(16)因縁
「フィアを頼む」
「ああ。なんかえらいことになったな」
俺は転移器のそばにいたニキへフィアを託した。
「転移器に騎乗器は乗らないか」
「物理的に無理だと思います。はみ出ますよ」
ニキが王子へそう説明していた。転移器は人三人分乗るのが限度の大きさの正方形状である。騎乗器は馬くらいの大きさのため、長辺がはみ出る。
「ってか、お前誰だ」
「一般工作兵です。これ直しておきました」
「そ、そうか。ご苦労」
ニキが転移器を修理したことを王子に告げていた。王子は不可解そうな顔をして労った。転移器というものを直すのが非常識なのか、魔具を直すこと自体が非常識なのか分からない。そんな雰囲気を感じたのだ。それにしても、工作隊とは何をする部隊なのかは聞いていない。
「魔力足りるのか? 三人一気に行けるのか?」
「そちらの方が来た分で結構使ったっぽいです」
「オレらで補填しなきゃダメか?」
王子を呼びに来たという少女と、王子、そして俺。この三人が転移器に乗った。そしてニキが必要魔力について王子へ説明する。少女がここに来た分で結構使ったらしい。どうやら補填する必要がありそうだ。
「お前、魔力は足りてるか?」
「ないです」
「そうか……。使い切ったのか? オレは神言が聞こえねーからそんなになくて温存しないとならないんだよな」
王子が俺に魔力の有無を聞いてきた。俺に魔力は元々ない。そして聞き捨てならない台詞を聞いた。俺の他に神言が聞こえない者がいるとは。非常に気になる。だが、ここでそれを長々と追求するわけにもいかないだろう。
「わたしが充填します! 王子はラディクト将軍との対決のために温存してください」
少女がそう申し出た。そして、ラディクト将軍との対決と聞き、改めて尋常ではない事態だと思わされる。あの、王国の盾と称された英雄が謀反を起こすなど、一体どういう理由があるのだろうか。それが分からぬまま俺は対峙しなくてはならないことになる。
「オレも入れときます」
「私も……」
ニキとフィアが魔力を充填すると申し出た。
「大丈夫か?」
「魔力自体は残ってます。むしろ溢れてるくらい。ちょっと魔力酔いしただけかもしれないです。あとは休みますので」
「分かった。じゃあよろしく頼む。あとは休んでろ」
「はい」
俺は、体に力が入らずくたりとしているフィアへ大丈夫なのか聞くと、そう返ってきた。それならばと、頼むことにした。
「……行ってらっしゃい!」
「行ってこいっ!」
「行きます!」
二人が外から魔力を込め、俺達を送り出す。三つ目の声を上げた少女も魔力を込め、転移器を起動させた。
「オレはリベリオ。お前は……ゼンと言ったな?」
「はい」
転移先はどこかの地下通路だった。おそらく、王城へ繋がっているのだろう。この転移器は戦場と王城の連絡用なのだろうか。通路を駆けながら軽い自己紹介などをする。この王子は目聡い。俺の名前を把握していた。フィアとの会話で聞いたのを覚えていたようだ。
「わたしはルルカと申します、ゼンさんよろしく!」
「よろしく」
少女がそう名乗った。
(……?)
一瞬、くらりと目眩がした。頭の中を何かの歪んだ映像が流れ支配し、視界が歪む。そしてすぐに視界が戻る。
「オレがお前を連れて来たのは相当強いと見たからだ。ラディクトはオレの師であり越えられない壁だ。二人がかりでもやれるか分からん。お前に因縁はないと思うが、報酬ははずむ。とりあえず傭兵として雇われてくれ」
「仕事として対決、了解です。そして俺も将軍から剣を習ったことがあります」
「なんだと」
「とりあえず、傾向と対策を」
「分かった」
王子だから騎士団長であるラディクト将軍を師として鍛錬をしてきた、という背景情報を把握した。俺も将軍から剣を習ったことがあると情報を開示した。それにより、連携を組むための作戦が練りやすくなると思った。情報をやり取りする時間は貴重だ。なので俺と将軍がどのような関係かの説明は後回しである。
俺は傭兵として将軍を抑える。突然でかい仕事が舞い込んだというわけだ。
それにしてもルルカという少女は何者なのだろう。王子と親しげである。王族なのだろうか。あの首飾りの水晶はおそらく神言器なのだろう。虹色に発光している。なんらかの魔法が発動しているのだろうか。
彼女から名前を聞いた瞬間、変な感覚に見舞われた。俺は疲れているのだろうか。
そして王城に辿り着き、城内を駆け抜け、危機が訪れている場所へ向かっていった。
「ラディクトォ! お前……!」
「閲覧室」と札がかかった部屋の重厚な扉を開け、開口一番、王子は怒号を上げた。
「……リベリオ王子、生きていらっしゃったのですね」
そこにいたのは紛れもなくラディクト将軍その人であった――




