(14)屁を漏らすおっさんは仕事ができない
工作隊に配置されたニキは、魔力供給管を使用し、戦闘用魔具に魔力を充填する作業の担当になった。
(楽そうでいいな)
魔力供給管は地中から供給口が出ており、どこかの供給元と繋がっている。ここは大規模戦闘に適した平野のため、補給地として最適なこの場所に設置されているというわけだ。
(おぉ、始まるな。ってかアレなんだ? 魔具か? えれぇもん乗るなおえらいさんは)
ニキは開戦の檄を飛ばしに行く王子リベリオの姿を後方から目にしていた。騎乗器に乗り爆速で砂煙を上げていくその様子を興味深く思った。総司令官として後方から全体を俯瞰していたリベリオは、そうして前列中央へ移動していたのである。
そしてリベリオにより開戦の火蓋が切られた。とともに、突如最前列から土の櫓が怒濤の勢いで生えた。
(あいつらか、やりやがったな)
ニキはそれをゼンとフィアの仕業だと思った。そんなことができるのは彼らしかいないとも。二人で話し合い、なんらかの作戦を実行する様子であったが、そこからどうするのかとニキは思った。
(しばらくオレはヒマだからな……)
戦闘が激化し、兵が使用する魔具の魔力が空になるまで補給係の仕事はない。ゼンとフィアの行方を目で追おうかとニキは思ったが、ふとこの場に違和感を感じた。
(な~んか、変な感じするんだよな)
供給管の根元へ足を置いているが、安全靴として履いているドラゴンの皮製の長靴がきゅ、と締まる感覚があった。思い立って首から提げている双眼器の魔具を装着し、供給管の根元を注視した。
そして彼は以前降りてきた神言を思い出す。
「屁を漏らすおっさんは仕事ができない」
それを思い出したニキはふ、と鼻から笑いを漏らした。
「……おっさんのケツの穴、塞いでやらなきゃならんな」
――ここから彼の仕事が始まる。
「おいこら、平民工作兵! 勝手に何をする! そして煙草を吸うな!」
ニキが作業を開始すると、上官の工作兵が怒号を飛ばす。
「あ~~、魔力漏れッス。だから塞いでるッス」
「は!? 何言ってんだ、お前の仕事は魔力補充だろ」
「これ、見ます?」
ニキは双眼器を上官の目に当て、それ越しに足元を見るよう促した。
「……あ!? なんだこれは」
「魔力を目に見えるようにする魔具っす。すごくないです? 供給管からクソほど漏れてますよ」
「そんなもんがあるのか、オモチャじゃないだろうな、平民風情が」
「まあ、これ見て下さいよ」
上官が疑いの目を向けると、ニキは足元に対流した魔力へ神言器から微量の電流を流す。
「グワッ!」
上官が慄く。ニキが流した電流が大きな火花となった。対流した魔力を引火させたのである。火花が広がらないようにニキは即、それを安全靴で踏んで抑えた。
「どうすか?」
「な、なんてことだ」
「なので、直しておきま~す」
片手を軽く上げ、ニキはそう宣言した。
「できるのか? そんなこと」
「いつも義手義足とか直してますし、こっちのほうが簡単っすね」
「はぁ、そうか……」
義手義足の魔具は複雑な機構であることが有名だ。それに、王都では故障した魔具は廃棄するのが一般的となっている。魔具を修理するという概念すら一般的ではない。
「とりあえずやってみろ。壊したり変なことをしたら斬首だぞ」
「ヤバっ」
上官のその言葉にニキは苦い顔をしたが、許可が出たと捉えた。
(ミスったら首切られるかもしれねーけど、気になるんだよな~……)
死にたくないから工作隊を希望したのに、間違えた修理をすれば斬首という事態になった。それでも彼は目の前に壊れた魔具があれば直さずにはいられない。見たことのない魔具へ手を入れられることに昂ぶった。
(あいつみてぇなことしてんなオレ。いやぁ、オレはあいつみたいなかしこバカじゃねえし)
知への欲求に溢れるゼンのことを思い、ニキは自分も似たような心を持つのでは、と思った。だが、自分はゼンよりは命知らずではないし、力技で通すわけでもない。そう思いながらも昂ぶっている自分に面白さを感じた。
「いっちょあがり!」
一本目の供給管の修理が終わった。
「ほう?」
上官の監視の下、修理を終えた。そしてちょうど送られてきた魔力切れの戦闘魔具を上官に渡す。
「試してみてくださいよ」
「む……」
そして上官は戦闘魔具へ魔力を注入してみた。
「……お!?」
「どうすか?」
一瞬で注入が完了した。
「こんな……すぐに……」
「今までどんだけかかってたんすか」
「その煙草が吸い終わるくらいの時間か」
ニキは吸い終わった煙草をドラゴンの皮製手袋をはめた手で揉み、物入れへしまった。そして一息つく。
「じゃあ、全部直していきますよ」
「あ、ああ。頼むぞ」
そうしてニキは補給地に設置されていた供給管を全て修理していくのであった。
(それにしても、この魔力どこからどうやって来るんだ?)
修理しながら魔力の供給源について疑問に思った。
(あのおっさん屁こいたな)
そして、上官が音を立てず屁を漏らしていたことに気付いていた。煙草を近づけて引火させようかと一瞬思ったが、本当に首を切られそうなので止めた。
「なんすかこれ」
「ああ、これは転移器だ」
「へぇ~……」
ニキは供給管の修理を全て終えた。その先にあった大きめの床上の魔具が目につく。それが何なのか上官に尋ねた。そして、双眼器でそれを注視し、点検を始めた。
「おい、お前。また勝手に」
「また壊れてるもの置いてるんすか? 意味あるんすかこれ」
「緊急連絡用だ。王都に繋がっている。発動したのを見たことはない。我が軍が勝利するので危機などないから、発動せずとも問題はないだろう」
軍部の驕りがすごい、とニキは思った。そして設備が形骸化しているのだと感じた。
「おい、それは! 勝手に弄るな! 王家から管理を任されている非常に貴重な……」
「貴重なのに壊れてるんすか」
「う……」
これでほぼ許可を取ったようなものだと思い、ニキは新たな未知の魔具を目にし、口角を大きく上げた。
「やっべ、すげえこれ」
「お前、楽しんでるな、何しに来た……」
そして修理が完了する。ニキが試しに魔力を流してみると淡く発光するので、使用可能状態になることを確認した。
「直りました、たぶん」
「光ったの初めて見たな……」
使用可能状態を見たことがなかった上官は、初めてのその状態を目にし、感心した。
「……ん? ……あっ!?」
「んおっ!?」
「お前、完全起動させたか!?」
「してないっす」
突如、転移器が強く発光し出した。ニキは試しただけで完全起動はさせていない。上官とともに慄いた。そして何者かの影がそこに浮かぶ。そして光が失せ、転移が完了した。どこからか転移してきた者が現れたのである。
「……、王子、王子は!? リベリオ王子はどこにいらっしゃいますか!?」
そこに現れたのは虹色に光る水晶の首飾りを身につけた少女であった。




