いつもの雑談配信
「こんばんは、黒瀬旭です」
『待ってました!』
『釈明配信きたw』
『今回は何をやらかしたんですか?』
「俺が何かやらかした前提で話すのをやめてもらえる?」
俺はコメント欄を見ながら、早々にため息を吐いた。
今日はいつもの雑談配信とは違う。隣にはセナも座っている。先日のダンジョン探索で起きたことについて、説明できる範囲で話しておこうということになったのだ。
「まず、今回遭遇した二体の魔物について説明しておく。炎の魔犬ガルムと、氷の魔狼フェンリル。配信を見ていた人なら分かると思うけど、どちらも浅層で遭遇するような相手じゃない」
『名前ついてるんだ』
『炎の犬と氷の狼か』
『属性からして相性悪そうなのに、普通に連携してたよな』
「そう。ガルムは炎を使った突進や近接攻撃が主体で、フェンリルは床を凍らせたり、氷柱を作ったりして、こっちの動きを制限してくる」
俺は、戦闘中の映像を思い出しながら説明を続けた。
「特に厄介だったのが、二体の連携だ。ガルムが攻撃してくるだけなら、こっちも避ければいい。でも、避けた先の足場をフェンリルが凍らせてくる。俺がブースターで逃げようとしたら、今度は着地する場所に氷柱を生やしてきた」
『あの氷柱、マジで危なかったな』
『着地地点を狙われてたのか』
『逃げ道を潰してから攻めてくるの、嫌すぎる』
『コンビネーションが完全に対人戦なんよ』
「実際、俺の動きを読まれていたと思う。少なくとも、ただ目の前の相手に反応しているだけの動きには見えなかった」
あのとき、セナに指摘されるまで、俺はブースターによる移動を繰り返していた。
フェンリルはそこを狙い、着地点を先回りして潰してきた。ガルムも、俺が体勢を崩した直後に追撃している。
偶然で片づけるには、連携ができすぎていた。
「協会も、今回の魔物について調査している。どうして浅層に出現したのか、最初からああいう連携を取る魔物だったのか、それとも何か別の要因があるのか。今のところ、はっきりしたことは分かっていない」
『浅層にオーガが出た件とも関係ある?』
「それも分からない。ただ、通常の出現傾向から外れた魔物が確認されているのは事実だ。今回みたいに、明らかに手強い相手が出てくる可能性もある。だから、今後の探索も慎重に進めることになると思う」
『しばらく浅層も安全じゃないってことか』
『これ、探索者協会も大変そうだな』
「そうだな。俺たちも、今まで以上に警戒して進むつもりだ」
『黒瀬さん、今回は何の武器使ってたの?』
「イグニスとグラキエス。炎と氷を扱う武装だな。詳しい仕組みは、まだ検証している最中だから、今の段階では説明できることが少ない」
『なんか名前がかっこいい』
『前から使えたの?』
「いや、使えるようになったのは最近だ。まだ使いこなせているとは言えないし、使ったときに身体にどういう影響があるのかも調べているところだよ」
俺が説明を続けていると、隣のセナが小さく手を挙げた。
「じゃあ、私からも説明しておくね。今回使ったのは、特殊な試作兵装なの。まだ試験運用の段階だから、詳しい仕組みについては話せないけど、通常の装備とは違って、身体能力や防御力を強化できるものなんだ」
『セナちゃん変身してたよね?』
『白とピンクの装甲だった』
『あれ変身中は完全に魔法少女じゃんw』
「魔法少女ではないよ?」
セナは不思議そうに首を傾げた。
「試作兵装だからね。ああいう形になっているだけだよ」
『本人が全く気にしてないw』
『黒瀬さん、何か言いたそう』
「いや……」
俺は言葉に詰まった。
別に、セナの姿が悪いと言いたいわけではない。実際、あのMAは戦闘でかなり役に立っていた。
ガルムの攻撃を受け止め、神代への突進を阻止したのもセナだ。あの援護がなければ、神代が危険にさらされていた可能性もある。
ただ、あの変身演出と必殺技の組み合わせは、どうしても気になる。
『ところで、必殺技の名前は?』
「ハートビームだよ」
「セナ、そこはもう少し考えて答えてくれてもいいんじゃないか?」
「え? 聞かれたから答えただけだけど?」
『ハートビームwww』
『堂々と言い切ったw』
『黒瀬さんが困ってるぞw』
「いや、違うんだ。技そのものはすごいんだよ? 実際、ガルムを吹き飛ばすくらいの威力はあったんだから」
「そうだよ。正式名称は高出力収束放射機能だけど、それだと長いから、ハートビームって呼んでるの」
『自分で名付けたのかwww』
『正式名称より短いからって、その名前になる?』
「分かりやすいでしょ?」
「分かりやすいけどさあ!」
俺は思わず声を上げた。
隣では、セナが本当に不思議そうな顔をしている。
神代がこの場にいたら、きっと「威力が十分なら問題ないわ」とでも言うのだろう。あいつは、名前よりも実用性を気にする。
……いや、俺がおかしいのか?
『黒瀬さんも何か必殺技の名前つけようぜ』
「やめろ!」
俺は即答した。
「俺の武装は、必要な機能を使っているだけだからな。無理に名前をつける必要はないだろ」
「でも、イグニスもグラキエスも名前があるよね?」
「それは武装の名前だから!」
『言い訳が苦しいw』
『黒瀬さんも必殺技名つけよう』
『ブラックフレイム!』
『ダークネスブレード!』
「お前ら、勝手に決めるな!」
コメント欄が、またしても騒がしくなった。
俺は頭を抱えたくなったが、隣のセナは楽しそうに笑っている。
「私は、名前があったほうが使いやすいと思うけどな」
「セナはもうハートビームでいいだろ!」
「うん。じゃあ、これからもそう呼ぶね」
「そういう意味じゃない!」
『完全に定着したw』
『今後もハートビーム確定』
『黒瀬さんの敗北である』
「……もういいです」
俺は深いため息を吐いた。
戦闘中は、こいつらの連携に殺されかけた。
ガルムの攻撃を避けようとすればフェンリルに足場を奪われ、フェンリルに対処しようとすればガルムが追撃してくる。自分の動きを読まれたうえ、逃げ場まで潰されるというのは、想像以上に厄介だった。
セナと神代の援護がなければ、どうなっていたか分からない。
その戦闘について説明するために配信を開いたはずなのに、今は必殺技の名前で盛り上がっている。
……いつものことか。
「とにかく、今回の戦闘では三人で連携できたから勝てた。俺一人では危なかったし、セナのMAも神代の援護も重要だった。特に、あの二体はそれぞれの能力を組み合わせて、こっちの動きを封じてきた。次に同じような相手と遭遇しても、今回と同じやり方で勝てるとは限らないと思う」
『二体で役割分担してたのが厄介だったんだな』
『火力だけじゃなくて戦い方が嫌らしい』
『こういう敵はソロだときつそう』
『三人とも無事でよかった』
「俺たちもそう思っている。だから、無理をせずに探索を続けていくつもりだ」
『了解。無理はするなよ』
『次も連携プレイ期待してる』
『ハートビームの次回使用待ってます』
「最後のコメントは忘れろ!」
俺の叫びとともに、コメント欄が再び笑いで埋まった。
こうして、今回の釈明配信は無事に終了した。
……いや、無事だったのは配信だけかもしれない。




