(13)ドラゴン・スレイヤー
拳より一回り大きな石と火球が俺に向かって飛来する。まるで俺の周りにだけ雨が降るかのようだ。
それを俺は無言でひたすら打ち返した。目の前に来たものに関しては全部だ。軌道が単純なので打ちやすい。親父の変な炎魔法よりは対処しやすい。
俺が打ち返した石は空中のインプ達を撃ち落とし、火球は投石器へ当たり燃える。コボルト達が慌てふためいてぐるぐる回り出した。
「道よ開け!」
俺に向かって飛来するものが止むとともに、フィアが土壁の道を俺の前に作り、ともにその道を駆けた。
「見えました!」
「ああ!」
「いけそうですか!?」
「やれる」
「じゃあ、行きます」
いよいよ敵陣最奥まで到達する。そこには初手で確認した通り、総指揮を担っていると思われるドラゴンが鎮座していた。知恵の魔物というわけだ。その前には護衛のサラマンダーが数体いる。ドラゴンに護衛が必要なのか疑問だが、定石として総司令官の護衛は付き物なのだろう。
ドラゴン達は当然、真正面から向かってくる俺達に気付き、炎を一斉に吐き出す。サラマンダーも大概大物で報酬は高そうなのだが、ここまで来たら大将一本狙いである。相手にしない。
「じゃあな!」
炎が俺達を焼く……と思われる地点で俺達はその場から消失した。
フィアが地に穴を開け、俺達はともにその中へ落ちる。俺が先に地へ降り、フィアを片手で受け止め下ろす。フィアは両手で顔を覆い、一呼吸つくと、手を前にかざし衝撃波を放ったがごとく、土の道を貫通させた。ドン、と地殻変動が起こったかのような音が響いた。
「行くぞ!」
地中の道ができるとともに俺は速攻で駆けた。そして行き止まったところで、フィアが再び魔法を発動し、土の天井を上げながら俺の足元も上げる。流れるような早さでこれを為した。土の天井が消失し、空が見える。そして、土の柱に打ち上げられた俺は天高く放られる。
サラマンダー隊を通り越し、ドラゴンの背後に出たというわけだ。
ドラゴンの背後、そして高く、頭上に。
俺は物理法則を無視した重量の剣を構え、ドラゴンの頭上に下ろす。そして落下の慣性に加え、フィアが放った魔道の大岩を背負い、俺は歯を食いしばりながらドラゴンを圧で断ち斬っていった。ぎりぎりと奥歯が擦れる音を感じる。
「う、ぐ……、ぅぅ!!」
声にならない呻きを漏らしながら耐え、最後まで断ち斬った。剣峰が地面へ到達し割るとともに魔道の岩は霧散する。
断末魔を上げることもできなかったドラゴンの血が花火のように散った。自前のドラゴンの皮と鱗でできた鎧にそれが付着した。
(このドラゴンは放置しなきゃならないのが惜しい)
俺は魔重鉄鋼剣の試し斬りついでに、村の外でちょっとしたドラゴン(人二人分くらいの大きさ)を退治したことがある。その皮と鱗で今装着している鎧をニキに作ってもらった。対価は一瓶分の酒だ。ドラゴンの肉は村へ分配しなくてもいいので蛋白源として食ってもいる。無駄がなくていい。
このドラゴンは今までにない大きさなので、かなりの量の素材と肉が採れそうだと思った。
「やりました!?」
「やった!」
素材・食材としてドラゴンを惜しく思いつつも、元来た穴へ戻り降り、フィアの呼び掛けに応える。
「帰るぞ!! 終わりだ!」
「はい!」
俺の合図とともにフィアは穴を閉じる。俺は剣を剣帯へ括り背負い、フィアを両手で抱える。
「速攻で戻る!」
「は……っ、はいっ」
血塗れのまま抱えるのは気が引けたが、俺が走りこいつが魔法に集中した方が早いと思った。フィアは手で口を押さえ、呼吸を整えると、手をかざし、またしても衝撃波を放ったかのような勢いで、土の道を生成した。俺もその波動に乗るように駆けた。土の道が駆け、俺も駆ける。
「はわ……、ゼン……、あっ」
「なんだ?」
「な、んでもありません」
魔道を発動しながらもフィアはちらと俺を見上げ、再び集中する。心なしかこいつの身体が熱を持ったように感じた。
「よし、本陣まで戻ったな」
「はい」
地下の土の道は開戦当初にいた本陣まで走った。俺達は地上に戻り、無事に帰還したわけである。
「あとは適当に雑魚狩りして報酬額を上げることにしよう」
「そ、うです、ね」
「ん?」
フィアは満ち足りたような顔をしているが、身体に力が入らなくなったようだ。その身がくたりとしている。
「……さすがに疲れたか。疲れただろ? 工作隊の方に行くか。ニキに預かってもらおう」
「は……、あ、すい、ません」
そうして俺達は工作隊の方へ向かった。
そして、そこで思いもかけない邂逅をすることとなる――




