなど狂人かのような振る舞いもしていた。だけど、人を導く才に恵まれている。覇気がある。目の前の課題を即解決できる。


――それは王の器だった


それなのに、王位継承権には興味がないという。軍事に興味があるといい、戦場へ征くことを好んでいた。

リベリオはロジウスに対し、エレンディアを支えるように、と言った。それが、ロジウスの世の中ままならないという思いを加速させた。



そんな思考を巡らせるしかできることはなく、彼がそう耽っていると部屋の扉が開いたことに気付く。


「ラディクト、首尾の方はどうだ!?」


扉を叩くこともなくラディクトが入室してきた。その姿を目にし、シゲジオラスが縋るように戦局を聞く。


「……問題ありません。私の計画は順調です」

「そうか」


ラディクトの回答にシゲジオラスは安堵を見せる。


「ここで王族のあなた方に死んでいただく計画は――」


冷たい宣告。向けられる剣。彼の背後から数人の兵が現れ侵入してきた。その者たちは皆、白相であった。そして扉が閉じられる。


「な、何を。じょ、冗談であろう?」

「冗談ではありません。この者たち、その同胞たちに安寧をもたらします」


地へ沈むような重い声での宣誓がなされる。その瞳に影が差しているかのようであった。


シゲジオラスが背中に冷たい汗を流し、足が竦むとともに、猛烈な勢いの火球がラディクトへ向け飛ばされた。ラディクトはそれを何の動作もすることなく魔技で弾いた。


「謀反ですね、ラディクト。許されません」


レパーダリアが威圧感を込め、そう宣言する。この威圧感は魔技により増幅されている。彼女の属性は火。火球は炎魔法であった。


「王よ、あの者達を拘束なさい」

「は、はいぃ」


シゲジオラスはレパーダリアの指示を受け、神言器の杖を掲げ、水球を発生させ白相の者たちへ向けた。彼の属性は水。これは水球牢獄という魔法である。拘束魔法の一種だ。


「に、人数が多い」

「耐えなさい」


水球で白相の者たちを捕らえたが、人数が多いため効果が落ちる。すぐに解かれそうな勢いであった。


シゲジオラスが白相の者たちを捕らえている間に、レパーダリアがラディクトと対峙した。

神言器の扇から火球を連発し、ラディクトへ浴びせる。その所作はまるで舞いのようである。そして、ドレスの裾が大きく翻り、鋼鉄の踵がラディクトへ振り下ろされ、火花が散る。

炎は見えない魔技の盾で弾かれ、鋼鉄の踵による蹴りは剣で弾かれた。


「謀反者には鉄槌を」


威圧を魔力で最大限に増幅させ、屈服させんという意思を浴びせるが、ラディクトの佇まいは変わることがなかった。



その様子を目にし、エレンディアはかたかたと震えていた。


――これが国を背負うということ


ラディクトの裏切りによる絶望、命の危機、王族としての責任、それらが押し寄せ、血の気が引いた。



(……交渉するべきか)


ロジウスはこの状況を目の当たりにし、ラディクトの要求を聞き、交渉を以て危機を脱することができないか思索した。だが、言葉が出ない。冷静な思考とは裏腹に、無意識の恐怖が体を封じ込めていた。



(誰か、誰か……助けてください。私は愚かです。何もできない、ただ祈ることしかできない女)


エレンディアの瞳からはらりと涙が落ちる。このような状況に至るまで何かできることがあったかもしれない。ラディクトの思いを慮ればこうなるに至った原因は思い当たる。自分も同じ思いだったのだから。



「ラディクトォ! お前……!」


――助けが来た


その扉が開かれ、現れたのは獅子のように咆哮する弟と、竜の鱗の鎧を纏った頑強なる剣士であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。