第二話 シェリルの里帰り
#二話 まえがき
グレイグのつぶやき
普段のシェリとの会話ではさらっと流してしまうような友人や家族の名前。
シェリと結婚したら、当然紹介されるはず。
念の為復習しておくか。
エミリー・メルヴィル子爵令嬢。
シェリの幼い頃からの友人だ。決して忘れてはいけない名前だ。
ルースと恋仲だ。
ルース・ラングリス子爵子息
シェリの兄だ。
賊に襲われたところを加勢してもらった恩もあるしそもそもシェリを連れて来たのは彼だ。
忘れるはずがない。
エミリーと恋仲だ。
ドミー・ラングリス子爵
シェリの父だ。そろそろルース殿に爵位を譲るのだと思う。
エリア・ラングリス子爵夫人
シェリの母だ。シェリを産んでくれてありがとう。
アルドワーズ伯爵
見た事はないが、シェリルの実家ラングリス子爵やエミリーの実家メルヴィル家が仕えている伯爵だそうだ。
マーシャ。
我が国境守備隊の部下、バルトの妻。
バルトの間にはコレットという娘がいる。
シェリとも仲が良いし、そもそも忘れるはずがない。
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#第二話 シェリルの里帰り
マナー講習は先に進み階段を昇り降り出来るようになった。
かつて色んな令嬢が通って来た道、アリアさまだって間違いなく通って来たと思うと苦にはならない。
むしろアリアさまは泣き言をおっしゃらなかったのかしら。
今日のお茶はウーバね。
爽やかな香りとカップの縁に出来た金の輪がステキ。
「ウーバもステキね。この金の輪、ハート型にならないかしら?」
「ステキな思い付きですね。シェフに言ってみます」
クリスタが当たり前にいうので驚いた。
「出来るの?」
「シェリル様を見ているとチャレンジしないのに出来ないと言うのが失礼と皆頑張ってるんです」
それはとても嬉しい。
皆が頑張ってるところを見たら褒めておこうっと。
その時部屋のドアが静かにノックされた。
「バートンでございます」
執事のバートンは私が客室からグレイグさまの隣の部屋に引っ越してから私をヴェルナー家の一員と認めてくれている。
「はい、何かご用ですか?」
私が答えるよりも早くクリスタが答える。
「お嬢様にお手紙が届いております」
わあ、誰かしら。
グレイグさま?
手紙の封筒に封をするシールスタンプをお揃いで買ってから、時々手紙をくださる。
それともエミリーかな?マーシャさま?
エミリーもマーシャさまも頻繁に手紙をくれる。
クリスタがバートンから手紙を受け取って来てくれた。
差出人は、ルース兄さまだった。
てことは気を使ったお父さまかお母さまだ。
親愛なるシェリル
そちらの暮らしはどうだ?
帰って来ないところを見ると楽しくやっている事と思う。
分かれの言葉も交わさないで出て言ったのでエリアが寂しがってる。一度帰って来てくれないか?
ドミー・ラングリス
なるほど。
お母さまが寂しがってる、か。
それならお母さまが書けばいいのに、わざわざお父さまって事は何か訳があるのかな?
また秘密の活動をしちゃうわけか。
私は手紙の事を伯爵とアリアさま、それとグレイグ様に話して一度帰る事にした。
「シェリ、出来れば一緒に行きたい。必ず戻って来てくれよ」
見送る際にグレイグさまは私を抱きしめながらそうおっしゃった。
最近のグレイグさまは、なんというか人前でも平気で感情を表に出されるようになって来た。
こちらが恥ずかしいくらいに。
ヴェルナー家に来た時は二日掛かりで馬車に揺られたのでお尻も痛かったのに、帰る時は馬の数も増えて早い。
クッションもいいものになって当たり前だけどお尻が痛くない。
さすが伯爵家。
しかも!
ヴェルナー領内では休憩ではなく所々にある駅で馬を丸々交換してしまうのであっと言う間にヴェルナー領を出てしまった。
さすが伯爵家。
結局朝出て来たのに、夜には我が家に帰り着いてしまった。
「ただいまー」
「シェリル!」
お母さまが抱きしめてくれる。
それから顔を見せてと顎を持ち上げ、感動してもう一度抱きしめられた。
「シェリル、お腹は減ってないかい?ご飯は食べさせてもらってるんだろうね」
お母さまは意地悪な継母にいじめられる話が好きだから、こんな冗談を言う。
「大丈夫ですお母さま、庭園の花の蜜を吸っていますから」
「あら、伯爵家ともなるとさぞ美味しい薔薇があるんでしょうね」
話しながらファミリーサロンに行くとお父さまとルース兄さまがいらっしゃる。
「お父さま、ルース兄さま、ただいま」
「おお、シェリル!見ぬ間に立派になったな!」
お父さまは適当だ。
「いや本当に。伯爵夫人としての風格が出て来たような」
ルース兄さまも適当な事を言う。
「グレイグさまはあと半年もすれば守備隊を退役なさって、伯爵様を継がれるんですって」
「いよいよか。ではエリア、存分にシェリルを眺めておきなさい」
お父さまはお母さまの事をなんだと思ってるのか。
「それで、お話というのはなんですか?」
「さすが我が妹、察しがよい。もう一度ヴェルナー領の史書館で調べ物がしたい」
「何か動きがあるんですね?」
こういう、裏でこっそり動くのは楽しい。
ラングリス子爵家が仕えるアルドワーズ伯爵領にも史書館があるけれどそれだと内緒に調べる事が出来ないから、ヴェルナー領の史書館に行きたいのね。
それで私を呼んでヴェルナー領への帰りにルース兄さまが護衛してくれて、ヴェルナー領の史書館で調べ物をする。
そういう筋書きか、なるほど。
「ああ、アルドワーズ伯爵が代替わりする話が出ている。そこでラングリス家も代替わりする」
「ルース兄さま、おめでとうございます」
ようやくルース兄さまが子爵になるのね。
「それから、子爵団を作る話、これに我がラングリスも統括子爵として名乗りをあげる」
政治の話は面白くない。
あ、今閃いた。
エミリーはルース兄さまの事が好きだし、ルース兄さまも幼い頃から知っているエミリーの事が好き。
私はエミリーにルース兄さまにくっついて欲しいと思ってる。
「エミリーをヴェルナー家に遊びに誘います。ルース兄さまはエミリーを護衛してください」
「まあ、エミリーちゃん!?」
お母さまが目をキラキラさせて反応した。
この一瞬で私の企みを察したみたいだ。
「エミリー嬢か。わざわざ頼むのもどうかな?」
ルース兄さまはそれほど乗り気じゃない。
確かにエミリーを巻き込む必要はないものね。
「バルト様やマーシャさま、コレットちゃんにもお礼をしたいし、ヴェルナー家の皆様にも何かプレゼントしたいし」
「それならエミリーちゃんが適任じゃないの。一緒にお買い物に行けばいいわ」
お母さまも援護してくれる。
「まあ、そりゃあそうだが」
「シェリルだけじゃなくて、ルース、あなたもバルト様にはお礼が必要でしょ?」
お母さまにはルース兄さまがバルト様のお酒をたくさん飲んでしまった事は報告済みだ。
「げふんげふん、まあそうですね。男同士の語らいは楽しかったです。改めてお礼をします」
「ではそれで決まりだな。エリアも異論はないな?」
「もちろんよ。エミリーちゃんなら最高よ」
お父さまとルース兄さまは結局企みに気付かなかった。
その晩はお母さまと盛り上がった。
エミリーがルース兄さまを見つめる目は恋する乙女。
お母さまももちろん同意見。
ルース兄さまがお嫁さんをもらうならエミリーしかいない。
これも同意見。
エミリーに出す手紙を二人して推敲し、絶対にルース兄さまを誘うようにした。
ああ、将来が楽しみだわ。
ヴェルナー領で会うために今回はあえてエミリーを訪問せずに帰った。
荷物もさして増えず、お土産はエミリーに任せて気楽だ。
あ、グレイグさまは特別にお土産買っちゃおうかしら。
途中で街に寄りお揃いのカップを買う事にした。
馬車を引く馬の多さに偉い貴族の方と勘違いされてしまい、図らずもマナーの特訓が活かされた。
馬車のステップを優雅に降りるのはとても大変。
普段使いの軽い物もいいけれど、ピクニックに持っていける丈夫な物もいい。
悩んだけれど、馬と鷹はきちんと合わせておいた。
グレイグさまと私だけの二人のマーク。
それだけで嬉しくなる。
馬車は来た時と同じように先を急ぐかのように走り続けた。
もちろんお尻は痛くない。
ヴェルナー領に入ってからは更に早くなる。
距離感が掴めて来たのもあるけれど本当に早い。
グレイグさまは朝お仕事に出掛けられて夜遅くに帰ってらっしゃる事が多いけれど、グレイグさまよりもきっと早くたどり着くと思う。
んんーっ
馬車を降りて背伸びをした。
今日はお休みのノール様とアリアさまがお迎えに出て来てくれた。
アリアさまもお母さまと同じように私をまず抱きしめ、顔を見せてと顎を持ち上げ、そしてまた抱きしめられる。
馬車を用意していただいた事にとても感謝し、両親に顔を見せてこられた事を報告した。
「母が寂しがっていると手紙に書いてあったのは、やはり嘘でした」
「父親は娘がいなくなるのは寂しいものなのよ」
アリアさまもお見通しだった。
「それと、今回お土産は友達のエミリーに頼んだのですけど、一度遊びに招いてもよろしいですか?」
「もちろんよ、シェリルちゃんのお友達なら大歓迎よ」
「ルース兄さまが護衛で付いてきます」
「なるほど、そういう事なのね」
アリアさまはまたしてもお見通しだった。
それからディナーの席でヴェルナー伯爵に改めてエミリーを呼ぶ許可をいただいた。
「ああ、シェリルの兄が護衛なら間違いないな。それにしても子爵を継いでもいないのに大変だな」
他家の事、あえて口には出さないようにと濁した言い方だけど伯爵様は何かお見通しのようだった。




