↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元Sランクの俺、今は底辺ダンジョン配信者ですが、三年前の事故現場に戻ったら突き落とされ、最強の力に目覚めました  作者: 水源


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/36

配信終了後の反省会

配信を終了した俺は、机に突っ伏して深々とため息を吐いた。


「……疲れた」


「お疲れさま、旭!」


「セナは元気だな……」


 隣を見ると、セナは満足そうな顔をしている。


 今回の配信は、ガルムとフェンリルについて説明するために開いたはずだった。


 ところが、終わってみればハートビームの話ばかりが盛り上がり、挙げ句の果てには俺まで必殺技の名前をつけろと言われる始末。


 どうしてこうなった。


「ねえ、旭。みんな、ハートビームを気に入ってくれたみたいだね」


「それは分かったから、あんまり広めないでくれ」


「でも、分かりやすい名前だと思わない?」


「名前だけの問題じゃないんだよ!」


「え?」


 セナが不思議そうに首を傾げる。


 いや、確かに分かりやすい名前ではある。問題は、名前だけではなかった。


 俺は先日の戦闘映像を思い出す。


 セナがMAの腕を構え、攻撃態勢に入る。


 その瞬間、装甲の一部が淡いピンク色に輝いた。


 そして放たれたのは、輪郭まではっきりとした巨大なピンク色のハート型ビームだった。


 それがガルムに直撃し、巨体を勢いよく吹き飛ばしたのだ。


 ……何度思い返しても、見た目と威力のギャップがおかしい。


「まあ、いいか。それより、ちょっと戦闘映像を見直そう」


「うん!」


 俺は端末を操作して、先日の戦闘映像を呼び出した。


 目的は、配信で説明しきれなかった部分を確認することだ。


 ガルムとフェンリルの連携は、改めて見ても厄介だった。


 ガルムが正面から攻め、フェンリルが足場や逃げ道を奪う。俺がブースターで距離を取ろうとすれば、フェンリルが着地点を潰し、俺が体勢を崩したところにガルムが追撃してくる。


 ただ強いだけの魔物なら、相手の攻撃を見極めて対処すればいい。


 しかし、あの二体は違った。


 片方の攻撃に対処している間に、もう片方がこちらの選択肢を減らしてくる。


「やっぱり、ここだな……」


 俺は映像を一時停止した。


 ブースターを使って、ガルムの突進を避けた場面だ。


 その直後、フェンリルが俺の着地点に氷柱を生やしている。


 俺が着地する位置を予測していたのか、それともブースターの移動先を見てから対応したのか。


 映像だけでは断定できない。


 ただ、少なくとも、同じ動きを繰り返すのは危険だ。


「旭、そこは私も気になってた」


 セナが映像を覗き込んだ。


「ブースターで移動すること自体は悪くないと思う。でも、あの二体は旭が移動した後のことまで考えていたみたい」


「そうなんだよな。動きそのものを封じるんじゃなくて、俺が次に何をするかを予測して、そこを狙ってきてる」


 俺は映像を少し巻き戻した。


 今度は、フェンリルが床を凍らせた場面だ。


 俺が避けた先に氷を作り、踏み込める場所を限定する。その状況でガルムが突進してくれば、避けられる方向も限られてしまう。


「単純に出力を上げれば解決する、って話でもないか」


「うん。私がガルムを押さえられたのも、旭が動きを引きつけてくれたからだしね」


「いや、セナが受け止めてくれなかったら、神代も危なかっただろ」


 あの場面では、セナがガルムの攻撃を受け止めてくれたおかげで、神代への突進を阻止できた。


 俺だけでは間に合わなかったかもしれない。


 神代の援護がなければ、俺たちも攻撃の手を緩めざるを得なかっただろう。


 それぞれが自分の役割を果たしたからこそ、どうにか勝てたのだ。


「次に同じような相手と戦うなら、俺もブースター以外の選択肢を増やしておかないとな」


「そうだね。移動手段が一つじゃないほうが、私も合わせやすいし」


「ああ。助かる」


 俺たちは、しばらく映像を見ながら意見を交わした。


 とはいえ、今すぐ具体的な改善策が見つかるわけでもない。


 魔物の行動を予測するにしても、実際に遭遇したときに何が起きるかは分からないのだから。


 だからこそ、普段からいくつかの手段を用意しておく必要がある。


 俺はそのことを改めて心に留めた。


 ……よし、これで反省会は終了だ。


 そう思ったところで、セナが端末を手に取った。


「ねえ、旭。ちょっと見て」


「ん?」


 セナがこちらに画面を向けてくる。


 そこには、先ほどの配信を切り抜いた動画が表示されていた。


 タイトルは――。


『【必殺技爆誕】試作兵装の高出力収束放射機能、愛称はまさかのハートビーム!』


「……もう投稿されてるのかよ」


「早いね!」


「感心してる場合じゃないだろ!」


 再生数は、すでにかなりの勢いで伸びていた。


 動画の内容は、セナが堂々とハートビームと答える場面から始まり、俺が慌てて説明を補足するところまでをまとめたものだった。


 しかも、編集者はご丁寧に、実際にハートビームが発射される場面まで差し込んでいる。


 画面の中では、セナのMAが腕を構えた次の瞬間、鮮やかなピンク色の光が走った。


 その光は、どう見てもハート型だった。


 丸みを帯びた上部に、中央のくぼみ。下に向かってすぼまった先端まで、きれいなハート型だ。


 巨大なピンクのハートが、一直線にガルムへと飛んでいく。


 そして直撃。


 ガルムの巨体が、凄まじい勢いで吹き飛ばされた。


「…………」


「かわいいよね!」


「威力と見た目の組み合わせがおかしいんだよ!」


 俺は思わず声を上げた。


 いや、映像を見れば分かる。ハートビームという名前は、冗談でも何でもない。


 むしろ、見た目に関してはそれ以外の名前をつけようがない。


 問題は、そのかわいらしい見た目の攻撃が、魔物を吹き飛ばすほどの威力を持っていることだ。


「編集まで丁寧だな……」


「うん! 戦闘中の映像も、すごく分かりやすいね!」


「そこは確かにそうだけどさ……」


 俺はコメント欄を開いた。


『ハート型のビームで魔物を粉砕する女』


『かわいい顔して火力がヤバい』


『これもう魔法少女だろw』


『正式名称よりハートビームのほうが正確なの草』


『見た目がハートだから反論できないw』


『威力は本物なのに、攻撃エフェクトがかわいすぎる』


『黒瀬さん、諦めろ。あれはハートビームだ』


「最後のコメント、何なんだよ……」


「みんな、よく分かってくれてるね!」


「セナは少しは気にしてくれ!」


「え? でも、ちゃんと威力が出てるよ?」


「そういう問題じゃないんだって!」


 セナは、ますますきょとんとした顔をした。


 本人にとっては、十分な威力を発揮できる兵装であり、攻撃がハート型になっているだけなのだろう。


 確かに、実戦で使う以上、威力や照準、扱いやすさのほうが大切なのは間違いない。


 しかし、俺としては、あの見た目で真面目に戦闘しているセナの姿に、どうしても何か言いたくなってしまうのだ。


「ブラックフレイム、格好いいと思うけど?」


「セナまで言うな!」


「でも、旭の武装にも名前があるじゃない。イグニスとグラキエース」


「だから、それは武装の名前だって言ってるだろ!」


 どうやら、俺の主張はあまり理解されていないらしい。


 そもそも、あの二つは武装を識別するための名称だ。


 必要だから名前がついているのであって、別に必殺技の名前を名乗りたいわけではない。


 ……いや、待て。


 俺は、誰に何を説明しようとしているんだ?


「まあ、技名のことは置いておこう。それより、次の探索の準備をしないとな」


「うん。次はどうするの?」


「まずは装備の確認だな。それから、移動手段を一つに頼りすぎないように、戦い方を考えておきたい」


 ブースターが使えなくなることまで想定する必要はないかもしれないが、使いにくい状況になった場合の対処法は考えておいたほうがいい。


 それに、ガルムとフェンリルのような連携を取る相手が、今後も出てくる可能性がある。


 次も同じように勝てると思い込むのは危険だ。


「そうだね。私もMAの装備をもう一度確認しておくよ」


「頼む。あと、ハートビームの照準も、もう少し検証しておいたほうがいいかもしれないな」


「分かった!」


 セナは元気よく返事をした。


 ……よかった。


 話がようやく本筋に戻った。


 そう思ったのも束の間。


「ところで、次はどんなポーズにしようかな?」


「何の話だ!?」


「ハートビームを撃つときのポーズ!」


「いらない! 普通に撃ってくれ!」


「えー。でも、みんな喜んでくれそうだよ?」


「喜ぶかもしれないけど、そこを工夫する必要はないだろ!」


 セナは少し考え込んだあと、ぱっと顔を輝かせた。


「じゃあ、今度はポーズを二種類用意しよう!」


「増やすな!」


 ……駄目だ。


 どうやら、俺たちの次の探索には、魔物以外にも厄介な問題が待ち受けているようだ。


 その問題に頭を悩ませている間にも、協会からの連絡は届いていた。


 端末に表示された通知を確認すると、今回のガルムとフェンリルについて、追加の聞き取りを行いたいという内容だった。


 俺は、先ほどまでの騒ぎをいったん頭から追い出す。


「……今度は協会か」


「何か分かったのかな?」


「まだ分からない。とりあえず、話を聞いてみるよ」


 俺は通知を開き、指定された日時を確認した。


 今回の二体については、まだ分かっていないことが多い。


 どうして浅層に出現したのか。


 なぜ、あれほど息の合った連携を取れたのか。


 そして、以前に浅層で確認されたオーガの件と、本当に無関係なのか。


 今の時点では、何も断定できない。


 だからこそ、協会も情報を集めているのだろう。


「とりあえず、協会で話を聞いてから次の探索について考えるか」


「うん。私も一緒に行くね」


「ああ。よろしく頼む」


 俺は端末を置き、改めて装備の確認に取りかかった。


 次にどんな魔物と遭遇するかは分からない。


 だからこそ、準備を怠るわけにはいかないのだ。


 ……一つだけ気がかりなことがある。


「セナ」


「なに?」


「次の配信までに、ハートビームのポーズを考えるのはやめてくれよ?」


「えー、どうして?」


「どうしても何もない!」


 セナは首を傾げるばかりだった。


 俺は、もう一度ため息を吐く。


 次の探索では、ガルムやフェンリルのような魔物が現れるかもしれない。


 そのときに備えて、できることは全部やっておきたい。


 それなのに。


 どうして俺は、仲間の必殺技の演出についてまで心配しなければならないのだろうか。


 ……まあ、セナが楽しそうなら、それでいいのかもしれない。


 たぶん。


 きっと。


 そう思うことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。