(15)邂逅
開戦の火蓋を切ったリベリオは、それとともに突然最前列から生えた土の櫓を目にして慄いた。
「は!?」
慄いたのはリベリオのみではない。前線の兵は皆、おののき動きが止まる。
「行け! 怯むな! これは我が陣営の策だ!!」
リベリオ自身も状況を飲み込めなかったが、兵の勢いを止めぬよう指示を飛ばした。兵を前線に送り込みながらも、この状況について頭を巡らせた。そうしているうちに、櫓は坂道に変わり、そこを猛烈な勢いで駆ける者を視認した。
(長剣を持つ、大男……)
それに気付いた瞬間、彼は勢いよく身を傾ける。
「!?」
傾けた瞬間、顔の横を何かが後ろから横切った。それが敵ゴブリンに刺さり、ゴブリンが倒れる。
「後方より刺客あり! 捕らえよ!」
飛来物は自陣から発せられた。リベリオは瞬間的にそれを理解し、側近に指示する。自陣から発せられたということは、内部からの刺客であると推測できる。だが、それが一体どこの陣営からのものなのか、どのような目的で、という推測は後回しにした。
(これが神託……)
ルルカの神託の通り行動したら、暗殺を回避できた。やたらに具体的な指示だったが、その通りに行動したら彼の命が助かったのである。神託は原則として公益に関するものとなる。彼の命が助かる、ということが公益となるということだ。
長剣を手にした大男、というのは機を計る印であった。この男が直接彼へ何かをするということではなかった。
(っていうか、あいつ、なんなんだ)
己の危機を回避し、再び戦場の状況を把握しようとするリベリオはその大男を目で追った。
(オレがやろうと思ってたことやりやがる……)
リベリオは騎乗器で駆け、飛び上がり、速攻で指揮官級を潰し、そこへ兵を雪崩れ込ませて突破口としようとしていた。
この時のために、騎乗器へ一週間ほどかけて魔力を充填していたのである。彼は神言が聞こえず奉納できないため、魔力を天から受けることができない。だが、体力を魔力に変える、という意識で神言器を扱ったらできたのである。本人曰く「気合い」だ。魔具への魔力充填も同様に行っている。
(チッ、この時のために貯めといたのによ)
リベリオは、これほどまでに苦労して魔力を充填したというのに、魔道によりたやすく天変地異規模で地形を変えながら猛進する者を目にし、苦い顔をした。
(……報告に上がってたな。白相の精契者)
徴兵検査で要注意項目として報告に上がっていた者だ。まさか精契者が前線希望で志願してくるとは、と議題に上がっていた。宮廷内で昔、精霊との契約を試みた者がいたが、失敗に終わったという。精契者というものは、もはや伝説級の存在となっていた。
(あれは戦場の概念が変わっちまうだろ)
地形を変え、戦局を動かす。戦場において地形を変えられれば、戦略が根底から変わってしまう。
(精契者と長剣の大男が組んでいるのか。そっちもなんなんだよ。あいつはなんなんだ)
精契者も大概だが、地形を弄る魔道で猛進し、指揮官級を各個撃破しているのはその大男なのである。
(精契者と一緒に報告に上がってたな。無属性とかいう男。あの長剣を神言器とか言い張って理属性と言い直してたって聞いたけど……。そいつか)
「王子! 刺客を捕らえました!」
「ご苦労」
リベリオは進軍指示を各隊の隊長へ出すよう指示し、本陣に戻った。そして、刺客を捕縛したという報せを受けた。
「白相の者……」
刺客の姿を目にしたリベリオはそう呟いた。そして、推測を巡らせようとしたが、もう一つ報告が入る。
「急報! 魔王軍総指揮官とみられるドラゴンが我が軍の兵により撃破されました!」
「は!?」
異常事態である。刺客の尋問は部下に任せることにした。推測も後回しである。戦局の把握が最優先だ。
(あいつか!? あいつらか!?)
リベリオは騎乗器に乗り、前線の様子を確認しにいく。そして、地中から少女を抱えた大男が飛び出してきたのを目撃した。
(地面から出てきたーーーーー!?)
大男は大量の返り血を浴びた様子であった。本人が傷を負った様子ではない。ドラゴンを屠ったというのであれば、納得できる姿だ。
そして、大男は補給所の方へ向かう。
「フィア、あそこが補給所のようだ。たぶんそこにニキがいるだろう」
「ゼン、ありがとう」
「おい、そこのお前ら!」
「はい?」
リベリオが補給所へ向かうゼンとフィアを呼び止めた。
「ドラゴンを倒したのはお前らか?」
「そうだが」
「……ゼン、この方は」
フィアがゼンに耳打ちし、地面に降り、ゼンの肩を叩いて合図する。ゼンは目を見開いて固まり、膝を折る。フィアも膝を折り、畏まる。フィアはリベリオの騎乗器と身なりから彼が王子であると判断した。檄の時に顔までは分からなかったが、その条件で判断したのだ。
「あ、いや、畏まらなくていい。ただ聞きたかっただけだ」
「……王子。私たちが敵軍総司令官のドラゴンを討ちました」
「こいつの言う通りです。持ち帰れないから敵本陣に置き去りにしてきました」
……それは聞いてない。リベリオはそう思った。討ったドラゴンを持ち帰れという指示はいくらなんでもしない。
「こいつを補給所へ下げて休ませたいがいいでしょうか。身内がそこにいますので」
「あ、ああ。向かいながら色々聞きたいことがある」
「はい」
ゼンは再びフィアを抱きかかえる。そして三人で補給所へ向かう。
「王子! 至急補給所までお願いします!」
リベリオが質問を口にしようとしたところ、伝令が彼の下へ走ってきた。そして急いで向かう。ゼンもつられて走る。
(は?)
騎乗器の速度に負けず走ってついてくるゼンの様子を目にし、リベリオは驚愕した。この速度で戦場を駆け指揮官級を各個撃破していったのだと知らしめられた。
「王子……!」
「ルルカ……! 何故ここに!?」
補給所に着いたリベリオが目にしたのは本来ここにいるはずのないルルカの姿だった。
「今すぐ、急いで、王宮まで、王家の方々を助けてください!」
「え!?」
「この戦は陽動です……! 本命は王家の方々の命!」
「いや、王宮の守りはラディクトが……」
「……ラディクト将軍が、黒幕です……!」
「!?」
ルルカの瞳と神言器の水晶が虹色に光っている。リベリオは神託の効果を身を以て知っていたのと、思い当たることがあったので、一瞬でそれを飲み込んだ。
「転移器が稼働するようになっています! 行きましょう!!」
「分かった」
そしてリベリオはゼンの腕を掴み引き寄せる。
「お前も来い。王命だ」
王位継承権もない身であるが、リベリオは迫真の勢いであえてそう命じた。
「行きます」
ゼンは即答した。ある名前に反応し、解き明かしたい謎が生まれたからである。
――ラディクト
それは彼の師の名だった。




