第四話 花嫁修行 座学編
#第四話 花嫁修行 座学編
グレイグさまからの新婚旅行のお話をアリアさまに相談したところ、新婚旅行に着ていく動きやすいドレスと結婚パーティで着るドレスを作る事になった。
アリアさまは当時を思い出したのか、ご自身のパーティで着られたドレスを見せていただける事になった。
「私の時はこれだったけど、今見るととても野暮ったいわね」
「このドレスもアリアさまとお義母様とで一緒に作られたんですか?」
「そうそう、一緒に、とは言ってもお義母さまが口にした事に逆らえるはずもなく、ね」
「ですよね」
身分や立場を考えると想像出来るわ。
もちろんお義母様にも悪気はないし、むしろ頑張ってくれているはずだけど、本人と想いとはずれちゃうのよね。
「だからシェリルちゃんの作るドレスには口を出さない、私も作りたいように作ります。それで両方とも着ればいいわ」
「そんな事をしてもいいんですか?」
「もちろんよ。長々と食事が続くから、途中出て行って着替えればいいわ」
「なんてステキなんでしょう!お客様もきっとお喜びになりますわ!」
クリスタがそうやって褒めてくれるけど、喜ぶのは私とアリアさまだけになりそう。
ま、着替えるけど。
アリアさまとクリスタと私とでお屋敷に来た仕立屋を取り囲んでああでもない、こうでもないと言いたい事を言う。
仕立屋は意見を聞きながらラフなイメージを描いて見せてくれる。
アリアさまは豪華さを表現してらっしゃり、私はスタイリッシュで活動的に見えるような表現になる。
ここまで異なると途中で着替えても皆にはっきりと伝わると思う。
生地のサンプルも鞄にいっぱい詰めてきてくれて、全体を細かく分割して、部品毎に生地を変える事にした。
形だけでなく色味も二人とも異なるように選ぶ。
アリアさまが作られるものはアリアさまがお好きなラベンダーカラーを基調にしてある。
きっとアリアさまとお揃いになるように考えられてるのね。
私のはオーソドックスにピンクにした。
白も捨てがたいけれど、太陽の下で見た時に可愛らしいものがいい。
靴はグレイグさまとの身長差も重要なので形よりも先に高さを調整するために隣の部屋からグレイグさまを連れて来て並んで立っていただいた。
アリアさまも実の息子ながら気の利かなさに口が悪くなる。
「ほら、グレイグ。ぼーっと突っ立ってるんじゃないの。腕を腰に当てて肘を突き出してシェリルちゃんと組めるようになさい」
何となく間抜けなパーティになりそうだったので、グレイグさまも一緒にパーティの立ち居振る舞いの練習をする事になった。
一緒に歩く時もスタスタと歩くのではなく、一歩ずつ必ず脚を揃えて立ち止まるのを繰り返すと優雅な雰囲気が出る。
グレイグさまは背も高く脚も長いのでそうやってゆっくり歩いてもらわないと置いて行かれるという悲しい現実もある。
歩く練習をしながら靴の高さを調整し、グレイグさまの隣に立って見上げる。
その距離が靴によって近付くのでグレイグさまはいつもと違う距離にドギマギされている。
あ、まだおやすみのご挨拶をおでこにされてるだけの間柄ですよ?
色々な事を少しずつ繰り返しているうちに、頭の中でイメージが固まりつつある頃、閃いた。
「私、グレイグさまと一緒に観た劇中音楽を皆様にも聞いていただきたいですわ」
尤もグレイグさまには子守唄になったけれど。
あの劇は大変人気で各地で公演されたと聞く。お客様の中にはあの劇を見られた方もいらっしゃるはず。
一度閃くと、そこからなだれのように次から次へとアイデアが湧く。
「お客様に待っていただく時はゆったりとした音楽で、皆様お揃いになったら私たちが入場する。その時には別の音楽にしていただきたいの」
音楽、ドレス、それにお料理。
「アリアさま、各テーブルをグレイグさまと二人で回り、キャンドルに火を灯すのはどうでしょう。皆様とお話する機会が出来ますわ」
「さすがシェリルちゃん、それいいわ!ではテーブルのキャンドルは一つ豪華なものを置いておくわね」
会場全体がおもてなしの舞台となって、色々と皆様に楽しんでいただけるような時間が作れる気がする。
いつの間にか新婚旅行はそっちのけで結婚パーティの計画に集中していた。
途中、グレイグさまに抱き上げられて階段を降りて来る案も出て、実際に抱き上げられてしまった。
首に手を回すのが難しく、回すと顔をグレイグさまに押し付ける事になり化粧が取れてしまうのと、少し刺激が強いのでは?と言う事で却下された。
きっといつか抱き上げられたりベッドに連れて行かれたりゴニョゴニョ。きゃー。
花嫁修行の事をすっかり忘れてた。
「それではシェリル様、今日から座学も行います。主に伯爵夫人としての心得について」
「ええ、お願いしますわ」
クリスタが実技に引き続き座学も講師をやってくれるのは気が楽で嬉しい。
そう言えばクリスタが講師という事は当然クリスタも全てを理解している。
その事が少しだけ心に引っ掛かったけれど詮索しても仕方がないし今は学ぶ事だけに集中しなければ。
「さて、まずは爵位の説明を致します。一般の領民をまとめるのが男爵、男爵や領民をまとめるのが子爵、子爵をまとめるのが伯爵、伯爵をまとめるのが侯爵となります」
「うん、もちろん知ってるわ」
「説明の順は逆になりますが、王族が一番上にあり、その下に公爵が来ます。王族の血を絶やさないために、公爵は王族の血縁関係がほとんどです」
だからエミリーが時々話をしてた公爵令嬢なんてほとんどいないのよねー。
「王族の血を絶やさない工夫はまだあります。例えば正妃の他にも妃が何人もいます。子供が一人では成人出来ない可能性があるからです」
そうなのよね、愛し、愛される関係ではないのよね。
グレイグさまが私以外の女性も愛するなんて、悲しいわ。
「先ほど申しました、血を絶やさない、というは逆の言い方をすれば、王家さえ存続すれば、そこに立つのは誰でもよい、という事になります」
ヴェルナー家でいえば、お父上のグリス様でも、グレイグさまでもどちらでもヴェルナー伯爵、という事ね。
「では、グレイグ様に悪い噂が立ったらどうなるかお分かりですか?」
「ヴェルナー家を守るためにグレイグさまが処罰される、かな?」
「おっしゃる通りです。ではグレイグ様がお継ぎになったあと、グリス様に悪い噂が立った場合はどうでしょう?」
「もちろんグリス様が処罰されるわね」
「正解です。実の父親であっても家を守るために切り捨てます。ではグレイグ様がお継ぎになられたあと、グレイグ様に悪い噂が立った場合はどうでしょう?」
「難しいパターンね。当主が倒れるわけにいかないから、皆が納得する別の罪人か言い訳を作るのかな?」
「さすがシェリル様、大正解です!ヴェルナー伯爵はヴェルナー伯爵という立場を守るために出来る事は何でもします」
「ああ、そうか。伯爵の下には子爵や男爵、それに領民もいるものね。伯爵の地位が揺らぐと下の者達の立場も危なくなる。だからなんとしても伯爵の地位は守らなければいけない」
「よいところに気付かれましたね。そうなんです。自分の立場だけでなく、爵位が下の者の立場も悪くするので爵位を守る事が全ての優先順位に勝るのです」
「じゃあ仮に原因が不明でも伯爵家にとって悪い噂であれば、原因を無理にでも作って解決した、と見せかける必要があるのね」
そんな怖い事は中々起きなければいいけどね。
高すぎる身分は一人の妻を愛する事も叶わず、二人だけの世界を作る事も叶わず、皆を納得させるために愛する家族を犠牲にしなければならない、とても幸せとは縁遠いと思わざるを得ない。
その代償が日々の豪華な食事なのかしら?
きらびやかな衣装なのかしら?
急に屋敷の中が慌ただしくなった。
何事かとクリスタが様子を伺いにいく。
そしてすぐに青ざめた顔をして戻って来た。
「ノール様が……狂刃に襲われました」




